第5話 おそろいの

グッズコーナーに着いたころには心臓も落ち着きを取り戻していた。


まずポストカードを見に行く。


回転ラックを回して気に入った作品を探す。

一番のお気に入りは月光の下で楽器を弾く小人。

残念ながらこれはなかった。


くるくると回して、気になったものを手にとって比べてみる。

……ううん、迷うなあ。


結局、厳選した10枚を買うことにした。


他の雑貨類も見てみよう。

移動したとき、和泉さんがいないことに気がついた。

きょろ、と辺りを見渡すとグッズコーナー外のラウンジの椅子に腰掛けていた。


なんだか神妙な顔をしているような?

……さっき余計な気遣いをさせてしまったから気疲れしているのかもしれない。

気にしなくていいとは言っていたけれど、助けてもらったことの御礼しないと。


何かいいものがないかと探す。


メモ帳……は可愛いけどなんか違う。

そういえば、和泉さんが止まって見てた切り絵あったなあ。

あの絵のポストカードとか。

でも、御礼の品としては200円のポストカードは弱いかなあ。


……そもそも、ここのコーナーで買うのが間違いなのではないかと思いはじめたとき。


あれだ!

あるものが目に入って、私はすぐにそれを買うことに決めた。


「すみません、お待たせしました」

「いや。いいものは買えた?」

「はい」

「じゃあ、そこのレストランに入らないか?今コラボメニューをやっているらしいんだ」


コラボ、メニュー??


「君がグッズ見てるときにちょっと周囲も見てたんだけど、数量限定で隠れ小人パンケーキ、ってのがあるんだって。好きそうかなって思ったんだけどどうかな」

「行きたいです!!」

「じゃあ行こうか」


レストランに着いて、席に座りパンケーキを頼んだ。

出来上がるまで少し時間がかかるらしい。

窓の外を見ている和泉さんの前に、私は紙袋を差し出した。


「……?これは」

「助けてもらったことの御礼です」

「別に、そんなのいいのに」


「実は私も同じの買ったんです」


自分の分の箱から、グラスを取り出す。

そこには、咲いた花のように広がったドレスを着た女の子と、彼女に花冠を被せてあげる男の子の画があった。


光と影の企画展で数点しかない、小人以外のモチーフを題材にしたもの。

和泉さんが足を止めていた作品のひとつでもある。


私はそのグラスをシャンデリアの光に透かしてみせた。黒い部分以外の切り抜かれた部分にはめられたドレスの赤、花冠、男の子の青服が淡く光る。


「とっても素敵だったから、和泉さんにも受け取ってほしくて」

和泉さんはどこか心あらずといった様子でグラスを見つめていた。

グラスを箱に戻していると、前方から。


「ーー小鞠さん、ありがとう」


その微笑みはこれまでの愉悦を含んだものではなく、確かな実感のこもったもので。

なんだか胸がくすぐったいような気がした。


それから私達は隠れ小人パンケーキを楽しんだ。


パンケーキに小人が書かれているのかと思ったらそうではなく、クリームや果物などに隠れているチョコの小人を探す、というものだった。

人によって隠されていた位置は多少違っていて、和泉さんとわいわい言いながら美味しく頂いた。



余談。

家に帰ってからグラスを見つめていた私はとある事実に気がついた。


ーーあ。これ、おそろいだ。

おそろいのグラス持とうって渡しちゃった。


しばらくの間、顔を隠して悶えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る