第229話 首の無い騎士
ソフィアからドワーフ国について話を聞いた俺は、防具の修理はしばらく諦め、大人しく迷宮に潜る事にした。
俺がいるのは迷宮の地下81階。
目標の地下100階までこの階を含めて後20階分ある。
ただ、一つ一つのフロアが迷路によって入り組んでいる為、その倍以上の階層を攻略している気分だ。
この階にもモンスターの気配はないのだが、さっきからパッカパッカと馬の
「……ここもハズレか」
俺が迷路の行き止まりにぶつかって引き返そうとした時、蹄の音がより一層大きく、俺に近づいていた。
――来る。
俺はダマスクスダガーを引き抜くと、モンスターの襲来に備えて身構える。
曲がり角を曲がって、俺の前に姿を現したのは首の無い騎士だった。
……デュラハンか。
一般的なデュラハンといえば自身の首を脇に抱えているものだが、このデュラハンは首は持っておらず、代わりに槍と盾を携えており、より戦闘向きのスタイルをしていた。
「『
先手必勝、俺はデュラハン目掛けて火の玉をぶっ放した。
デュラハンは盾を前面に押し出し、俺の魔法を受け止める体勢を取る。
そんな盾で俺の『
――と思っていたら、なんとデュラハンの盾は俺の魔法を防ぐ所か、反射させて俺に魔法を送り返して来た。
「そんなの反則だろ?!」
俺は慌ててもう一度『
迷宮内に爆音響き渡り、爆風によって俺の頬がジリジリと火傷しそうなくらい熱くなっているのを感じる。
爆煙が収まらない内に、デュラハンは槍を構えて俺に突進して来た。
「ちぃ!」
俺はダガーで槍を受け止めるが、見た目以上のバカ力で槍を押し込んで来る。
俺は槍を防ぎ切れずに、体を逸らして槍を受け流す事にした。
これまでは、"1"の付く階層は弱いモンスターが出て来るのが定番だったのだが、地下81階に関してはそうでもないらしい。
しかし、どんなにモンスターが強かろうとも攻撃手段が武具によるものなら、やりようはある。
俺は『速力上昇』を使ってデュラハンの脇を素早く通り抜けると、すれ違いざまにヤツの盾を『スティール』で盗んでやった。
「フン、これで魔法は反射出来ないだろ――って、重っ!!」
ガァン!
俺がデュラハンの盾をこれ見よがしにヤツに見せつけようとしたら、あまりの重さに思わず盾を地面に落としてしまった。
デュラハンはその隙を逃すまいと、再び俺に槍を突き出して突進して来た。
だが、もうその手は食わない!!
「『『
俺の周囲に放たれた爆風がデュラハンに触れるや否や、風は爆発を起こして馬ごとデュラハンを迷宮の壁に叩きつけていた。
デュラハンはそのまま消滅すると、魔晶石へと姿を変えて行った。
…………ふぅ。
俺は魔晶石を拾いながら、ホッと一息ついた。
ミスリルゴーレムそうだったが、魔法が効かない相手というのは厄介だな。
俺が魔法を使え無かった頃、よくもまあモンスターを倒せたものだと自分に感心してしまう。
それにしてもデュラハンの盾、か。
惜しいかな、ヤツが消滅したと同時に盾も消えてしまった。
魔法を反射するなんてこんなに便利なものは無いのだが、如何せん俺には装備出来ないし、出来たとしても消滅しちまうんじゃあ使いようがない。
……そうだ、今度セシリア主任に魔法を反射する道具でも開発して貰おうか。
それがあれば魔族やゴットフリー将軍とも互角以上に戦えるはずだ。
思いついたアイデアを胸に、俺は迷宮探索を続ける事にした。
行き止まりだった道を引き返して三方の分かれ道に差し掛かった所で、再び蹄の音が聞こえて来た。
それも今度は複数である。
気が付けば俺は三方をデュラハンに囲まれてしまっていた。
逃げ道は今通ってきた行き止まりへの道のみ――つまり、袋のネズミというわけだ。
デュラハン達は連携も出来るのか、俺に向かって一斉に騎馬突撃を敢行してきた。
俺は『跳躍上昇』を使ってデュラハン達の攻撃を真上に避ける。
デュラハン達は俺が重力に従って落下して来る間に突き刺してやろうとばかりに、槍を構えていた。
しかし、俺は落下せずに指輪の飛翔魔法を使ってその場に留まっていた。
すると、デュラハン達は槍を俺に向かって投擲して来た。
おいおい、そんな事までするのかよ?!
俺はギリギリの所で槍をかわすが、一本が脇腹をかすめて行った。
ちっ、狭い迷宮の中で空中にいると思ったように動けないな。
俺はデュラハンから距離を取るようにして地面に着地する。
デュラハン達の槍は天井に突き刺さっていたが、彼らはその槍を引き寄せるように手元に戻していた。
おいおい、物理法則を無視すんなっつの!
デュラハン達は再び騎馬突撃を繰り出して来た。
俺は『速力上昇』を使いながらデュラハン達の連携攻撃をかわしつつ、一体のデュラハンから『スティール』で槍を盗んでやる。
「――重っ!!」
盾と同じく槍も凄まじい重さであり、とてもじゃないが俺には持てない代物だった。
隙有りとばかりに槍を持っている二体のデュラハンが俺に突進して来る。
俺は再び槍を『スティール』して槍を奪ってみせる。
しかし、最初に俺に槍を盗まれたデュラハンが、地面に落ちている槍を手元に引き寄せて再度攻撃に加わって来た。
……あぁもう、キリがねえ!!
槍は重すぎて一度に何個も盗めないし、やはり狙うは盾か。
俺は突撃を繰り返して来るデュラハンの一体から盾を盗むと、盾を失ったデュラハンに向かって魔法を放つ。
「『
しかし、盾を持っているデュラハンが盾無しデュラハンをかばい、俺の魔法を反射させて来る。
「そんなのありかよっ?!」
俺反射された自分の魔法を食らって、その場で動けなくなってしまった。
動けない俺に向かって、一体のデュラハンがトドメとばかりに突進して来た。
このままじゃやられる――?!
「――なんつってな。『フラッシュダガー』!!」
突如、俺が放った眩い光が迷宮を照らし出す。
光の所為で突撃して来たデュラハンには俺の位置が見えていないハズ。
『
他のデュラハン達は、一瞬の出来事に何が起きたのか理解出来ていないのか、少しだけ後退を始めていた。
逃すか――!!
俺は『速力上昇』を使って一気に二体のデュラハンの間に割って入ると、馬ごとダガーで切り刻んでやる。
残っていた二体のデュラハンも消滅させた俺は魔晶石の回収に勤しんだ。
全く、面倒なモンスターだな……
早く下へと下りる階段を見つけて、デュラハン達とはオサラバしたいもんだ。
俺が独り言のようにそんな事をブツブツと呟きながら歩いていたら、不意に目の前の景色が変わった。
…………どうやら、ワープトラップに引っかかったようだ。
つーかこの場所、俺が最初に階段を下りて来たスタート地点じゃないか。
もうやだ、この迷路…………
俺はくじけそうになりながらも、気力を振り絞って迷宮探索を続けるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます