第22話

 不快の森を探索し始めて一週間が経過した。


「はぁっ!!」


 俺は、手にしていた光り輝く剣で目の前の魔獣を斬り殺した。

 そして魔獣は大量の血を流し、その巨体を地に沈めた。


 それを確認した俺は静かに息を吐いた。


「ふぅ……これで最後か」


「俺たちだいぶ強くなったよな。初めて魔獣と対峙したときなんて、これよりも半分以上小さいやつに苦戦したんだから」


「そうだな……そう考えると、何だか成長したのがこうして目に見えた形で分かるって言うのは嬉しいもんだな」


 金田が自分の手を握りしめながら呟くと、それに反応した久馬が笑ってそう言った。

 

 確かに俺たちはこの世界に来た当初に比べたら明らかに成長している。


 こんな風に命のやり取りができるなんて夢にも思わなかった。


「先に進もう。この調子ならまだ行けるはずだ」


「一応バフかけなおすね」


 そう言って木山さんが手に持っていた杖を振るうと、俺たちの体が一瞬だけ光った。


 木山加恋きやまかれん

 彼女のスキルは増幅ぞうふくと呼ばれるもので、文字通り効果を増幅することができるものだ。それによる強化魔法と呼ばれる珍しい魔法を扱うことができる。


「これで大丈夫なはずだよ」


「魔力は大丈夫なのか?」


「うん。問題ないよ」


「もしきつくなったら近くにいる常葉か金田に言ってくれよな」


「ありがとう、銀上君」


 そして俺たちはさらに奥に進んだ。

 木山さんのバフのお陰で不快の森のデバフを弾くことができていた。そのお陰で比較的快適に攻略できている。



 この不快の森にはその名に相応しい特徴がある。


 まず、この森に入った直後、方向感覚を狂わせるデバフがかけられる。それにかかるともう二度とこの森から出られなくなってしまう。


 それを弾いて先に進むと、とある地点を超えたところで精神を狂わせるデバフがかけられる。

 これは最初は弱いものだが、奥に進んでいく度に少しずつ強くなっていって最終的に我を忘れて命が尽きるまで暴れるのだとか。


 そしてそれも弾いて先に進み、奥まで行くとその二つのデバフをかけた魔獣が鎮座している、というわけだ。


 その魔獣が鎮座しているところまでいくと最後のデバフとして神経を狂わせるデバフがかけられる。

 精神を狂わせるデバフよりも弱いように俺は思ったのだが、のちにこのデバフの効果を聞いた時、俺は思わず悪寒がした。



「おっ」


「ここか……」


 先に進むこと2時間。


 突然肌に感じる空気が変わった。


 それと同時に何か弾いたような感じがした。どうやら第二のデバフ、精神のデバフを弾けたようだ。


「ここから先が……」


「あぁ。さらに強力な──」


「アアアアアアアアアア!!!!!」


「「「「「っ!?」」」」」


 と、その時奥から男の叫び声が聞こえた。


「っ!?まさかっ!」


「あの野郎!?」


 俺たちは急いでその叫び声がしたところまで走っていった。


 そして俺たちは目の前の光景に絶句した。


「本条!!なにやってんだてめぇ!!」


「アァ?テメェハ……アァ」


 そこには、クラスメイトにまたがる本条の姿と、本条から離れて本条を警戒している他のパーティメンバーがいた。


「ぎ、銀上……た、助けて」


「本条君がいきなり……!」


「デバフに抗えなかったか……!」


 金田が本条の姿を見て、グッと言葉を滲ませた。


 精神を狂わせるデバフは、魔法の効果に対する耐性──魔法耐性を鍛えればバフなしでも耐えることができる。

 本条以外の彼らはそれをしっかりと鍛えていたようでちゃんと弾くことができていたが、彼はどうやら鍛えていなかったらしく抗うことができなかったようだ。


 そして彼は、クラスメイトを殺した。


「っっっ!!!!本条!!!」


 その事実が、俺の中にあった何かが切れた。


 奴が俺の中にあった仲間殺しという禁忌を犯したからか、それとも──


「光よっっっ!!!」


 俺は剣を抜き、魔力を剣に込める。


「ギンジョオオオ!!!!」


 そして本条は自身の中に在った魔力を高め、そしてその体を


 これが奴のスキル、火炎魔かえんまだ。


 やつは思うがままに炎を出すことができる。それを自分に纏わせることで様々なバフを得ることができるのだ。


 しかしその様々なバフの中には魔法耐性が含まれていない。


 もしやつが魔法耐性を鍛えていればこうはならなかっただろう。


「お前……自分が何したか分かってんのか……?」


「アァ?ジャマモノヲコロシタ。タダソレダケダガ?」


「お前の足元にいるやつは、俺たちの大事なクラスメイトだぞ!?」


「ダカラナンダッテイウンダ?」


「っ!?」


 そして本条の声が少しずつ明瞭になっていく。


「貴様ハ日本ニイタ時カラソウダッタ。薄ッペライ正義ヲ掲ゲ、ショウモナイ偽善を信ジ続ケタ」


「……薄っぺらい正義だと?ふざけるなっ!!」


「何モフザケテナドイナイサ。タダ同郷ノ者ガココデ俺ニ殺サレタ。ソレダケノ話ダ。ココデハ自分ノ命ノ管理ハ自己責任。コイツガ油断シテ俺ニ殺サレタ」


「……人殺しは犯罪だろう」


「ココデハ違ウ。俺ノ足元ニイルコイツハヘマヲシタ。ソレダケデコイツハ殺サレルニ値スル」


「……」


 俺は静かに剣を構える。見据えるのは目の前の敵だ。


「俺ヲ殺スノカ?」


「……お前は、この先生きてはいけない。魔王を討伐するために一致団結しないといけないこの時に、お前のような奴がいると、仲間を次々に失ってしまう」


「ハハッ。人殺シ」


「っ!!」


 俺は奴の言葉を封じるために、光り輝く剣を力強く振るった。



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