5筋:糸を司る乙女2
メグリトを救いたい……!
私が強くそう思うと、左手の小指が急に熱さを感じた。
そして、脳裏に聞いたことのない声が響いてくる。
『少年を、救いたいか?』
「助けたい……ッ! メグリトを助けてくれるの!?」
誰の声かも分からないけれども、メグリトを助けてくれるなら、誰にだって縋りたい……!
『ならば、お前の真なる力の一端を解き放て。お前は、糸を司る乙女。糸を
「私の力……? 私の力は、運命の糸を視ることだけで……」
『我が運命の糸に触れたお前にならば、お前の他人との運命の糸……絆とを引き換えに、少年を救う糸を編むことが出来よう』
私と他人の絆を、引き換えに?
私は隣にいるトバリとの糸を眺めた。私とトバリを繋ぐのは、太くてがんじがらめになった糸。
例えばこれを引き換えにすれば、メグリトは助かるの……?
「……コヨリちゃん? ど、どうしたの……?」
私が考えていることが分かったのか、トバリが不安そうな瞳で私を見つめて来る。
「ううん、なんでもないの……」
そんな、メグリトを助けるためにトバリとの絆を絶つなんて……。出来ない……。
でも、私にはほかに犠牲に出来る糸はない。
どうすればいいの……。このままだと、メグリトが……!
思い悩んでいると、地震が発生していても私たちの居る場所へと必死になってやってきたらしい親たちが声をかけてきた。
「ようやく見つかった! コヨリ! そんな危ないところで、何やってるの!?」
「メグリトはどこに行ったんだ?」
「め、メグくんは……」
トバリが崩れかけた足元の崖に視線を向けると、メグリトのお父さんは慌てて駆け寄って崖下を覗き込んだ。
「メグリト!? お、お前!?」
「わりぃ親父。お袋には良い感じに伝えといて」
「バカ言うな! 今助け……っ!?」
メグリトのお父さんが彼を助けようとするが、再び地震が激しくなり始めて来た。
「うわっ!?」
メグリトの体力に限界が来ているのか、少しずつ崖を掴む彼の手が緩んでいることに気付いた。
「メグリト……っ!」
早く助けないと、メグリトが危ない。
だというのに、私は一瞬戸惑ってしまった。
運命の糸を断ち切ると、何が起きるんだろう……。
この糸は、私とみんなの絆で出来ている。
だから、それが断ち切られたら……私は、みんなとの縁がなくなってしまうかもしれない。
でも、本当はそんなこと、気にしている場合じゃなかった。
「あ……」
そう思っている隙に、メグリトの手が滑ってしまう。
「メグリトー!!」
彼のお父さんの隣で、私も手を伸ばすけど……間に合わなかった。
その代わりに、私と目があった彼は……。
「俺がコヨリを助けたかったんだ。だから、そんな気に病む顔すんなよ。笑えって!」
そう言って……。
最期に私を気遣う言葉を残して、奈落の底へと落ちてしまった……。
「もう……間に合わないの?」
目の前にいる、私の大事な幼なじみのひとりが、私を守って奈落の底に落ちた……。
「もう、助けられないの……?」
そんなの、絶対に嫌! メグリトは絶対に、助けないと!
あの声の言うことが本当のことだとするなら、私には私の糸を犠牲にして、メグリトを救うための糸を編むことが出来る……!
それなら……!
私は無我夢中で、私とメグリトのお父さんとの糸に触れて……。
「ごめんなさい……っ」
そして、それを
前は触れることすら出来なかった私と他人の繋がりを保つ糸は、いとも簡単に切れてしまった……!
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