第21話

「この世界に来て……一か月、かぁ」


 僕は仕事をしながらふとこの世界に来た当初のことを懐かしんでいた。


 この一ヶ月、色々なことがあった。


 今日から、僕の本当の異世界生活と言うのが始まるのだ。



***



(side 銀上明久)


「……今日からか」


 つい最近まで王都周辺で魔獣退治を行ってきた俺たちは、いよいよ魔王を討伐するために本格的に行動を開始することになった。


 そして最初に攻略するのは不快の森と呼ばれる王都から見て西の方に位置する、中に入った人を狂わせ殺していくと言う森だ。


 そしてその人を狂わせているのがどうやら魔獣によるものらしく、今日から俺たちはその魔獣を討伐するべく馬車で移動することに。


 この森を攻略すれば、魔王がいるとされている死の荒野へグッと近づくことができる。


 俺たちがこの世界に来る前に一度魔王を討伐するために連合軍が組まれたらしいのだが、その時使った道があまりにも遠回り過ぎた為、今回は近道するために段階を踏むことになった。


「ふぅ……」


 この日の為に俺たちは必死に訓練をしてきた。もう引き返せない。


「よぉ」


「……金田か」


「緊張してるんじゃないかと思ってな。お前が死んだら骨くらいは回収しといてやるよ」


「うるせ。お前こそ、死んだら肉片だけは取っといてやる」


「それはやだな。汚ねぇし、腐るし」


「だったら死ぬなよ。俺たちは魔王を討伐して、この世界に平和をもたらす象徴になるんだ」


 俺は自然と拳を力強く握っていた。

 しかし、金田が話しかけてきてくれたおかげで少しだけ肩の荷が下りた気がする。さっきよりはだいぶリラックスすることができていた。


「そろそろ行くわよ、二人とも」


「深山さん……」


 と、俺と金田が話しているところに馬車の方から深山さんが俺たちを呼びに来た。


 彼女に関してはこの世界に来て、今まで何をしていたのか全く分かっていない。


 スキル鑑定の際、“天使”スキルを与えられたあの時から、彼女は俺たちとは別行動だったのだ。


 まぁ、予想はできる。なんてったって天使なんだ、きっと宗教関連だろう。


「深山さんも来るんだっけ」


「えぇ。と言っても、私は今回戦闘には参加しないんだけどね」


 と、彼女は少しだけ申し訳なさそうに言った。きっと足手まといになるのが嫌なのだろう。


「奥で俺たちの戦いを見ていてくれよ」


「ええ。それじゃあ行きましょうか」


 そして俺たちは馬車に乗り込み、二日以上かけて不快の森へと向かった。

 

 俺が乗った馬車の中には俺のほかに金田、深山、アラン団長、そして久馬と常葉が乗っていた。


「ふぅ、ようやく着いたか」


「皆さんお疲れさまでした」


 そして俺たちは不快の森のすぐそばにある街──スパガラナ子爵領にあるホテルに来ていた。

 今日はこのホテルに一泊し、明日から不快の森攻略が始まる。


「よっす、銀上」


「お、常葉か」


 常葉秀歌とこはしゅうか

 彼女は日本にいたときから一緒に遊んでいたうちの一人で、俺と久馬、そして常葉の三人でよくつるんでいた。


 彼女のスキルは流動りゅうどうと呼ばれるもので、どんなスキルかはあんま分かっていない。

 彼女曰く、あんま使えないものだよ、だとか。


「今回は私と金田、あと久馬と木山さんと銀上でパーティを組むんだよね?」


「ああ、そうだな」


 そう、明日から行われる不快の森の攻略は何組かのパーティを組み、それぞれで攻略を進めることになっている。


「久馬がタンク、銀上がアタッカー、金田が遊撃、私が遠距離で木山さんがバファーってことだよね。バランス良いね」


「そこはちゃんと考えられて組まれてるんだろうな」


 パーティは向こうが勝手に決めた。まぁ戦い素人の俺たちより、熟練の彼らに任せた方が、こっちも安心と言うものだ。

 俺の場合運がいいことにパーティメンバーは仲のいい奴らが多い。


 勇者だからそこら辺は配慮されているのだろうか。


 まぁいい。


「今日はしっかりと休もうぜ」


「そうだね」


 そして俺たちはそれぞれの部屋に戻り、しっかりと休んだ。



 次の日。


「もし危険を察知した場合は馬車内で説明したとおり、リーダーが魔道具を起動させてください。では、各班行動開始!!」


 アラン団長のその掛け声に合わせ、俺たちは各自行動を開始した。


「よし、行こうか。久馬と俺を先頭に慎重に進んでいこう」


「「「「了解」」」」


 俺たちの今回の目標は安全第一。不快の森攻略は一か月以上かかると見積もって計画が立てられているため、今日はこの森がどんなものなのかを知ることに専念することにした。


「ふん、慎重にだと?勇者が聞いて呆れるなぁ……?」


 と、俺たちが森の中に入ろうとしたその時、横から何やら言われた。そこには日本にいたときから何かと俺を敵視していた、本条がいた。


 奴は日本にいたときと同じように、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながら俺を見ていた。 


「本条、何が言いたい」


「いいや別に?俺は勇者がそんなへっぴり腰でいいのかなんて言うつもりなんてないぜ?」


「……」


「おいおい、睨むなよ。俺はお前に文句を言うつもりはないんだ。ただ、そんな弱気だとは思わなくてなぁ、つい口を出してしまったってわけさ。悪く思わないでくれよぉ」


「はぁ……行くぞ」


「お、逃げんのか。まぁ別に俺はいいぜぇ?精々慎重に、ゆっくり探索でもしてろよ。その間に俺たちが攻略しちまうからさぁ」


 俺たちは奴の言葉を無視して先に進んだ。


 


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