第9話 目的地到着!

電車に揺られ1時間半、徒歩で10分。

それは住宅地の中ほどにあった。


「……ここは?」

「今日の目的地、アートギャラリー“ホワイトキャンバス”だよ」


窓や扉を除き一面白い壁の建物はその名の通り、何も描かれていないまっさらなキャンバスのようだった。

筆をとって色鮮やかな世界を描きたくなる。


「ここは、若手の画家に場所を貸し出して作品展示をしてるんだ。今日展示されてるのは僕の学生時代の友人でね。この二週間手伝いをしていたんだ」

「和泉さんのご友人が」

「そう、まあ……腐れ縁のね」

「へええ」


芸術家の知り合いがいるのか。

考えてみると和泉さんの個人的なことってほとんど知らない。

これまで三回会った中で知っているのは……名前とメアドくらいだ。

どこで何をしている人なんだろう?


「そういえば和泉さんって大学生ですか?」

「え、ああ……うん一応」

「私は大学二年生なんです。和泉さんは?」

「大学四年生、かな」

「じゃあ私の二歳年上ですね!」

「……そうかもね」


なんだか歯切れが悪いような?

疑問に思って口を開きかけるが、


「まあ気になる質問はあとでね」


と言われ大人しくすることに。

アンティークな黒のドアハンドルに手がかけられ、ドアが開いていく。


「小鞠さんの気に入る作品があるといいな」


ドア上部に取り付けてあったベルが、カラカランと気持ちのよい音をたてた。


入口入ってすぐのところで受付をする。


「あ、相馬君来てくれたんだ〜」

「お疲れさまです。あいつは?」

「水樹君ならさっき昼飯〜!!とか言って出てったよ。10分くらい前かな」

「そうですか。来たらこっち来ないように足止めしといてください」

「はいよ〜お二人とも楽しんでいってね」


にこり、とショートヘアの女性に笑いかけられる。綺麗な人だなあと思いながら会釈をかえして、和泉さんのあとを着いていった。


「和泉さん」

「うん?」

「敬語、新鮮ですね」

「ああ。……敬語の僕の方がお好みですか?小鞠さん。これからはこのように話しても?」


右手をとり、騎士の誓いのようにその甲へ唇を寄せられる。

いつもなら恥ずかしい、とか思うかも。

けれどその英国紳士みたいな仕草が大仰で、聞き慣れない敬語と相まっておかしくて思わず笑ってしまった。

「いつも通りでいてください」

「そう?」

すっと手が離される。


「そういえば初めて会ったときから和泉さんは敬語じゃなかったですね」

「そうだね。君と仲良くなりたかったから」


なんでもないことのように軽く放たれた言葉。

動揺して上手く返せない私に腕が差し出される。


「じゃあお嬢様。行きましょうか」

「ま、まだ続いてるんですか、それ」

「君が好きかなと思って」

「私をか、からかって遊んでますね!?」






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