第40話
彼女──キエルと呼ばれたトカゲの死体を見ても、少し驚いた様子ではあったものの、特に彼には変化が見られなかった。
それを見た私は、ああやっぱり彼はどこか壊れていると察した。
そして数分彼はトカゲの死体を見つめた後、何もなかったかのように私の方に顔を向けた。
「やっぱ麗華だったんだね。全く……めんどくさいことしないでよ。君に割く思考は一ミリたりとも無いんだよね」
「……そういうと思ったわ。だからこんなにも簡単に釣れたんだもの」
「正直驚いたよ。いつからランバルトを仲間にしていたんだい?」
「最初からよ」
私はようやく因縁の相手──甲崎春樹を捕まえることができた。
彼は日本にいた時からこうだった。
いつも飄々としていて、誰ともつるむことなく陰でこそこそやっている。それは小学生の時からだった。
小3の時、私と彼は同じクラスになった。
そして夏休みが開けた直後、クラス内で彼に対するいじめが始まりかけた。きっかけはなんだったのか、私にはわからなかったのだが、確実なのは彼に対するいじめが始まった。それだけだ。
しかしそれは一日で収まった。
普通ならそれはいいことなのだろう。が、その終わらせた方法がよくなかった。
何とネット上に私たちが通っていた学校の不祥事が上がったのだ。
最初リークしたのが誰か分からなかったが、ある時私は偶然誰がリークしたのを知ってしまった。
──それが甲崎春樹だ。
それ以降、彼は自分に降り注いだ悪意全てを20倍で返していた。
果てには経済を回して、過剰とも思える報復をしていたりとかもしていた。
しかし一番恐ろしいところは、彼がやったという痕跡が何一つないということだった。
私がどれだけ調べても、彼の足跡どころか存在すら見つからない。まぁ、学生の情報収集力などたかが知れている。
なので、知り合いに情報収集が得意な人がいたのでその人にも頼んだ。
が、それでも彼がやったという証拠が見つからなかった。
でも私は確信していた。彼がやっていたと。
そして中学2年生になった頃、遂に彼は今まで報復のためにしていた暗中飛躍を、趣味にしてしまった。
そのせいで今まで何人もの人間の人生が狂ったのか……私と知り合いが調べる限り少なくとも50人以上いるはずだ。
彼が裏で糸を引いていた事件は数知れない。だが痕跡が全くと言っていいほど無い。
そんな彼を止めるために、私はこの世界に来てから色々準備をしてきた。
そして遂に、それが達成された。実を結んだのだ。
「凄いねぇ……君も僕みたいに暗躍できるようになったんだ」
「……あなたと同じなんて、嫌だわ」
「そっかぁ……残念」
どんな状況でも、彼は感情を表に出すことが無い。今も飄々とし、のらりくらりとしている。
それが無性に腹立たしい。
何か、彼がまだ仕掛けていそうで。
だったら──少しずつ化けの皮を剥がしてやる。
『お、無事捕まってるなぁ、おい』
「ん?あぁ、グリモンドか。やっほー」
『……何でこいつはこんなにも余裕そうなんだよ』
「そんなの私が聞きたいわよ」
奥から私の協力者であるグリモンドドラゴンが二体やってきた。
「あ、スバルじゃん」
そのうちの一体であるスバルと彼から呼ばれていたグリモンドドラゴンは顔を歪ませて言った。
『……ご主人、大人しく死んでくれ』
「え、なんでよ」
『……天使様から全て聞いた。最初から俺たち魔獣は天使様の味方だが、それを差し置いても……大人しく死んでくれって思ったんだよ』
「そっかー。でもまだ死にたくないかなぁー」
これでも彼の顔が様子が変わることは無かった。
しかし私はそれは強がりだと判断した。
スキルを覚醒させてない、その上ただの言語スキルなんかに私が負けるわけがなかった。
スキルは覚醒する。
それは結構知られているようで知られていない。知っているとしてもそれは国の重鎮もしくは教会のトップぐらいだ。
勿論私も覚醒させている。
そんな私のスキルは──
「
瞬間、私の視界は二色のみに変わった。
私以外の時が止まったのだ。
周りを見ても誰一人動こうとしない。ちゃんと機能しているのを確認して私は少しだけ安心した。
そして私は目の前にいる春樹に目を向けた。
「っ!?」
その時一瞬、彼の目が私の目と合った気がした。
しかし、彼が動く気配は無い。
「……気のせいのようね」
私はそれは偶然だと切り捨てた。この時が止まった世界で動けるのは私と時を司る神であるクロノスだけだ。
まさか地球と同じくこの世界でもクロノスと言う名前を聞くとは思わなかったが、なんにせよ私は運が良い。
このスキル──天使を得て、覚醒によって神の力の一端を使えるようになったのだから。
「彼女のスキルは……“天使”、です」
私たちがこの世界に来てから初めてのイベントだったスキル鑑定。
私の番が回ってきて、私が水晶玉に手を触れてから鑑定士にそう言われた瞬間、私の頭の中にこのスキルの概要が流れ込んできた。
私のスキル、天使には元々二つの力があった。
それは限定使用“
しかしその二つは限定使用とあるように、使用回数制限が設けられていた。その回数はたったの三回。
戦闘に使おうにも使い時が分からない上に、無駄に回数を消費してもよくない。
それにどんなものなのかスキルを得たときはよく分からなかった。
しかし
そう仮定した私はスキル鑑定が行われた次の日の深夜、自分一人しかいない部屋の中でそのスキルを使った。
「──
そして私の姿はその場から消えて、今からおよそ120年前にタイムスリップした。
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