第47話

「アラン団長おおおおおおおお!!!!!」


 銀上が中心にいるであろうアラン団長を助けようと、壊れそうな体をなんとか保たせて向かおうとした。


 けど、させるわけないよね。


「っ!?なっ!?体がっ……バフが切れて──っ!?」


「っ!?銀上!?──がっ!?」


「久馬!?おい!!テメェ何やってんだ!!」


 私は銀上の体を遅くした、近くにいた久馬の体にそっと短剣を刺しこむ。


 刺された痛みに耐えれなかった彼は脇腹を抑えながら倒れた。


「木山さん」


「はい。減速スロー


 そして私以外の全ての人に弱化魔法をかけた。


「加えて、重力グラビティ


「これで楽に終わるね」


「っ、なん、で……常葉と木山さん、が……」


 未だに生き残っている魔獣たちは静かに私たちの動向を見守っている。曰く、彼らは美の神アプロディテと言うよくわからないスキルの効果を弾いた数少ない協力者だそうだ。

 その中にはクォーバルグレムリンもいた。彼が今回のリーダーなのだろう。


 私は彼に会釈をした。すると向こうも返してきた。それを見れば私たちの立場なんてすぐに分かるだろう。


「は……?ま、まさか……」


 銀上が私──常葉秀歌に信じられないという視線を送ってきた。まぁ言いたい事はわかる。わかるが、どうでもいい。


 本条はご主人様の下僕ではなくただの駒──いや、駒ですらなかったのかもしれない。

 あれは本庄以外でも良かった。ただ銀上の心を揺らしさえすれば。


 それをご主人様に命令された時、真っ先に適任だと思ったのが本条だった。それだけ。


 私が少し誘導したら勝手に乗ってくれた。あまりにもスムーズだったから驚いたけど。


 あぁ、驚いたと言えば本条がこんな私を見て驚いていたかしら。まぁどうでもいいけど。


 

 閑話休題。



 とにかくそんなゴミみたいだった本条とは違って私と木山さんは正真正銘ご主人様の部下、下僕、そして奴隷だった。

 奴隷は言い過ぎだとよくご主人様に言われるが、私は奴隷でもいいと思っている。だって何度も命を救われたのだから。


 彼が趣味で行っている暗躍。やっている事は確かに悪かもしれない。だってそれで何十、何百の人の人生が狂っているのだから。この世界でもそう。ご主人様が仕事以外で行っていた暗躍によって命を救われたものもいれば、転落人生を送る羽目になったものもいる。


 だがそれがどうした。


 結局それに抗う力を持っていないのが悪いのではないか。私はご主人様に救われ、落とされた時にそう思った。だから私は彼を心酔しているのだ。


 だが彼も完璧じゃない。現に、よく見ればアラン団長は息が残っている。


 計画では既に死んでいるはずなのに。


「木山さん、そのままで。クォーバルさん!!」


「?」


「(まだ生きてます!!)」


「っ!?GAAAAA!!!!」


 そう言って私は予め決めていたハンドサインをした。それで気づいたのだろう、すぐに後ろを向いて、その手に持っていた巨大な剣で無惨にまだ繋がっていた体を切り裂いた。


「がっ!?」


 まさか気づかれるとは思っていなかったのだろう、彼は驚いた表情のまま死んだ。


 これで、内部腐敗が進んでいた赤紅騎士団は全滅した。


「あとは……」


「なんで……なんでお前たちが……!」


「最初から、私たちはあなた達の味方なんかじゃないんですよ」


「……そうだけど、それは今見ればわかるけど、でもなんで今……」


「殺しやすい時に殺す。基本では?」


「でも、俺たちは──」


「クラスメイト?知りませんよそんなこと」


 今まで被っていた皮を破る。

 私の口調もいつも見たいな明るい感じではなく、硬い感じに変えた。これが本来の口調だ。


 高校に来て無理矢理変えたのだ。そうした方がいいと思ったから。別にご主人様にそうしろとは言われていない。だが、私がした方がいいと思った。それだけだ。

 でも後悔した。息苦しかった。テンションが。


 これでようやく解放される。


「それじゃあすぐに終わらせて、ご主人様のところに行きましょう。木山さん」


「はい。増幅」


「ま──」


 そして、私の周りに血の海が出来上がった。


「これで、私たちの役目はあと一つ」


「行きましょう、常葉さん」


 私たちはご主人様の戦場へと向かった。


 今、私たちはご主人様がどういった状況に置かれているのかわかっていない。


 でも大丈夫だ。


 だって私たちのご主人様なのだから。



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