第12話 写生会① バラ園

次の週末、和泉さんと隣県の国営公園へ。

前回の反省から、途中の駅まで迎えに来てもらうことになっていた。


「すみません…迎えに来させてしまって」

「構わないよ。いつも乗らない電車からの風景も楽しいから」


そういう和泉さんは電車に乗っている間、ずっと窓の外を見ていた。


私が電車で読書をしてよく暇をつぶしているように、和泉さんは景色を眺めているのが好きらしい。

本を読みながら、時々和泉さんの横顔を眺めた。


口の端がほんのり上がっていて楽しそうだ。


なんだか秘密を垣間見てしまったようで、私もにやりとしてしまって。

マスクが無かったら変な人に思われていたかも。



電車に揺られ1時間、バスで30分ほどかけて、国営公園に着いた。


「ここは通称 “なないろ公園”」

「七色って、まさに絵を描くのにぴったりですね」

「確かにね。季節ごとに色とりどりの花が見られるから、そう言って親しまれてるんだ」


ゲートに並ぶ。

日曜日だからか、子ども連れの客が多い。

チケットを買って入場すると、風に乗ってふわりと華の香りがやってきた。


「……薔薇?」

「今のシーズンはバラ園が見頃なんだよ。行ってみようか」

「いいですね」


並んでゆっくり歩いていき

小さな薔薇が咲く緑のアーチを超えると、


「わあ……」


淡い色合いの薔薇と草花が同居した空間が広がっていた。薔薇を植えてある地面は区画ごとにレンガで仕切られ、その間が舗道されている。

所々にベンチが置かれ、中央には東屋のようなものもあった。


「落ち着く場所ですね」

「自然らしさを大事にしたガーデニングを意識してるエリアなんだ」

「……あれは?」


少し遠くに、木の小屋のようなものがありのぼり旗が風にゆらめいている。


「”薔薇アイス“…?」

「そこのカフェで期間限定で売り出してるソフトクリームだよ。あとで食べてみる?」


こくりと頷いた。

薔薇アイス……どんな味がするんだろう。

のぼり旗のイラストはピンク色だしいちご味??


開店は13時とのことだったので、次のエリアへ。


「いい香り…」


そこは香りのエリア。

目を瞑るように促されその通りにすると、より香りがはっきり感じられる。

目を閉じたまま、手をひかれて歩いていく。

時々止まって、利き茶ならぬ利き薔薇をしていた。


「どんな風に感じる?」

「フルーツみたいな、甘い香りです」

「こっちは?」

「………お茶??」

「じゃあこれ」

「あ、正しく薔薇って感じの香りですね!!」


それから暫く目をつむったまま和泉さんに着いていく。急に立ち止まり転びかけた体が支えられた。


思わず目を開くと、飛び込んできたのは色とりどりの薔薇。


真紅だけじゃない。


淡いピンクや白、黄色、オレンジ色……。

青々とした葉と、空の蒼とあいまって鮮やかなそれらは現実離れしていて、異世界に迷いこんだようだった。

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