第32話
そしてアグライア母がトリップし始めるとそれに同調するようにアグライア父、そして牧師がそれぞれ叫びだした。
五月蠅い。
だがまぁ、彼らの言葉を聞く限り、この村に愛着と言うのは無いようで、一度も村民を案じたような言葉を聞かなかった。
そして、娘であるアグライアのことも。
彼らはアグライアのことを神の依り代としか見ておらず、しきりに彼女に神を降ろすんだと叫んだ。
そこには家族に向ける愛情など存在していなかった。
ただただ狂信的に、神カルナルを始めとした十二神を何も疑うことなく信じていた。
そこにははもう信じるだけで考えることを止めた、三体の人外がいた。
「もうそろそろ黙ってほしいけど……」
「……」
アグライアは何も喋らなくなった。その顔には絶望が張り付いていて、今まで信じてきたものが彼女の中で瓦解し始めているのだろう。
「か、母さん……」
「?なんですか?アグライア様」
「……私は、母さんの娘じゃなかったの?」
「娘……ですか?何をおかしなことを。あなた様は神子であり、十二神のお一方でしょう?私には娘などおりませんよ」
「……っ!?」
神子──神の依り代とも言えるそれの扱いは基本的に二つに分かれる。
普通の子のように愛情を注がれ育つのか。
それとも、特別視され担ぎ上げられるか。
「そんな……それじゃあ今まで」
「ええ。よくお育ちになられました。後はその身に神アグライア様が降りるだけです。生贄はこの村の住人全員で問題ないでしょう。我ら三人で神アグライア様をお迎えするのです」
「……っ!?」
彼女らは既に村の住人一人残らず死んでいるという事を知らないのだろう。
だって僕らがこの村で虐殺を始めたとき、彼らの姿は既にこの地下にあったのだから。
15歳になった彼女はついに神をその身に降ろせるほど体が頑丈になった。故に彼らは進めたのだろう──この魔法陣の制作を。
そして疲れ果ててここで寝てた……概ねそんなところじゃないか?
村の事なぞどうでもいいとばかりに、彼らは神の姿を拝みたいというその願望だけで村の住人を犠牲にするような暴挙にでた、と言う訳だ。
これが僕がこの村をグレムリンたち魔獣たちの棲み処にする場所として選んだ最大の理由だ。
僕の予想ではきっとこのまま見過ごしていたら深山が強化されてしまっていた。
それだけは看過できない。
彼女のスキル──天使はきっと、神に下って初めて力を発揮するものだと思われる。天使……つまりは神の僕。
神の寵愛を受け力を授かり、悪を撃つ。
この悪は神の敵──魔獣を指している。
「ふぅん。で、君たちだけなの?その神を迎えるのって」
「貴様……!神アグライア様をそんなぞんざいに……許さない!!」
「君たちが興奮していたのか分かんないけど、そろそろ自分たちが置かれてる状況を理解した方がいいんじゃない?」
「ふん、そんなものは理解している。こんな鎖、すぐにでも──は?」
「おや?何をしたんだい?」
『私の鎖に干渉しようとしたみたいね。でも、こいつら程度の実力じゃあ私の鎖には干渉できないわよ』
「へぇ……」
「どうしてっ!?どうして俺たちの魔法が効かないっ!?」
「私たちは神カルナル様たち十二神を心から崇拝しているのにっ!?どうして!?」
本当につまらない。
ま、今の僕の関心は後ろで呆然としているアグライアだ。
「アグライア、どうやらこの村は僕らの手で壊滅しなくてもそれほど遠くないうちに壊滅したらしいね」
「……」
「その原因の一端は君にあるようだけど……」
「……私が存在した、せいで。皆が」
「そうだね。君がこの村に生まれてしまったから、いらない死が生まれてしまったね」
「……私が、いたせいで」
「うん。もし君がいなかったら僕らも来なかったかもね。そういう意味では、君は忌子と言えるかもしれないね」
「……」
「貴様ァァァァ!!!アグライア様を侮辱するなアアアア!!」
「クソ牧師は黙ってろ」
僕は彼を黙らせるために取り敢えず彼の右足を魔法で切り落とした。
「っ!?ぐっ、アアアア!!!!なんで貴様のような背信者が無詠唱を使えるウウウウ!!!」
「信じる心で魔法の力が変わるんだったらそれはただのゴミでしかないよ」
この世界が安定してきたという事が魔法がそんな不安定な力ではないことの証明になっている。
不安定な力はいらないと、世界がそう事実で語っているのだ。
「……私は、忌子」
「そうだよ、アグライア。君は神の子なんかじゃなかったんだよ。人々を欲望の渦に沈める、忌々しい子供だったんだよ」
「……私という存在が──悪」
「現にここには強欲の沼に沈められた哀れな者が三人もいるじゃないか。これも全て、君がその身に神を宿せるからこうなったんだよ?」
「……私がいなければ、母さんたちは、狂わなかった」
──私のせいで。
遂に、彼女の心の器が限界に達した。
自分を心の中で戒め続けた彼女は遂に自分を悪だと認定した。
そんな彼女に反応したのか、地面に描かれていた魔法陣が突然光りだしたと思うと、その光は一点──アグライアに集中し、バキッと言う音と共に、彼女を縛っていた鎖が破壊された。
『っ!?私の鎖が壊れたっ!?』
その事に驚いたキエルは再度彼女を縛ろうと魔法で鎖を出そうとする。
「やめろキエルっ!」
『っ!?わ、わかったわ』
僕はそれをすんでのところで止めた。
今、彼女を刺激してはいけない。
「キエル、これは儀式だ」
『儀式?』
「うん。神になるための、ね」
『神!?そ、それってよくないんじゃ……』
「グリモンドなら、今の彼女の気配について、わかるんじゃないかな」
『……あぁ。ようやくお前が何をしたかったのか分かったぜ。成程これは確かに、ネヴァの姐さんには言えねぇな』
カルナル教が崇めている対象である神カルナルを始めとした十二神には、一つの間違いも、戒めも、悪性も無いという。
だが、悪性を持ったと自分が認識した状態で神になろうとしたら?
答えは簡単。
「な、何……こんなの、知らない。アグライア様が……アグライア様がぁ」
「お、おい貴様、アグライア様に何をした!?」
「神が降臨されるはずなのに……なんですかこの禍々しい気配は」
三者三様、リアクションはそれぞれ微妙に違っているが、共通しているのはこの現象に戸惑っているという事。
「何って、あなた方が望んでいた神が降臨する、それだけだよ」
「こ、こんなのアグライア様じゃないわっ……な、何かの間違いよっ!!!」
「わ、我らのアグライア様が……」
「こんな禍々しい魔力──まさかっ!?」
さァ、神が御降臨為されるぞ。
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追記
やばい。Fate SRくっそおもろい。
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