テレ・ヴィゾーレ
「では、そのように動きます」
妻たちではないが、動議的作戦会議に発ったマチス少佐を見送る。
つか、ここマチスの部屋だろ。
部屋を出、普通士官()階層に降り休憩ルームでコーヒーを買いながらなんとなしにテレビを見る。
「ハマミじゃんww」
小鳥がさえずる森の中、ドルマン袖の白いドレスでカップを持ち上げている。
白いクロスが敷かれた丸テーブルで、向かいには明るいブラウンの長髪を斜めに分けたイケメンが座っている。
ライブ・・・え?基地か艦内のどこかなの??。
病み上がりに元気すぎなのでは?
ツリ目がちの、やたら高慢でむかつく顔でトークしている。
普段は垂れ目では?くらいに見えるのに、上マブタ降ろして半眼になると、なぜかこういう顔になる。
『では、討たれるつもりはあくまでも無いと』
『当然ですわ。そも、この身を下賎へ差し出せなど身の程をわきまえぬ要求、正に慮外千万。ゲミンは不遜という言葉を知らないのでしょうか』
『そもそも、といえば我々大衆はあなた方を、貴種をみとめてはいない。滑稽な思い上がりだと思わないのですか?』
『フフ、つまりは平等だと?それこそ僭越というもの。真に等しく力をもつというのであればいつでも受けて立ちますわよ?今回のように』
『後ろから撃ったのですよね。受けて立つ、と言いながら卑怯でしょう』
「日常に紛れ襲い来るのは卑怯ではないと?」
扇子で口を隠して目で笑ってる・・・。
「間抜けなあなた方がもう少しだけ正々堂々を理解出来れば、あの若者も撃たれず済んだでしょうに・・・」
目を伏せ、愁嘆を演じるハマミ。
拳銃は相手が出してきましたとかいわんのかすげえなwもう同じ一般ぴぽーじゃあ・・・て前世でもお嬢だったわ・・・やべえ、ちんちんが固くなっ・・・
『つまり、謝罪も含めて卑怯なふるまいを今後も止めるつもりはないと』
『・・・哀れですわぁ。大衆など、我々にとっては暖炉にくべる薪程度の価値・・・アハハッ、失言でしたわ!今世紀では薪一本、居住ドーム三つ四つ分ほどの人間よりもはるかに貴重でしたわね(爆笑)』
高笑いが部屋に響く。
よかったなハマミ・・・・テレビで存分に昼下がりのおしゃべりが楽しめて。
夢だったもんな、と滲んだ目尻の涙をふく。
バリッ!と、格ゲーで負け込んだホッケー部が立てるような歯ぎしり音にビクッとなる。
「お、こりゃあダレかと思えば・・・マシューパイセン」
なんだ、パイセンかよ(舐めプテンション)。
ハマミファンクラブの会員一号様だ。
現世での、な。
チラリ、こちら側に目を遣り、画面に戻す。
「・・・見たのか」
「ああ、苦労するよな・・・お互いに」
反応なし。
コマーシャルからも目を離さない。
「少尉、見ていろ」
テレビには『あなたの肌のおともだち』などと女の下着が写っている。
「俺はこういうフェミニンつかロリータ的なのはあまり・・・」
「でるぞ」
パッ、とコマーシャルが消え、イケメンレポーターが休憩中のハマミ・・・は?椅子じゃなくて
「隠しカメラ?こりゃパイセンが?」
「局のパパラッチだ。仕込みは俺がした」
「ほーん・・・やるじゃん」
「おまえ・・・怒りは無いのか」
「シッ、始まってるぜ・・・」
・
・
・
『取材は終わりですが、あなたに聞きたい。なぜ皇族を貶めるようなことをするのです』
『えー・・・あなたの演出に合わせただけ・・・のはずだったけど、何が言いたいの?』
『今言った言葉通りです。あなたは・・・あなたの存在、言動は貴種と大衆の分断・・憎悪を煽り、テロルを扇動しているとしか思えない』
・
・
・
「ああ、なるほど・・・」
なぜそんなことをする、て恐怖を無視できないのか。
「これで奴の目的が・・・本心は語るとは思えんが、僅かなりとて・・・」
ハマミに目的や本心などない。
意味なんかねーんだよ・・・拗らせるだけだぜ?
このパイセンは本編を順調に進めばゼットガムダルの後番組、ダブルゼットガムダルでハマミの騎士になっていた陽キャのハズだ。
それがこんな陰隠滅滅とした・・・・
・
・
・
『ん-・・・取材は終わりなのよね』
『カネですか』
『今、彼氏が長期出張中でね・・・やだ、セクハラじゃないわよ。手を握って欲しいだけ』
イケメン茶髪男の眼輪筋が震える。
『ウフ・・・血にまみれた手は、お嫌?当然よね』
心底嫌だ、という風にレポーターが手を差し出す。
演戯臭くねえな・・・新人か?大衆側でピュアな怒りの演出要員てコトか。
やめとけと思わずにはおれない。
画面に食いつかんばかりに身をのりだすパイセンがあわれでならない。
ハマミは目を見開き、差し出された男の手を両手で包むと、担架から乗り出すようにその小さい胸に寄せる。
『前大戦で公(国)民世論を開戦へ誘導したのも、いくつもの工業コロニーで暴動、虐殺を誘発させて外惑星系の庶民、軍閥を炊きつけ戦線を太陽系全域に拡大させたのも!全部、全部あなた方マスコミの成果じゃないですかッ!』
あー、歌うときの声乗せたイイ声つかい始めたわ。
地声と混ぜた感じのやつ。
地声でノロノロ喋ってるやつ圧倒すんのコレが一番手っ取り早いしな。
『連邦首脳の意思?判断したのは大衆?一体何人死んだと思ってるんです!二百七十兆五千六百億人ですよ!?』
こんな遠くてもわかるわ。
目に涙溜め始めやがった・・・たぶん頭の中では少年が犬抱えてめたくそに疲れているハズだ。
それか地球を見ながら故娘夫婦の写真を・・・うっ、俺迄涙が・・・
『死んだ者たちの無念、残された者たちの憎悪!悲しみ!血の復讐を一体・・・一体誰が?・・・わたくし達が受ける、それしかないでしょう』
キンキン声から情感一杯に歪を乗せ落ちる、そして諦めきったように枯れた地声へ抜けていった。
『閣下!殿下閣下!若い奴をからかうのはおやめください!』
画面の外から慌てたようなおじの声が近づいてくる。
苦み走ったいぶし銀の・・・あ、コッチの解説は需要ないわ。
疲れ切り、儚く消えてしまいそうな少女の顔に、小さく明かりが差したような笑みが灯る。
『・・・ありがとう、手の震え・・・止まりました』
囁きながら男の手をそっと離し、空いた手を自分のムネへ小さく畳むと、僅かに首を傾げる。
木漏れ日に涙が一筋、煌めきながら零れ落ちて行った。
少女の脚の包帯には、いまにも流れださんばかりに出血が広がっていた。
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