第35話

「ん?」


「どうしたんだい?深山さん」


「……なんでもないわ」


 突然深山さんがあらぬ方向を向いたので聞いてみたがはぐらかされてしまった。


 今俺たちは仮拠点で休憩をしていた。


 と言うのもグレムリンの巣をくまなく調べたのだが奴らが消えた理由もどこに行ったかすらも分からなかったのだ。


 それに加えて調査中に突然現れた魔獣──フォレストウルフの群れが俺たちを襲ってきて、それの対処にかなりの時間を使ってしまった。


「あのフォレストウルフの群れは一体どこから来たんだろう……」


「さあ?でも森だったらどこでもいるでしょ?奴ら」


「確かに」


 それから深山さんは俺と少しだけ話した後、どこかに行ってしまった。

  

 ずっと何か考えていたのだが何を考えていたのだろう。


「あ、銀上君じゃん。何してたの?」


「ん?木山さんか」


 最近よく話すようになった木山さんがテントから出てきた。

 彼女はここ最近強化魔法でいろんなところで活躍していて、みんなから結構頼りにされている。


「さっきまで深山さんと話してたんだよ。ずっと別のこと考えていたらしいけど」


「ふぅん……」


「にしても深山さん、ここに来てからよくほかのみんなと喋り始めたよな」


「確かにね。彼女前はみんなと遊んだりはしてたけど、あんまり自分から話題を振ろうとはしなかったよね。何か彼女の中で変わったのかな?」


「……もう少しで魔王討伐が果たされるから、じゃないのか?それが終わったら多分深山さんは……」


「教会所属になって、総本山に行くんだっけ」


 そう、彼女と他数名は魔王が討伐された後教会のほうで働くことがすでに決まっているのだ。

 まぁ彼女のスキルが天使だということを考えれば分かることだろう。


 未だどんなスキルなのか分からないのだが。


「まぁ、今回で死ななかったとしてもすぐに私たちと別れるんだもん。少しでも関わりを持っておきたいのかもしれないわね」


「なるほどね」


 




「……これで最後か」


「うん。他のグレムリンは……いないね。全滅できたようだ」


「だが西、そうだとしても警戒はしといた方がいいだろ。怠るなよ」


「分かってるよ」

 

 西にそう告げつつ俺もまわりに他の気配がしないか神経を張り巡らせた。

 しかし、どこにも魔獣の気配がしなかった。


「アラン団長、これが最後ですか?」


「そうですね。この森にあったグレムリンの巣はこれで最後でしょう。皆さんお疲れさまでした」


「「「「「「うおおおおお!!!」」」」」」


 仮拠点を作りグレムリンの巣を潰し続けること一週間。遂にグレムリンの駆逐がアラン団長によって宣言された。


 これでようやく魔王討伐に向けて移動することができる。


 俺たちは地獄の一週間を乗り越えたのだ。


「明日休憩を挟み、その後魔王のいる死の荒野へと行きましょう。ここからが正念場です。皆さん、気を引き締めていきましょう」


「「「「「「はいっ!!!」」」」」」



 その後俺たちは仮拠点に戻ってからみんなで駆逐お疲れ焼き肉パーティを開き、それが終わった後はそれぞれ思い思いの時間を過ごした。

 

 ある者は一日ぐっすり寝たり、ある者は自分のスキルと向き合い魔王討伐の準備をしたり。


 ちなみに俺は仮拠点から少し離れて森の中で静かにスキルの調整を行っていた。


 というのも、フォレストウルフと戦った時、少しだけスキルの発動が思っていたよりも遅く感じたのだ。


「光の剣を、ここに」


 俺は一言そう発すると、手に重さを感じた。手元を見ればそこには光で出来上がった剣があった。

 

「……遅い」


 しかし、前よりも遅いと感じてしまった。

 どうしてだろう。出したと思った時にはまだ出ていなかった。そのズレがどうして今……。


 だが悩んでも仕方ない。


「光の剣を、ここに」


 もう一度俺は剣を生成する。

 今度は魔力の流れを早くするように意識をしながら。


「っ!?」


 すると今度は早すぎて俺の手から生成された剣が零れ落ちてしまい、地面にそれが触れて消えてしまった。

 スキルで出来上がった剣はひとたび手から離れると自然と消えてしまう。


 生成に使われた魔力は空気に溶けていった。


「……そうか」


 そこでようやく俺は不調の原因に気づいた。


 身体能力がここ最近魔獣を殺し続けたことで飛躍的に上がったが、魔力操作が全く成長していなかったのだ。


「……」


 俺は目を瞑って魔力を自分の体で動かし始める。できるだけ早く動かして魔力操作に慣れるためだ。


「……っ」


 少しずつ早めていくと、とある速度を超えたあたりで少しだけ制御が難しく感じてしまった。

 つまり今の自分の限界がここだということだ。


「……今日中に慣れないとな」


 明日からの魔王討伐に向けて、俺は一度初心に戻り、基礎から訓練をし直したのだった。



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