13筋:まだ視えない、運命の糸
森の隠れ家に戻るために、私たちは二人で並んで歩いていたのだけれども……。
「トバリ、くっつき過ぎよ」
「そんなことないよ。他の人に見つからないようにしないといけないんだから、もっと近付いても良いと思うよ」
トバリは私の腕を組んで離そうとしなかった。
こうなると、私はもう彼のなすがままになるしかない。
ずるずるとどこかに連行される感覚になりながらも、トバリに隠されるような形で二人で拾之都市の商店街を歩いていた。
「トバリはどうしてここにいるの? ここ住んでる場所から離れてるじゃない」
「今日はね……
「お社?」
トバリが商店街から離れた後方を指さす。そちらへと振り返えると、立派なお社と鳥居が立っていた。
よくよく見ると、私達がいま歩いている通りは、参道のように見える。
「拾之神様って、都市の神様でしょう? 季節のお祭りでもないのに、トバリって参拝するのね」
「うん。いつもお世話になってますって、ご挨拶しているんだよ」
「トバリがそんなことしてるなんて、知らなかったわ」
「そうだね。ぼくたちが小さかった頃は、新年の参拝に、夏のお祭りとか、催し物しているときにしか行かなかったよね」
そうして三人で仲良くお祭りに連れ立って遊びに行っていたのも、メグリトがいたときまでの出来事だった。
今では新年を迎えたときに参拝する程度になってしまったのだけど、私と違って彼は熱心に通っているらしい。
成長したトバリは、私が知らないことをもっと経験しているんだろう。
そう思うと、可愛かった弟分が姉離れしてしまったようで、寂しさを感じる。
「それにしても、頭巾を被っていたのに、私だって良く分かったわね?」
「それくらい分かるよ。歩き方とか、後姿とか、そう言うのを見ているとね、コヨリちゃんなんだって気づいたよ」
「ふふ。トバリは私の三つ編みが好きだから、後姿を見たら髪の毛で判断するかと思ったわ」
「まるで、ぼくがコヨリちゃんの三つ編みしか見てないみたいな言い方だね」
拗ねかけたトバリが、不意に私の着物の袖を優しく掴んでにっこりと微笑んだ。
「あとはね、ぼくが渡した着物を着てくれたんだなって気づいたんだ。すごく嬉しかったよ」
「でもね……やっぱり素敵すぎて、着るのが勿体ないのよ……」
「着ない方が勿体ないよ! 箪笥の肥やしになっちゃうよ?」
「それはそれで勿体ないんだけど……」
「それに、コヨリちゃんにとっても似合ってるよ」
そう言ってトバリはさり気なく私の左手に口づけをする。
こんな恥ずかしい場面、誰かに見られたら……! と思って慌てて周囲を見回す。
「ちょ、ちょっと、トバリ!」
すると、すれ違った恋人たちと目があってしまい、彼らは顔を赤くして逃げ出して行った。
こんなくすぐったい状況、私だって今すぐトバリの腕から逃げ出してしまいたい。
「うう……」
だけど細身の身体から想像できないほどの力でガッチリと捕捉されていて、どうにもならなかった。
恥ずかしさで頭が沸騰しそうになっていると、突然私の左手の小指が熱を持った。
「きゃっ!?」
「コヨリちゃん?」
火傷するほどの熱はないけれども、何かに締め付けられるような……どこかに引っ張られるような感覚がある。
焦燥感に駆られた私は、慌ててその方向へと振り返った。
「えっ……」
すると、私たちの後ろにあった十字路を横切るように、
チリチリと熱を持つ小指が、精悍な顔立ちの朱色の髪の青年に強く導かれて気がする。
長い間沈んでいた私の心が、暖かな色に惹かれているのを感じる。
懐かしくて、後悔していて、ずっと会いたくて……っ!
あれは……。あのひとは……っ!!
「ま、待って……! メグリト!」
建物の影へと消えてしまいそうになる彼へと、私が手を伸ばして叫んだ瞬間――
トバリの腕の力が緩んだと思うと……突然、大地が激しく振動を始めた。
あまりにも大きな揺れで、周囲にいた人たちが騒ぎ始めた。
「きゃああああ!!!」
「うわあああ!! 地震だ!!」
それは、今までに経験したことがないほどの、大型地震だった。
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