第24話

 吐きそうになる気持ちを抑える。


 今までも盗賊など、人間を殺す機会はアラン団長から与えられ、慣れたわけではないが、殺しても吐き気などは最近生まれてこなかった。


 しかし今回は最初に盗賊を殺した時のような不快感が俺を襲った。


 何故だ。同じ悪人を殺した。それだけなのに。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


「ククッ、ハハハッ……遂ニ殺タナァ、人ヲ」


「……五月蠅い。そんなことよりも戦ってる最中に言っていたについて教えろ」


 俺は剣を杖代わりにしながら、俺の足元に大量の血を流して倒れている本条にそう聞いた。

 

 しかし帰ってきたのは否定だった。


「ハハッ、言ウ訳ナいダロウそんナ事。俺のコノちからは俺のものだ」


 体の中に在った精神を狂わせる魔法が抜け始めたのか徐々に言葉が元のものになっていく。

 

 紫色の魔力が、本条から抜けていくのが分かった。


 すると本条はハッとこちらを馬鹿にしたように笑った。


「これだけは言ってやる。俺はあえて


「……は?」


「ふん、その偽善が崩れることを心の底から祈ってるぜ……」


 そう言って本条の体から力が抜けたことが目に見えて分かった。


 死んだのだ。


「……」


 最後まで俺に対して毒しか吐かなかった。そんな本条が死んだことに俺は素直に悲しむことができなかった。


「……銀上」


「帰ろう。今日はもうこれ以上は行けない」


「……そうだな。お前らもいいな」


「あっ、ああ。もちろんだ」


 そして俺たちは不快の森を出た。




「……そうですか。ホンジョウが」


 俺たちはアラン団長の元に向かい、本条のことについて話した。

 すると団長は難しい顔をして何やら考え始めた。


「取り合えずホンジョウのパーティメンバーは一旦ここに待機としましょうか。いいですね?」


「……はい」


 そして本条のパーティメンバーはこの場から去った。去り際に見た彼らの顔には共通して今日起きたことに対する恐怖が張り付いていた。

 

 それを確認した団長は俺たちの方を向いた。


「アキヒサ。これはまずい事態です」


「……はい」


「これ以上時間を使ってしまってはさらに被害が広がってしまいます。よって、早急な不快の森攻略をここに命じます」


「っ!?」


「一旦全班を回収し改めて各々の魔法耐性について確認した後、人数を制限して攻略することにします」


「……わかりました」


 それからアラン団長は各班のリーダーに持たせていた魔道具で招集をかけ、集まった者たちに事情を説明した。


 その説明に誰もが言葉を失ったが、その後の行動は迅速に行われた。


 やはりそれができたのはアラン団長の言葉のお陰だろう。




『死にたくないのなら動きなさい』


 


 日本とは違い死がすぐそばにある世界だという事を俺たちは思い出した。


 初めて魔獣を討伐したあの時に感じた命が奪われるかもしれないというあの恐怖。

 みんなそれが頭の中に浮かび上がったのだ。


「それでは行きましょう」


 そして二日後。

 俺たちは再び不快の森の入り口に来ていた。


「それじゃあ行くぞ!」


 そして久馬と俺を先頭に前以上の人数で行くことになった。

 昨日のことなど頭からもう消した。


 あいつのことなんて、今はどうでもいい。


 俺は気持ちを切り替えて不快の森の行けるところまで行った。


 そして、本条を殺したあの場所に来た。


「ここから先は、未知の領域だ」


「気を引き締めていくぞ!」


 金田が俺の代わりにみんなに声をかけてくれた。こういった時金田が声を出すとみんなの意識が変わる。


 この役割は俺にはできないからな。


 とても助かっている。


「入る前にみんなにバフかけるね」


「あ、私もやるね」


 そう言って木山ともう一人の強化魔法使いである海子さんが急いで魔法の準備をし始めた。


 海子三己うみこみみ

 彼女も木山さんと同じく強化魔法の貴重な使い手で、彼女のスキルは“コマンド”というものだ。

 まぁ、それがどういったものなのかよくわかっていないのだが。


「ありがとう二人とも」


「ありがと~!」


 パーティメンバーがみんな口々に二人に礼を言った。


 みんなコンディションは良さそうだ。これなら──


「アラン団長曰く、この精神を狂わせる弱化魔法──デバフが発動したあの地点を抜ければ俺たちが倒すべき魔獣がいる場所は近いらしい。だから三日くらいで決着を付けよう。それでいいか?」


「ああ。俺たちなら多分いけるだろ。パーティを分けて探索してある程度目的の魔獣がいる地点は把握できている。彼らの働きを無駄にしないためにも、彼らの情報を有効活用しないとな」


 金田の言葉にパーティメンバーの多くが賛同した。


 今の俺たちならきっとこの森の奥にいる魔獣を討伐できる。俺はそう確信した。



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