第4話 恐怖心?

美術館に到着。


抜けるような青空の下、新緑の葉が揺れる。

心地よい空気とは裏腹に平静でない心。


バスに乗ってから、めっっっちゃ見られていた。


視線に耐えきれずばっと横を向くとにこりと和泉さんは綺麗な微笑みを向けてきた。


「どうかした?」

「いえ、なんでもないです」


顔を前に戻すとまた視線が。

……いや、なんで!?ツッコミ待ちなのか?

と疑うほど和泉さんに観察されていた。


〈横顔観察宣言〉があっても、あからさますぎ。

“触らず、気づかれず、そっと盗み見る”を信条としなくちゃ。

さんっ、はい。

観察は人に迷惑をかけない程度で!


……いや、まあ、私も「好き」とか口に出してしまったけど……。


朝から緊張し通し。

ぐったりとしていた私だったが、企画展示のポスターが目に入ってテンションが浮上する。


そうだ、今日は光と影の企画展だ!

受付でチケットを見せ、会場内に入る。


照明を暗くおとした空間の中、下からスポットライトに当てられた影絵の半透明ビニールが赤や青、黄色、緑と光って浮かび上がる。

その上で小人たちが踊り遊ぶ幻想的な雰囲気が創り上げられていた。


時には森や川のそばで、

時には都会の喧騒の中で、

時には廃棄された遊園地で、


帽子をかぶった黒い小人たちは誰の目も気にせずやりたいように遊んでいる。

お伽噺のような世界。

ーーやっぱり、好きだなぁ。わくわくする。


展示室を出て、一階のグッズコーナーへ向かう。

階段を降りる途中隣から声がかけられた。


「幻想的で美しい世界だったね」

「!そうですよね」


私は作家の世界観が褒められたのが自分事のように嬉しかった。


「昔、両親にこの作家の企画展に連れてきてもらってからずっとまた来たいって思ってたんです!やっぱり記憶通りに夢見たいな世界で、ほんとうに来て良かった!和泉さんにも気に入ってもらえて嬉しいです」


思い浮かべては頬が緩む。

「……そうだね」

あれ?なんだか和泉さん戸惑ってる?

ふと疑問に思って首を傾げーー。

あ。


目と鼻の先には端正な顔が。

一歩間違えば口が触れてしまいそう。

こ、興奮のあまり近づきすぎた。


焦って離れて、足を滑らした。

階段はまだまだ残っている。

あ、死ぬーー。

反射的に目を瞑る。しかし覚悟していた衝撃は来ず、後ろから抱きとめられていた。


身体が震えて、心臓が鳴りやまない。

あれた息が落ち着いたころ、足が浮いた。かと思うと手すりの横にとんと降ろされた。


「君はこっち」


「え、あ……はい」

「ちゃんと手すりを掴んで降りて」

「はい」


言われたとおりにして大人しく階段を降りた。

一挙一動が見守られている。ふらつくと、すぐに支えられた。


階段の一番下につき、心臓をほっと撫で下ろした。


「あの、ありがとうございました」

御礼を言うと、和泉さんは頭を振った。

「僕が驚かせた部分もあるし気にしないで」


手がのびてくる。

「ただ、いつも隣で助けられるわけじゃないから気をつけて」

軽く触れるように私の頭を撫でたあと、すっと和泉さんは歩き出した。


触れていた部分が熱い。

落ち着きを取り戻したはずの心臓が奔る。


ーー落下しそうになった恐怖がぶりかえしたのだろうか?






















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