第6話 変化と通知
あれから二週間ちょっと。
和泉さんからの連絡はない。
私はそんなに人と連絡をとることはなく、スマホを触ることも少ない。
けれど最近は、ピロンと通知音が鳴るたびに確認する癖がついていた。
ーーまた、ただの迷惑メールだった。
スマホの電源を切る。
暗くなった画面に、眉を下げた私が映る。
ひとつ溜息をついてスマホを伏せて横に置いた。
和泉さんと次の約束はしてない。
元々気まぐれで一緒に美術館をまわることになっただけだったから。
初まりは唐突で、終わりもまた呆気ないのか。
どこか残念に思う自分がいることに気づく。
私は普段誰かと行動することが少ない。
家族とは離れて県外に一人暮らしだし、出かけるような友人もほとんどいない。
久しぶりに人と一緒に美術館を巡って、話が弾んで楽しかった。
その反動で人恋しいだけ。
……ただ、それだけだよ。
そう心に言い聞かせて私はスマホをマナーモードにして出かけた。
電車に乗って揺られながら本を読む。
だが目が滑ってうまく読めない。
諦めて本を鞄に戻すと、指先にスマホがあたった。
……次見に行く美術展示探してみようか?
なんとなくスマホを開いてみる。
検索サイトで新しい企画展の情報を漁る。ううん、あの美術館で気になる展示は近くにないなあ。
半年後の印象派展は気になるかも。
美術の教科書でしか見たことなかったし、行ってみようかな?
けれど電車で片道6時間かかる県外だ。一人で県外旅行なんてしたことないし緊張する……地元の外で一人暮らししてるなら大丈夫でしょ?って言われるけどそういう問題でもないのだ。
詳細情報を確認していると画面の上部にメッセージ通知が来た。
〈相馬和泉〉
……!!
すぐさま通知をタップする。
『明日、空いてる?』
本文はそれだけ。
何をするのか、何があるのか分からない。
けれど私はすぐに空いてる旨を返して、明日一緒に出かけることになった。
明日、明日会えるんだ。
今日まで自分の心の中を巣くっていた憂鬱な気分が吹っ飛んでほわほわするような暖かい感情に満たされる。
ピコン、と新しい通知。
見ると待ち合わせの場所の地図が送られてきていた。
隣県の駅。
初めて行く場所で、乗り換えも多い。
……ちゃんと辿りつけるかなあ。
方向音痴の自分に不安になりながらも分かりました、と返しておいた。
ーー結論。乗り換えに失敗した。
見知らぬ駅の誰もいない駅舎で呆然と突っ立つ。
田んぼ畑の青い稲が風に揺れて、空の青に生えて綺麗だなー……。
現実逃避をしていた私だが、待ち合わせの時刻には到底間に合いそうにないことに気がつき慌てて泉さんに電話をした。
その駅まで迎えに来てくれた和泉さんは、即刻全身全霊で謝った私を見て、おかしげに笑った。
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