月とうさぎとカメッ!

「そーだ、デブリをくぐる度に”カメッ!”と叫べ・・・そら二番機!声がきこえねーぞ!」


バルフィンド大尉(サイレント昇進やめて・・・)がビシビシと俺らを鍛える。


俺らは今、旧ザイオン公国軍が設置した(!)火星地球間の小惑星群でデブリなどを掻い潜りながら目標勢力圏内へ浸透するための実機訓練をやっている。


リーゼのコントロールはパイロットスーツをインターフェースとした体の動きを模倣する方式だが、推力コントロールは前世の自動車ぽい。

くるぶしから先が推進コントロールて感じでつま先を下げると前傾加速、上げるとのけぞり減速、腰(感覚は尻)と両足の上げ下げで全方位感覚マルチアングルセンサリティを掴む。


あとは体中の間接の動きがそのまま・・・ではなく、各アングルに適切な倍率を掛けながらパイロットの意思を機体に反映する。


胎児のポーズをとろうとすれば、ちょいとかがもうとした程度のフォームでおkだ。


じゃあちょいとかがもうとすると膝を抱えて丸まっちまうのか?


というと、なぜかそうならない。


重力理論を応用した未来予測システムの簡便な流用でアーティフィシャルかつミリタリーなインテリジェンスをもつ戦術計算機がパイロットという主人の意をもらすことなく掬い上げてゆく(大佐・・・いや、元気だが)のだ。宇宙世紀すごい。


・・・ここまでのうんちく、最後の宇宙世紀スゴイだけでよくね?


SFとかじゃないんだから・・・



「おいジュリアン!ウスノロ共に手本を見せてやれ」


「りょーかいwおまえら見とけよ!凡俗と青い血にどれだけの差があるか、戦いの貴賤ってヤツをなあ!」



夫々が違う速度と大きさで流れているデブリ群へ、フルスロットル。


前世にて一日40キロ、毎日10年バイク通勤を続け事故はほんの両手指で収まる程度、入院はたった三回だけという俺の練達のすり抜けテクを見とけよwww


間隙を抜く、てのイメージなんだよ。

場当たり的に避けてちゃ命なんていくらあってもたんねーんだぜ?

視界内別々の速度で流れる他車両デブリとの速度差を一瞬で掴み、最速で抜け 切る立体的なラインをイメージする。


あとは度胸ッ!フルスロットルで駆け抜けるだけだ!












「・・・夢、だったのか」


ペールホワイトの天井の横、視界内に湾曲したカーテンレールがある。


どこまでが夢か。

事故?

妻の刺殺?

転生??


そいやトラックなら二回、トレーラー一回ぶつかってたわ・・・


今回はなんだろう・・・でも、そうか。


夢だったんだ。

俺は生き残ったぜハマミ、結婚しようぜ・・・



「え、やだ」


うっ


「心臓が止まった!電極もってこい!!」


大接近してくるゴツゴツしたデブリのようなおっさんの顔を掴んで押す。


「なんだ、コイツ・・・動くぞ!ナース、電極無用!退院だ、追い出せ!」


白衣を翻しかっこよく去ってゆくヒゲおじ。


医者っぽいけど医師が病室で患者の隣に待機するかあ?・・・あ、伯爵様だからか?



いろんな機材を運び出し、出るのはいつでもかまいませんのでゆっくりなさってくださいね、と去る女性看護師に礼を言い見えなくなった辺りで名前と病院名と簡単な次第を書きエアコムで家の好き好きリストに放り込む。嫌い嫌いリストは何故無いんだ・・・


ため息。


記憶もどっちまったよ・・・なんだ、浮遊小惑星群につっこんでパチ玉のように激突を繰り返し完全にコントロールを失い脱出シーケンスが作動したとこで記憶がここへ飛ぶ。


なんか脇腹をつんつんと突かれる。


なんだ?


ベッドの横で、ハマミがにまにましながら俺をつついていた。






病院を出、歩く。


「なんか悪いな、家のもんでもないのに」


「なんかといえば、ほんとなんとなくだけどあんたの世話って苦になんないのよね」


「ああ、そいや互いにはじめっから気安かったしなあw」


笑う。


「いるのねー、こんな人間て・・・でも、ぷぷぷ」


「ノーカンにしてくれるつったろ・・・たのむぜ」


「だって、やっぱ気分いいよ」


うわごとでもさ、と笑う。



そんなハマミの裏のない笑顔が胸に沁みる。



・・・おまえ、受けてくれたんだぜ。





大地と変わらない町並みを歩く。

いつかの二人を思い出しながら・・・って。


「ここ、どこなんだ?」


「月だってさ。青空がなんか日常感強すぎて実感ないよねえ」


向かいに知った顔とキョニュウを見つける。



エンリカと・・・ユーミだ。


「よう」


「なんだ。また殴られたいのかよ」


「フン、万年最下位が一般人には随分と強気じゃねーかよ・・・あぁん?」


「なッ!・・・なんのハナシだ、言いがかりか?!」


「自分より弱いオトコ倒してしゃぶるおっぱいはウマイか?いーんだぜ、女の前で虐めてくれてもよう」


エンリカがするりと割り込んでくる。

もちろん女が止めてくるのを期待していた。助かったぜ・・・


「ふたりとも、あたしのために争わ・・・」


「エンリカ速いよ!」


ハマミがなんかおかんむりだ。


「ちょっとは殴り会わせないと、あとで手当て出来ないでしょ?!」


「手当?・・・あっ!・・・くッ、リカバリーの手段は?!」


なんか今ろくでもない想像をしたなこいつエンリカ。。。


「そうね・・・ジュリアンに昔の恥ずかしい写真で脅迫されているとかどう?」


「シャシン・・・ああ、リアルモデルですわね、それでいきましょう。ユーミッ!」


「そんなエンリカさん、見たくないよ・・・正気に戻って!」


ユーミがエンリカの腕を掴み、何処かへと引いてゆく。


「あいつだ、あの男が絡むとすべてがおかしくな・・・・・」


なんか失礼なこと言ってんな・・・て劇中ずっとあんな感じだったわ。


ハマミの溜息が聞こえる。


「なんだ、疲れたのか?」


「いや、美少年だなー・・・って」


「おまえの男の趣味はほんと多角的すぎてわかんねえな・・・」


カードガチャIPランキン表示してくれ・・・俺はDあたりか?


「やだ、趣味とかじゃなくてそーゆー性を超えた美しさを感じるのよ。すごく壮大な・・・」


ハマミて前世で一話は見てるんだよな・・・ユーミも登場してたハズなんだが。


ああ、こいつにとっちゃ前々世か・・・


「なんか食って帰るか」


「あたしが決めるー」



あー生きてるっていいわ・・・

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