22筋:大地の綻び
都市に辿り着いた私は唖然とすることになる。
大地の至るところに穴が開いており、数日前に訪れたときよりも酷い有様だった。
「まるで、巨大な怪物が暴れたあとのようだわ」
「人の手の及ばぬ、神の去ったあとだ。言い得て妙だな」
穴に向かって泣き叫んでいる人たちを見ると、メグリトが落ちてしまったあの日のことを思い出してしまう。
また彼が落ちてしまったらどうしよう。思わず不安になってしまい、メグリトの袖を握り締めた。
「……」
「心配すんなって」
私の左手の小指を取って、メグリトが右手の人差し指と親指で小さく握った。
ちょっとだけ不器用だけど、そばにいてくれると態度でしめしてくれたように感じて、少しだけ安心した。
「俺はここにいる」
「うん。ありがとう」
ほんのちょっぴりのささやかな温もりに、少しだけ胸をなでおろした。
安堵した私は、改めて目の前の惨状を目に焼き付けた。
「これをトバリがやったの? こんなことする子じゃなかったのに……」
泣いてばかりで私たちの後をついてきていた、大人しい子だった。
メグリトが落ちたときだって、とても不安そうにしていたくらいで、こんな大胆なことが出来る性格ではなかったはず。
「
「神の意志かもしれないが、トバリ自身の選択でもあるかもしれねえな」
「そういえば、トバリは神様に協力しているって言っていたわ」
「どんな考えでこんなことをしてるかは知らねえ……いや、なんとなく想像はつくんだが。だけどあいつは、この都市に対して未練もクソもなかったんだろうな」
「どうして? 私と違って、トバリと縁づいているひとはたくさんいるはずよ」
「多少なりとも縁が繋がっていても、親を亡くした時点であいつにとっての『大切』な存在は、お前だったんじゃねえの?」
「……」
トバリはずっと私のあとをついて来てくれて、メグリトが落ちたあとも私の様子を毎日見てくれたことを思い出すと、メグリトの言葉を否定できなかった。
「コヨリだけが大事で仕方がなかったんだ」
「なんでそんなこと分かるのよ」
「コヨリと俺が一緒に奈落に落ちなくてよかったって、あの時トバリの顔に書いてあった」
「また私のことからかってるでしょう?」
「からかってねえよ。実際、ちょっとショックだったからな。俺もトバリを弟分みたいに思ってたんだからさ」
「……」
「あいつはそんだけコヨリを気に入ってるんだ。あいつが都市の人間を憎んでいてもおかしくねえし、奈落に落とそうと思っても変じゃないだろ」
「え? どうして? なんで私がそこで関係してくるのよ?」
「お前さっき、今まで自分がどんな目に合ったか俺に言ったじゃねえか。それだよ、ソレ。お前のために、復讐しようと思ったんだ」
「まさか……そんなわけ……」
私が否定しようとしたとき、りん……と涼やかな音がする。
振り返るとトバリが帯の上で縛った銀色の組紐を撫でながら、悲しそうな表情で私たちのほうへと歩いているところだった。
「コヨリちゃん……」
「トバリ!」
「あの家から出ちゃだめだっていったのに、ぼくの言うこと守ってくれなかったんだね?」
「このお転婆をあんなところに閉じ込められると思ったら、大間違いだぞ」
トバリから私の身を隠そうとしたのか、メグリトが私の前に立った。
「メグ君……」
何故か二人の間からピリピリとした殺気のような気配を感じる。
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