残り香とか蛇足とかそういうやつ

ああ

コクピットハッチの強制開放レバーをハーフコックで握り込んだまま硬直してたルフィを押し除け、ハマミ機のハッチを全開放する。


数百度はあるかという蒸気が吹き出し顔を焼く。

構わず飛び込むが、体皮や肺、眼球が焼かれたのか、僅かに動けなくなる。


しかし墜落中()から掛けていた持続系の回復魔法によりたちまちのうちに回復し、狭いコクピットの中、足元に薄く貯まった沸騰する謎の液体へ足を付け立ち上がる。


「こりゃあ…めたくそ苦しんだな」


開いたメットのバイザーから覗く、真っ黒に炭化したハマミの顔。

カラダは断末魔、宙にある何かを掴もうとあらんかぎりに伸ばした両腕と、先に焼けた背筋にひっぱられたのか、逆エビに背骨を曲げて後頭部は尻へ着かんばかりという姿が、死への苦悶をこれでもかと凄惨に訴えていた。


外部から新鮮な外気が流れ込んだせいか発火、発煙している個所もある。

俺の機が落ちた辺りに丁度いい河原があったな・・・などと、バーベキューに使う炭の用意の算段へ思考が流れる。


・・・俺、脳の損傷が回復し切ってないのか?


つか、おかしいだろ。

ハマミは宇宙の改変を行った筈だ。

自らの存在を柱にして。

ハシラ、というよりも発動体か?

重力制御に関わる論理式の係数への介入・・・パワーサプライとして、等を行っていたのではなかったのか。


消えたら、人も原子も・・・星も宇宙も全てがその存在に破綻を起こし、消えると思ってたんだが。



ま、とりあえず生き返してからだな。


「ハマミにリザリザ~♪」


ほっぺーん☆と神々しい感じの管楽器が鳴り響き、炭化し断末魔のまま固まった筈のハマミの体がしなやかに浮き上がり、金冠が弾けて広がるにあわせ、地に足を・・・パイロットシートへと座す。


脱げ落ちたメットがシェル内のRに沿って転がり落ちてくる。


拾い上げ、ハマミに差し出したところで、違和感に全身が総毛だった。



「・・・ジュリアン、いえ。ハイジ・アユサキ。大義です」


赤い目。

劇中キャラじゃん・・・ハマミは?!


「う、お・・・」


声が、でねえ。


「いつなりとこの世界から旅立ちなさい。・・・いまならハマミと同じ世界へ跳ぶことも」


床が抜けた様に、体が落ちる。


まあ、ただ崩れ落ちるように座したってだけなんだが。



ウソだろ、いや。

ウソっつーんならアニメん中に転生してる今の俺のがまんまソレじゃんかよ・・・ハマミは死んだ、いや俺が殺した妻でここに二回目の転生として訪れていた・・・てソレもウソっぽさじゃ最強格だしウソとウソの二乗で・・・



「―――――なんか、言ってたかい」


ルフィか?

無意味な繰り返しを続ける思考から解放される。



「もし、焼けたあたしの体を抱いて・・・キスをしてくれたら、と」


「そうかい」



声を見上げると、外に立つルフィがハマミのメットを顔によせ、目を瞑り口づけしていた。


俺がやったら確実に変態野郎の烙印を押される所作をいともたやすく失った恋人を偲ぶ戦士の姿へ昇華させてしまうこのハg・・・もとい、胸毛オヤジめ。


「なあルフィ、俺が・・・拝次である俺が消えても、ダチでいてくれるか?」


俺、もういいだろココ。


「ん?・・・いや、わからん」


ツレねー奴。


「あんだよ、いいじゃねーか見た目だって同じなんだからよ」


「おまえはそもそも友だの何だの・・・口だけの形式を要求するヤツじゃないだろう。行動で友誼や情を押し付けてくるヤツだ」



あっ



「前世で”お友達からはじめましょ”つってくるワケ分らん女居たの思い出したわ・・・だよなあ」


いや、優しくしてやれよ過去の俺・・・てムリだよなあヤリたい盛りの十代の男じゃ。


「・・・クズとは言わぬが、ハイジよ。お主は・・・その歳ならもう少しまともに女と向き合うべきじゃな」


ハマミ殿下が半目で揶揄ってくる。


「ああ、逃げてばかりいたから追い詰められて・・・結局殺すなんてハメになった。反省してるさ」


「いや、それはよいぞ。そのあとに腑抜けて刑死したのは評価できぬが」


ああ・・・戦国時代だったわ、何気に此処。

つーかさ~~~・・・


「なーんでそんなトコ絞首刑まで知ってんですかね。・・・ルフィ?」


『いや、話してはいない』


げっ、ハマミのメット被ってやがる。


声がくぐもってるからなんだと思えば・・・バイザーは稼働すんのか。


「名は知らぬが、ユーミという男の妹に聞いた。・・・ギルベルト、はよ上げい」


万年最下位の妹?・・・ああ、ケーキ食いたいつってた・・・


ギルベルトに引き上げられ、去ってゆく。



・・・ん?バショクが処刑予定で送り込んだ家族だよな確か、面識得る機会なんて・・・精々すれ違うくらいだったんじゃねーのか?


機外へと出、去ってゆく赤い機体をルフィと共に見送る。


「ん?一機残すのか?」


「政治的には同じ河岸にいるが、敵だから・・・な」


ああ、サクッと殺しとくかってこと?やばいじゃん。


残ったリーゼの肩には茎をアンフィニに曲げた水仙の図案の個人紋が入っている。

あのパーソナルネームはどこかで見たような・・・


『ジュリアン・メレッセ!』


うお、音でけえよ!


リーゼから搭乗者の音声だろうか、が響き渡る。


『私はユリアン・モレス、ゼッタの連れ合いである!いざ尋常に勝負せよ!』



・・・は?何言ってんだあいつ。


「ふ、異世界などに転移してる場合じゃあなさそうだぜ・・・じゃあな」


ルフィは自分のメットを捨て、ハマミのヘッドギアを被り去っていった。



『はやく乗機に戻れ!わたしを待たせるな!』


とりあえず、息を吸い込む。




「おいゼッタ!ナニがしてーんだよおまえ!!」





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