第20話
「……」
僕は戸惑っていた。
僕の周りで起こっているこの竜巻が収まる気配を見せないからだ。
しかし僕の周りにいる魔王やスバルの反応に僕は一つ疑問を覚えた。
「……凄い、これは──魔力?」
『おいおいおい、これはどういうこったぁ!?さっきまでご主人は魔力なんて持ってなかっただろ!?』
そう、彼らが言うに、僕は今魔力を持っているらしいのだ。
しかし僕の体はさっき感じた違和感を解消した以降、その違和感はすぐに消え去りいつもの状態に戻ったのだ。
「あ、れ?」
『消えて……いってる』
竜巻が収まり始めた。と、同時に僕の中にあったと言う魔力もなくなっていった。
まるで空気が抜かれていく風船のように。
「なんだったの……あれ」
『わ、分かんねぇ──っ!?あ、姐さん!!魔力が!?』
「え……?あ」
と、誰もが呆然としていると、突然スバルがネヴァの方を向いて叫んでいた。その彼女は最初訳が分からなかった様子だったが、何かに気が付いたようで目を大きく開いていた。
「魔力が回復しない……!」
「……え?」
魔力が……回復しない?どういうことだ?
「私の魔力は使ったら自然とすぐに回復する……はず」
『そうだな。姐さんは空気中の魔力を吸収してすぐに自分の魔力に変換することができる。だからつい最近物凄い魔力を消費したせいでここら一帯は一度魔素が一欠けらも残らず消えた。時間が経って魔素が戻り始め、それで回復できるはずなんだが……』
「……できない。こんなの、初めて」
『……姐さん』
スバルが何とも言えない表情になっている。
「──GAAAA!!!」
と、その時奥から叫び声が聞こえた。僕はその声がした方向を向く。
するとそこには僕のムシカゲを拾ってくれた、クォーバルと呼ばれていた男がいた。
しかしあの時は喋っていたのに何で喋ってないんだろうと思ったが、そう言えばムシカゲを介してなかったことを思い出した。
『クォーバル!』
「GAAA、GA、GAA」
『お、おい落ち着けって!?これは事故なんだよ!!」
「GAAAAA!!!GAAA」
……何言ってるのか分からないけど、取り合えず僕に対して怒りを覚えていることだけは分かった。
まぁ自分たちが慕ってる人が急に魔力無くしたらそりゃあ怒るか。僕も何が起こったのか分かんないけど。
『と、とにかく、あとで説明するからよぉ、お前がここにいると面倒だ』
「……GAa」
なんか不服そうな顔をして彼は来た道を戻っていった。
最後まで彼が何を言っていたのか分からないかった。
「彼はなんて言っていたんだい?」
『あ、そうか。そう言えばご主人分かんねぇんだっけ。なんか変な感じだな、俺とは話せてあいつとは話せないだなんて』
「一応ムシカゲを介してならいけるけど」
『そうなのか。まぁいいや。あいつが言ってたのは案の定姐さんの魔力が急に消えたから何事だってことと、なんでここに人間がいるんだってことだ』
「あぁ、僕の顔知らないもんね」
『そ。だからその事について言ったら渋々だが戻ったってこった』
なるほどね。理由が予想で来ていたことだったので特に驚きはなかった。
「にしても、これはどういう事なんだろうね」
『姐さん、魔力どうなんだ?』
「……まだ回復しない」
『……もし今攻めてきたらまずいんじゃ──』
「ん?それは大丈夫だよ?」
『……は?』
何やらスバルが不安がっているので僕がそれを否定してあげた。それだけは絶対にありえないからだ。
『大丈夫って……どういうことだよ』
「考えてみてよ、向こうにそんな戦力あると思う?」
『で、でも勇者は──』
「あぁ、あれね」
そう言えばそうだった。
勇者って魔獣にとって恐るべき敵なんだっけ。
忘れてた。
「勇者はまだ特訓中だよ。だから問題なし」
『な、成程……ま、まぁそれなら……いいのか』
渋々だが納得したスバルは大人しく下がった。
その後また対応を考えようとのことで今日はこの辺で僕は帰ることにした。
「それじゃあスバル、よろしく」
『おう。そんじゃあ姐さん、またな』
「うん……」
そして転移魔法が発動しようとした、その時だった。
「ハルキ!!」
「ん?」
「また……会えるよね?」
不安そうな表情に一瞬僕の心がキュッとなった。この数時間でどうやら僕は彼女にほだされてしまったようだ。
そんな自分に失笑した後、なるべく優しい笑みを浮かべながら、彼女が安心するであろう言葉をかけた。
「……今度、来るんでしょ?こっちに」
「っ!うん!」
そして僕は彼女の笑みを眺めながらこの場から消えたのだった。
***
「それじゃあランバルト、お願いね?」
『おう、任せろ。んじゃあな』
ムシカゲからそう聞こえた後、それ以降ムシカゲからランバルトの声が発することは無かった。
「よし」
そして僕は仕事に行くために部屋を出た。
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