第43話

「へぇ、それが極上の善意ネヴァルガル


『……』


 僕は一変した周りを見ながら初めて見る光景に感動していた。

 

 深山やランバルトたちは唖然していたが。


『……悲しいよ』


 と、ふとネヴァは深山らの方を向いてそう呟いた。

 その顔は憂いを帯びていて幼女の見た目をしているが、その表情は大人びていた。


 そんは表情もできるんだ。


『……には、少しでも仲間が、友達が必要だった。でも、それも全部……今ここで無くなった。ねぇ、ハルキ』


「ん?なんだい、ネヴァ」


『選択の余地、ある?』


「それは君が決めることだよ、極上の善意ネヴァルガル


『……』


 ネヴァの意思を尊重したいのだろう、極上の善意ネヴァルガルは少しだけ考えるような仕草をした。


 しかしまぁ、無理だろうな。


 他でもない極上の善意ネヴァルガルがもう諦めている。


 つまりネヴァも諦めているということだ。


 同胞から殺されかけるという恐怖を彼女は知っている。が故に、彼らに裏切られたということは、あの時の恐怖を再燃させかねない。


 彼女ネヴァは今は魔族ではなく、どちらかと言うと魔獣よりだ。


 同胞魔獣が敵に回った。


 殺す理由としては十分だ。


この子ネヴァは、まだ信じている』


「……優しすぎるというか、甘いというか。そこまで行くと、もう病気だね」


『だからもう貴方しかいない……ハルキ』


「……」


『ここにいる魔獣だけじゃない。他のところにいる魔獣からも敵意を向けられているこの状況でもまだ、この子ネヴァは彼らを信じている。だから、目を覚させて』


「……分かったよ。


 僕は目に見えて死んでいるはずの彼女の名前を呼んだ。








「──時間だ」








 僕がそう言った瞬間、死体は一瞬ビクっと蠢き、まるで逆再生するかのように頭と胴体がくっついた。


 そして閉じていたがゆっくりと開かれる。




『──転移魔法』




 彼女が横たわっている地面が光だし、魔法陣が浮かび上がった。




「……っ!?どうしてスキルが展開されているのに魔法が使えるの!?私はさっきからスキルすら使えないと言うのに!?」


 その光景に深山が叫ぶが、そんなことなどお構いなしに転移魔法は完成していく。


「っ、させない!グリモンドドラゴン!!ランバルト!!」


『おう!!』


「こんなのっ!!」


 深山の指示でグリモンドとランバルトがキエルに向かって走り出した。

 それに対し僕らは何もしない。


 それどころか僕は別の方を向いていた。



「──できた」

 


 僕は虚空を掴む。


 その拳が黒く光始め、その光は目を閉じたネヴァの元へ。


 黒い光──僕の記憶が彼女の中に入り込む。その記憶とは、僕が図書館で見つけた、


 これを見ればきっとネヴァは──迷いを消してくれるだろう。


 なんの憂いもなく、目の前の敵を屠れるはずだ。



 スキルの覚醒はスキルが進化する、生まれ変わると言えば聞こえがいいが、そんな強化に代償がないはずがない。


 まず、スキルが生まれ変わったとて、それが元のスキルよりも強いとは限らない。賭けに近い行為だから、深山に提言したあの教祖は分かってて言っていたはずだ。ほんと、ずるい人だよね。


 そして仮に覚醒して以前のスキルよりも強かったとしても、弱点は必ず存在する。それが例え神の力を蓄えていたとしても。

 

 スキルの範疇に収まる神の権能には、上限が存在する。


 時を止める?色んな物を仲間にする?自分に有利なフィールドを作り出す?


 


 本物の神の力は、今目の前で起こっていることだろう。


 すなわち──



「選べ」



 今度は濁りない声で言の葉を紡いだネヴァ。

 その瞬間、黄金の空から一つの巨大な天秤が降ってきた。


 あまりにも堂々たるそれに対し、キエルを殺そうとしていた者たちは動きを止めざる負えなかった。



「っ!?あれはまずいっ!時の神クロノス!!」


 

 深山が慌てたようにスキル名を叫ぶ。が、何も起こらない。



「どうして!?さっきから何でスキルが──神の力が使えないなんて!?」


「それ──クロノスだったっけ?私には効かないよ?」


「っ!?なん……で……」


「クロノス如きが私に歯向かえるとでも?」


「クロノスは時の神よっ!?神の中でも上位に位置するはずじゃ──」


「ここは貴方たちの世界とは違う」


「っ!?」


 目をゆっくりと開けたネヴァが淡々と事実だけを述べる。


「クロノスは神の中でも下位に位置する存在。アプロディテも、ウラノスも同じ。私──最上位神ネヴァルガルと比べたら、本当に矮小な存在でしかない。カルナルも馬鹿なやつね。中位程度の存在が人の子たちを使ってのし上がろうなんて。ハルキの言葉──ミリアの危惧を聞いておいて正解だった」


「っ!?み、ミリアと言ったの……?まさか……!?」


「あのスキル鑑定の時、天使スキルを得て舞い上がらずにすぐそばの存在に気づけていたら……もう少し上手に立ち回れていたかもね?ちなみにハルキはすぐに気付いたらしいけど」


「……っ!?」


 そう言って彼女は驚愕の表情で僕の方を向いていた。

 何で驚くことがあるんだろう。


 


 異世界転移が行われたあの時に、普通だったら王女がそこにいるわけがない。


 いるとしたら、玉座の間だろう。


 だってもし転移された直後に異世界人が暴れたとしたら?それで王女が死んでしまったら?

 取り返しのつかない事故が起こってしまう。それを防ぐために王女は普通玉座の間で待つ。


 しかし、今回王女自らが僕らの相手をした。つまり死んでも良かったかもしくは、のどちらか。


 そう考えた僕だったがその前に僕の前にミリアのしもべだったカオリがやってきた。


 そしてカオリを介して連絡をのだ。


「……麗華、僕とミリア王女はね、同じ考えだったんだよ。と。だからミリア王女は僕がやっていたことを全て見逃してくれた。そしてそんな僕は王女という最大の盾を振るいながら動けていた、というわけだよ」


「……違う。春樹、君がよ。あなたは日本で何をしたと思っているの……?危うく!?それを悪と言わずしてなんだと言うの!?」


「第三次世界大戦?それはなんともまぁ大きく出たね。別にあんなのでそんなことにならなかったのにさァ」


 やったことは精々経済を自由に動かして日本とは別のとある国に富を集中させて、他国からその国にヘイトを集めていただけだって言うのに。


「あのまま行っていたら間違いなく起こっていた!!君は自覚するべきよ!!君と言う存在が、この世界に住む人々の人生を狂わせるんだと!!」


「その前に異世界人である僕らがこの世界に来ている時点で、すでに狂わせられているよ。君もそうだと言うことを、君こそ自覚したほうがいいんじゃないかな?」


 売り言葉に買い言葉。堂々巡りである。


 このままでは埒が開かない。


 だったら僕の二つ目の切り札を、出すとしよう。


「キエル、もういけるよね?」


『……ええ』


「っ!?な、なんで生きて……」


 そして今まで倒れていたキエルがのそりと起き上がった。

 

 まるで死者蘇生である。


 しかし彼女の死は彼女自身で偽装されていたものだ。つまり最初から死んでいなかった。


「キエル……いや──。存分に」


『えぇ。っ!!私は最初から、!!』


 そう叫んで、ついに発動させた。


『来なさいっ!!!!』


 





 ──そして神がもう一柱、降臨した。







愛無き者に制裁をジ・アグライア



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 追記

 10/12 誤字修正いたしました。


 追記

 新作書きました!!良かったら読んでください!!


  チョロイン、覚醒す〜彼女を陰から見守る僕の観察日記〜

 https://kakuyomu.jp/works/16817330665421236123

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