シェルター

『非常時以外の使用は禁止されています』


レイジがドアに手をかざす。


「協商特約だ。開けてくれ」


重そうなドアが開いた・・・と思ったらその奥の奥の奥まで五枚くらいのドアが全部開いていた。


「これじゃ閉店ガラガラガラ~遊びは出来んな」


「ジュリアン様!」


今朝見た女が駆けてくる。


「ヴァイオリナか」


「リリアンです。なんですその性的倒錯者みたいな名前は」


ええ・・・我なら上手いあだ名だこと言ったと思ってたのに。


「一人か?」


「はい。・・・シェルターの視察ですか?」


まぁ、女が増えるのは良いか。


「そんなところだ。一人なら来いよ、音響の試験もしたい」


リリアンが手に下げているケースを見ながらいう。


「いいんですか?彼女なんか不満そうですよ」


リエに一瞬視線を送り、悪戯っぽく笑みながら俺を見る。


リエが俺の手を引く。


「ジュリアン、もっと・・・」


「ダメだ」


避難だけで死人が出る。どうせ出るなら遅い方がいい。

何かを察したのか、レイナっつー女が俺をにらむ。


「何故?!一人でも多くの人を救うべきよ」


「思いあがるな。小惑星だぜ?はっきり言えば、俺達は既に助からない」


「・・・でも、ここに入れば」


「数分は長く生き延びられるだろうが、その数分間は外で一瞬で蒸発したやつらを羨むことになるだろうな…ポンペイ知らねーのか」


「ぽんぺー?なによそれ」


「博識だなジュリアン。ポンペイは古代、噴火を被災し焼き尽くされた地上の楽園だ」


楽園?はともかく。


ナショジオかなんかのポンペイ特集で、噴火の溶岩蒸気による犠牲者で海岸に逃げた者たちのうち、外に立たされていた奴隷たちの遺体はほぼ直立姿勢のまま倒れ埋まっていたいたということだ。

比して火山の蒸気を避けるよう岸壁に掘られたボートハウスからは凄惨な断末魔の遺体が出てきたらしい。

奴隷たちは苦しむ間もなく一瞬で沸騰した脳漿を耳鼻より吹き出し死んだが、ボートハウスに避難した者たちは沸騰した海水の蒸気で燻蒸されジワジワと蒸し焼きにされたのではないか、と想像されていた。


・・・そんなCG特番をポテチとビールで鑑賞しながら震えるハマミを抱いてちんぽ立てていたあの頃。


「幸せだった・・・」


「ええ?」


「コッチの話だ。どうせここは落下寸前まで開いてるしここで死にたいヤツは勝手に入るだろ」


はよ入らんとセックスする時間なくなるだろ!


靴音も高く中へ進んでゆく。





あっ


「ミセスヤマダ、子供同士で盛り上がってすまない。小惑星の落下です。気を楽にしてついてきてください」


「いえ、その・・・子供たちは?」


「そうよ、近所に幼年者の施設がある。みんなを誘導しなきゃ!」


レイナがヒロイックムーヴを止めようとしない。

ミセスもか?と困った視線を投げる。


「いえ、ほら。子供が入ってきてるんですよ。その、卿のお仕事にさしさわるのでは、と」




黄色い頭の珍獣の群れがゾワゾワと進入してきていた。

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