第31話

「神下ろし……ねぇ。知ってるの?キエル」


『ええ。そりゃあ勿論。魔法をほとんど習得しているからね。でもいくつか私には使えないって魔法があるの。その一つがこれよ』


「神下ろし、と言ったね。どんな魔法なんだい?」


『文字通り神を下すのよ。この現界にね。勿論代償とか生贄は必要だし、どれくらい神が顕現できるかはその生贄次第だけど。この魔法陣を見ると、どうやらこの村全体を生贄として発動するみたいね』


「この村全体……あぁ、そう言えば君の両親、確か魔法士だった気がするけど……どうなんだい?」


「……え?」


「両親が何かこの魔法陣について話していたかってことだよ」


「……分かんない」


「そっか。うん、なるほどね。それでキエル、他にも何か魔法陣に描かれていることとかある?」


『あー……どうやら代償と生贄は


「だそうだけど……あ、そういえばキエルの声が聞こえないんだっけ。だったら彼女が言った言葉を僕が言うけど、どうやらこの魔法陣が得た生贄とかは一個人に向けられたものなんだけど……おや?どうしたのかな?そんな真っ青な顔してさ」


 と、僕がキエルの言葉をそのまま話すと彼女は顔をどんどん真っ青にしていった。どうやら心当たりがありそうだ。


 まぁ知っててこの子だけ殺さなかったんだけど。



 この世のものとは思えないほど透き通る金髪に、整った顔。いや、と言うべきか。


 更に豊かに育った双丘は、男の目を惹きつけるには十分だろう。


 ネヴァが可愛らしい幼女だとしたら、彼女は美しい少女だろうな。


 多分銀上とかは一眼見たらすぐ惚れるんだろうな、これ。 


 まぁいい。


 僕が着目したのはその容姿だ。


 さっきもちょっとだけ言ったが、あまりにも

 それはまるで








「アグライア」







「っ!?」


「君の名前はアグライアだね?まさか僕がいた世界の女神の名前を冠すとは驚いたよ」


「僕がいた世界……?──っ!?ま、まさかあなたは……!?」


 彼女が何か騒いでいるのか知らないが、僕は最初その名前を聞いた時大いに驚いた。



 女神アグライア。

 ギリシャ神話に登場する女神の一人で、アプロディテの侍女である三美神・カリスの一柱。

 そんな彼女は典雅・優美を司る女神で、その名は「輝き」を表すことで知られている。


 そしてその女神アプロディテは愛と美と性を司る女神だ。


 と言うのがギリシャ神話における彼女らだが、僕が考えるに少なからずこれが関係している。


 故に彼女の容姿はこのように美しくなった。




「生まれた時から君は神子だった、と言うことだね。それを知った牧師は君に内緒で君を使って実際に神をこの世界に下ろそうとした。生贄は普通だったら街一つ分の人間が必要だったが、君が神子だったからこの村の住人で十分だったんだろう。そしてこの村はカルナル教の狂信者がまぁまぁいて、君の両親もその一人だった。だからこの魔法陣の協力をしたんだね」


「……私は本当に知らない」


「だろうね。ま、聖書を読んでいた君だ、僕が話していくと少しずつ分かったんだろう?」


「……」


「ははっ、本当にさ、人間って業が深いよね。笑っちゃうくらいさ」


「……あなたもその人間でしょ」


「うん」


 さて、と。


 僕は取り敢えず魔法陣に近づいてその中心に立ってから周りを見回す。


「あ、いたね」


 魔法陣のそばで壁に体重をかけてぐだっと脱力している三人を見つけた。


「あ……父さん、母さん……牧師様──え?なんで母さんがここに……さっき上で」


「ん?あ、ほんとだ」


 確かにその3人の顔ぶれのうち、女性の方はさっき上で見た。つまりあれはダミーだったのだろう。


 知ってたけど。


「起こそっか」


 そう言って僕はキエルに目配せして、追加で魔法を使ってもらう。

 それはアグライアを縛っていた鎖と同じものだった。


 そして鎖は彼らをいつの間にか作っていた十字架に縛り付けた。


 余りにも自然に複数の魔法を使うもんだから、僕はキエルの魔法技術に思わず舌を巻いた。


『さて……』


「っ!?あああああああ!!!!!」


「痛い痛い痛い!!!」


「ぐおおおおお!!!」


 そして鎖が急速に締め付け始め、その痛みで三人は起きた。


 その締め付け度合いは彼らの皮膚が少しだけ切れたほど、と言えばわかるだろうか。

 明らかに千切ろうとしている。そうとしか思えないほどキエルは魔法で締め付けていた。


「キエル、そこまで」


『はぁい』


「はぁ……はぁ……」


「くっ、だ、誰だ貴様はぁ」


「っ!?アグライアっ」


「っ!?」


 アグライアの母さんが言った言葉にアグライアが驚いた表情をした。

 

 それもそうだろう。


 今まで慕ってきた人からと呼ばれる……突然そう言われたら誰もが戸惑うはずだ。


「どうして自分の娘のことを様と呼ぶんだい?」


「はぁ?あなたが誰なのか知らないけれど、神様に対して様と呼ばない方がおかしいでしょう?」


「……」


 自分の娘が今どんな顔をしているのか分かっていないのだろう、彼女はどんどん目を見開かせ陶酔していく。


「神カルナルを始めとした十二の神々っ!!その中でも女神アグライア様は光の象徴!!我らを照らす光なのよっ!?崇めて当然でしょう!?」


「……」


「故にっっっ!!!!この混沌とした世界に神を降臨させるっっっ!!!それだけがこの世を救う術なのよっ!!」



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