第42話  

「……長かった」


 今では制限なく使えるようになった時の神クロノスによって止まった世界で私はしみじみと噛み締める。


 やっと、仕込んだものが全て揃い、春樹をこうして捕まえることができた。


「……」


 このまま殺す……でもいいが、もし転生でもしたら恐ろしいと感じてしまう。ただでさえ異世界転移があったのだ、異世界転生もあり得るだろう。

 こいつが別の世界で今と同じようにしたら。


 やはり封印が妥当か。


 しかし封印となると、どこかに幽閉しないといけない。それに加えて万一に備えてこいつがスキルを使えないようにするのとこいつに宿っている魔王の魔力を無くさないといけない。


 きっとこいつに宿っている魔王の魔力は謂わば借り物。故に一度霧散させることができれば、こいつは二度と魔法を使えなくなるだろう。


「破魔の短剣」


 そう考えたが為に、私はカルナル教の総本山からこれを持ってきた。


 私は懐からもう一本の短剣──本物の破魔の短剣を取り出す。


 



 封魔の短剣が刺さっている方とは逆の脇腹に刺した。


「っ」


 慣れない。この肉を貫通する感触は。


「はぁ……」


 思わずため息を吐いた。こんなこと、本当はしたくない。というか、こんなことをすることになるなんて想像してなかった。


 日本にいた時でも、こんな物騒なことはしなかった。

 ……こいつはしていたようだけれど。


 しかし、どうしてこいつはこんな事をするようになったのだろう。その頭脳があればもっと別の、いいことに活用できると思うのに。


 こいつの先を読む力は物凄いもので、まるで未来を読んでいるんじゃ無いかと思えるほど──



 パキッ。



「っ!?」



 その時、


 何が起こったのか分からない。だが、今私の目の前には亀裂が見える。空中にできた亀裂が。


 この亀裂がなんなのか……まさか。いいや、そんなことは無いはずだ。


 ──












「──あるお爺さんは言いました」



 その時、その亀裂の奥から声が聞こえた。

 嘘だ、ありえない。


 私の頭の中が混乱で支配される。


 今までこんなことはなかった。この時代に戻るまで、幾度となくいろんな敵と闘ってきたが、時の神クロノスが破られることなど一度もなかった。


 スキルを覚醒していた敵とも戦ったが、その時も時の神クロノスが破られはしなかった。

 

 スキルを覚醒しているかどうかはかなり大きい。


 それはつまり、敵の攻撃に対抗できるかどうかに繋がるからだ。



 魔法操作を鍛える──魔法耐性を上げる。


 スキルを使い切る──スキルの使用に慣れ、最大限スキルの力を引き出せるようにする。


 つまり、スキルを覚醒させるということは──魔法耐性力分相手のスキルの効果に対する耐性が上がり、今まで以上にスキルの力を引き出せるようになる、ということに繋がるのだ。



 私のスキルはこの120年で最大まで強化されたものだ。

 スキル天使は120年前にスキル天使長てんしちょうに覚醒したが、更に120年の時を経てスキル天乃神あまのかみへと覚醒させることができた。


 まさかスキルに2段階覚醒があるとは思わなかったが、それと同時に私に勝てる者などいるとは思わなかった。



 それが──












「──絶対は存在しないと」



 その瞬間、私の世界が崩壊した。



「麗華が今までしてきたこと、僕は知ってるよ。120年、僕を止めるためにご苦労様」



 そして目の前にいるのは脇腹に封魔の短剣と破魔の短剣を刺したまま、がそこにいた。


 

「ど、どうして……」


 私は無意識のうちにそう呟いていた。神の力はこの世界なら絶対のはず。

 それが、たかが言語スキルに敗れるはずがない。


「まぁ、君の敗因はあれだよね。自分のスキルの力を過信しすぎたことだよね。無論、確かに君のスキルは強力無比。神の力を使えるという時点で頭がおかしなものだ。が、それでも。ほんと、天使下僕の名に相応しいよね」


「……っ」


 詰めが甘かった。少しでもこいつに隙を見せてはいけないとわかっていたはずなのに。


 でも──


空の神ウラノスっ!!!」


 私は即座にもう一度自分のフィールドに彼を強制的に引き込もうとする。

 スキルが部屋中を駆け巡り、一気にこの部屋を空の世界に変わろうとする。


 が──






「──極上の善意ネヴァルガル






 瞬間、私の世界が別の物に置き換わってしまった。

 

 部屋中にあった空の青は一瞬で黄金の輝きに変わった。


 それはまるで、判決を下す直前の神の御前の世界のような──



「ねぇ、ハルキ」


「ん?」


 

 その時、春樹の後ろから可愛らしい声がした。


 しかしその声の主から発せられる圧は底知れない物だが。


 私は思わず冷や汗をかいた。


 こんな……っ!!


 それに──何で!?


 勇者銀上に殺されたはずだろう!?私はこの目で魔王が殺された瞬間を見た!!それを見たから安心してアランらを殺せたと言うのに……!!



「こいつが、私が魔王になった原因?」


「うん、そうだよ。こいつが魔族の国の国教を変えた張本人さ」


「……そう、なら──」



 その瞬間、彼女が纏っていた空気が変わった。


 底知れない圧は消え失せ、代わりに──








『選べ、女子おなご







 神気を纏った、本物の神が現れた。



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 追記

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 追記

 新作書きました!!良かったら読んでください!!


 チョロイン、覚醒す〜彼女を陰から見守る僕の観察日記〜

 https://kakuyomu.jp/works/16817330665421236123

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