ここが最終回なら最終回になるシーン
輝ける額
突入慣性が相殺されると、うさぎという動物を模した機体は力なく背中を離れ、落ちてゆく。
彼女の名を絶叫する。
ヤマダ重粒子のアラート。
「邪魔するなッ!」
体に染みついた重力共振への反射行動が左後ろよりの砲弾を回避し、同時にその射線へ撃ち返す。
爆散する敵機。
戦闘機動をした分、ハマミの機体は離れてゆく。
ブースターを点火。加速。
目の前に赤い敵機が割り込む。
本能でトリガーを引いているが、ロックされている。
敵機の赤い装甲が白青赤のトリコロールに明滅していた。
「停戦だと?」
装甲を停戦信号モードにすると、戦闘能力を失うかわりに自機への電子的操作を介した攻撃をプロテクトできる。
装甲の偽装コントロール系に技術回収が不可能な二次元を介した魔術的方法で組まれており、この機能を使うかぎり欺瞞に利用し撃たれずに撃つなどの利用は出来ない。
「おい、そっちは停戦入れるなよ。ヴェーダのクロード、大尉だ。ハマミ殿下救助に協力したい」
落下するハマミの機体をかばう機動で接近してゆく。
「チッ、・・・だがありがてえ、お言葉に甘えさせてもらうぜ!」
ロックオンの電子走査、誘導砲弾、高波長広域分子操作等を警戒しながらハマミ機を補足、着地したクロードに向かう。
「おい!三機でここを哨戒しろ!誰かいないか!」
「は、自分はヴェーダのアリエンヌです。私以下四機がカヴァーに付きます」
「ちっ、制圧されてんじゃねーか・・・撤退だ!ユニオンの・・・ホワイト中佐!いるか!」
「ああ、聞いていた。べつにコッチは外様だし引き上げるのはかまわんよ、おい!こちらホワイト中佐だ。ダナンのお姫様を捕獲された、撤退だ。お客さん共々ニューアーク基地へ帰還する。おしとやかにな」
北米の都市か?いや、こっちにあるのか。
木々を踏み倒し、降りる。
ハマミ機の上、ハッチの前に佇むクロードを無視し、解放レバーを掴む。
僅かに開いた隙間から吹き上がる強い肉の焼ける匂い。
俺の脳内で昔の戦友たちの変わり果てた姿がフラッシュバックする。
右手は石になっていた。
「おーい、どけおまえら・・・」
とりの水炊き、という中世を模した料理の匂いをくゆらせながらジュリアンが現れた。
こいつの匂いか?
ハマミ機に手を置き、えずいている。
その直後、激しく下ゲロを吐く。
その度に、据えたような酸の匂いではなく、その水炊きの匂いが上がってくる。
煮えた内臓を吐いているのか?
そんな人間が・・・そもそもこの男、ジュリアンにそんな根性は無い。
「あ”あ”~~~・・・ぎもぢわるっ・・・おでにキュアキュア~~~・・・ふわあああああ」
妙な独り芝居をすると、途端に元気になり隣へと上がってきた。
スイッチングか?しかし精神の切り替えなら兎も角、肉体機能の復活などとても望めんだろう・・・なんなんだコイツは。
奴は躊躇せず解放レバーを引き、噴き出る肉の匂いにも怯むところなく中へ消えた。
「ハマミにリザリザ~」
死者で遊ぶつもりか!いや、既に精神を破壊されている?
しかし逆上する間もなく、コクピットの中へと光の柱が立ち、白い羽根が降り注ぐ。
そして巨大な金冠が広がり、ソラへと消えて行った。
「なんだ・・・今のは」
クロードという男・・・だろう、その呟きに俺も首を傾げ答えるしかない。
あなたは・・・ジュリアン、ですね。大義です。
中から上がるハマミの声に、思わず覗かずにはおれなかった。
ハマミの脚元に崩れた様に座すジュリアンと、ヘルメットを脱いでこちらを見あげた・・・少女。
・・・誰だ?
「ギルベルト―――――久方です。そして」
少女の赤いひとみが俺を向く。
「バルフィンド。ハマミは旅立ちました。ここには戻りません」
なるほど。
なにかがストンと、心の中へ納まった。
「なにか・・・言ってたかい」
「ふふ、もし私の焼けた体を抱いて、―――――たら、と」
「そうかい」
少女が抱えていたヘルメットを差し出す。
顔を入れると、戦場で馴染んだ焦げた肉と燃えた髪の匂い。
そして、僅かにハマミの香水の匂いがした。
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