家~す
「もちろん葉室家としてではなく、学友同士のたわいない話として聞く」
一体お前は何を言ってるんだ。
「お前のねーちゃん英雄だろ?たしか戦争おわったら遺族への追い打ち・・・慰問の旅に出て行方不明になんだし、今のうちに会ってサインもらえるようセッティングしてくんねーかな」
本を開くといろんな人形が数本飛び出てきて「ジャンルを選択してください」と表示された。
げ、ツーピースまだやって・・・て別の虚構世界を作中話にしていいのか?
「あいつを英雄なんて呼ぶな!」
机に向かって振り上げた手を思いとどまったのか、もう片手で固く握り込む。
「・・・只の人殺し、だっけか?穏やかじゃねーな。まぁ殺し合い只中で頑張ってんだから穏やかもナニもねーかw」
俺の愛憎もつれの衝動殺人とは違う。相手も殺意絶頂のガチ殺し合いだ。
ハッ、と笑い飛ばして見るが、レイジの顔は固いままだ。
「なんだよ、
「子供の頃、暴漢の手から姉さんに救われたことがある」
お、英雄ムーヴィ~の始まりエピソードか。
「いいねーさんじゃねーか」
男二人に拘束された時、水撃銃を手にナミエが現れたらしい。
「ボクを盾に銃を捨てろと迫る男たちに、何故か姉さんはその場でズボンを脱いだんだ」
は?
「そして、銃を池に投げ捨てるとブラウスのボタンを外しながら『私はどうなってもいい!弟だけは・・・』と懇願しつつ近づいてきた」
「そっ、そそる展開だな」
「それだよ。姉さんは欲情してたんだ、状況に。右手に立っていた男が姉に手を伸ばした瞬間、その男はまるで巨大な輪転機に巻き込まれたみたいに滅茶苦茶に回転しながら上空に撃ちだされた」
「輪転機」
お貴族様がなんで印刷機なんて知ってんすかね。
「僕は幸運にも緩んだ男のウデに手を差し入れることが叶って脱出できた。・・・あとは地獄さ」
レイジはテーブルに立てられた・・・立体表示か?メニューを操作するとホヨンと現れた(!)湯煙の立つ黒い液体の入ったカップを持ち上げ口を湿らす。
「ボクを拘束してた男は姉に頭を抱えられたまま泣き叫びながら無茶苦茶に暴れていた。姉のブラウスを引きむしり、ウデだけじゃなく手の届く当りの姉の肉体に爪を立て毟り、殴り、掴み・・・なんとか抜け出そうとアワを噴きながら狂ったように暴れもがいてた。その暴れ様が激しさを増す度にヤツ・・・姉は淫らに絶叫しながら失禁したんだ。その男の名前を叫びながら。誰も名乗ってないのに・・・」
ああ、ズボンを脱いだ謎がここで回収されるわけか。
「動かなくなった男をおろし、言ったんだ。よく頑張ったね、怖かったでしょう、て」
「あ、ああ・・・姉さんのが怖かったよ、てとこだな」
今度こそレイジはテーブルを叩き、カップをソーサ―とガチャらせながら叫んだ。
「ボクに言ったんじゃない!殺した男に言ってたんだ!小便まみれの自分のヒザに白目剥いて泡だらけになった男の頭を抱いて・・・みたこともない優しいカオで、泣きながら言ってた。帰ってきたね、いつかまた生んであげるから・・・って」
「カマキリかよ・・・」
「そうだ、カマキリだ!博識だなジュリアン」
「いや、俺らの世代はギリギリ昆虫採集とか出来たから」
しかしコイツも面倒なモン背負ってたんだな・・・姉が快楽殺人者か。
「もう一人は?」
「もう一人?」
レイジは新たに注文したのか、もっと小さいカップのエスプレッソにザラメをザラザラ~と流し込んでいた。
美味いんだよな~ソレ。
「いや、暴漢か誘拐未遂犯かは二人いたんだろ?投げ飛ばされた方だよ」
レイジは眉をしかめる。
「嫌なコト思い出させるなよ」
「ハァ?フツーにそういう流れになんだろよ。もう一人はどうなったの~て」
「しばらく行方不明だったけど、屋根から落ちてきたんだ。二週間後くらいに」
あっ、別事件カウントなわけね。
俺もメニューからエスプレッソを押す。
「生乾きの腐乱死体になってた」
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