第17話
『なんか姐さんが来いだってよ』
「……」
そらそうでしょうよ。
僕と魔王様が話をしている途中で突然割り込んで名前が欲しいと言い、まだ疑い深いであろう僕に名前を付けてもらったその次の日に僕の部下になるとか言い出してんだよこの人。
──という事で行くことになりました。死の荒野に。
しかし昼間は庭師の仕事があるため行くことができない。
庭師の仕事は朝の二の鐘が鳴り始めたあたりから始まり、遅いとそれこそ四の鐘が鳴った後まで続くこともある。
だから行くとなると──
「……ねっむ」
『仕方ないだろ。仕事休むわけにもいかねぇんだろ?』
必然と深夜の時間帯となる。
今僕の目の前にはスバルがおり、前と同じくトカゲの姿になって目を閉じながら僕と会話しつつとある魔法の準備をしていた。
そしてスバルの横ではルールイたちムシカゲらがそれを手伝っていた。
『……』
「……」
少しずつ地面に模様が描かれていく。それは決して絵具とかそう言ったもので描かれているのではなく、魔力によって描かれたものだった。
魔力を使うことができない僕でも、その模様は見ることができた。これは一種の魔法によるものだから僕でも見れるのだとか。
今回使う魔法は成功率を上げるためにこうして床に魔法陣を描いてから発動させるのが基本的なため、こうして慎重に彼らは魔力を流している。
──最難関魔法の一つ、転移魔法。
彼が長年かけて練習を重ね、つい最近覚えたのだとか。そして先日も使ったと言うので魔法陣造りに慣れが出始めているのか、それともムシカゲの手助けのお陰か、最初10分くらいかかると本人が言っていたが実際はその半分の5分で出来上がった。
『よっし、これで完成だな。後は魔力をふんだんに込めれば……朝まで持つだろ』
そして魔法陣の固定を終わらせると、スバルはこっちを向いてきた。
『そんじゃ、行くか』
「……うん」
僕は光り輝く魔法陣の上に乗る。
そしてその魔法陣の光が更に光始め、僕とスバル、そしてルールイと数匹のムシカゲの姿は僕の部屋から消えたのだった。
「……ここが」
『あぁ。ここが死の荒野の、その入り口だ』
僕は濃密なうす気味悪い空気に思わず顔を歪ませた。
そして僕はとあることに気づいて周りを見た。
何もなかったのだ。
ベチャ。
「ん?」
と、ふと足に変な感触を感じ、僕は下を向いた。
「うわぉ」
そこには人の顔があった。
そう、人の顔があったのだ。
それに驚いて思わず声が漏れてしまった。というのも、その人の顔が結構時間が経っていたのか、腐り始めていたのだ。
こんな腐った顔をまじかで見る機会なんて日本ではそうそうなかったのも驚いた要因の一つだ。
「人の顔が普通に転がってるんだね」
『これはつい先日姐さんを殺そうとやってきた30万の兵士のうちの一人だな』
「あぁ……そう言えば確か一週間前か二週間前か知らないけど僕らが召喚される前にあったらしいね。大聖戦」
『人間では聖戦だろうな。だがこっちにとっちゃあなんか急に侵攻してきただけだからな。お陰でここ周辺にいた仲間は全滅した。幸い魔獣を他のところに分散してたからなんとかなったけど……つい昨日まで話してたやつの亡骸を見たときは……』
そしてスバルは一度顔を俺がさっき踏んだばかりの腐った人間の顔に向ける。
その表情はトカゲの顔ながら分かりやすく憂いの表情を見せていた。
『ま、それは人間側も同じだろうな。こいつにも、こいつらにもきっと家族がいた。仲間がいた』
しかしその表情は一瞬にして侮蔑のものに変わった。
『だが先代の魔王が滅んで数百年経ち影響が無くなった上に、俺たち魔獣は存在していたけど……俺たちは一切人間に侵攻してこなかった。その原因を探ろうとせず魔獣を敵だと断定してこうやって侵攻してきた。その時点でこいつらは俺たちにとっては侮蔑の対象なんだ。どう頑張ってもそれが消えることは無い。もう、引き返せないところまで来てしまったんだ』
そう言ってからスバルは魔法を唱えた。
すると一瞬でその顔は燃えて灰となった。
『俺たちは人間すべてを恨んでいるわけじゃない。ただ姐さんの幸せを望んでいるだけだ。それを問答無用で否定してくる人間が許せないだけで』
彼の表情や声からどれだけ魔王を慕っているのかが伝わってくる。
『取り合えず姐さんのところまで行こうぜ。こんな辛気臭い話はもう止めだ』
そう言われたので僕は意識を切り替えた。
『
「うん、漁っといて」
『分かった』
するとルールイに呼ばれ何が言いたいのか分かった僕は、スバルに聞こえないくらいの声量でムシカゲたちに指示を出した。
これを聞かれたらめんどくさくなりそうだったからだ。
そしてササっとムシカゲらが動いたのを傍目で確認して、僕はスバルの後をついて行った。
そして歩くこと30分。ほとんど変わらなかった景色にようやく変化が表れ始めた。
というのもさっきから進めば進んでいくほど肉が腐ったような匂いが強くなっていったのだ。僕はそれを彼女がいるところに近づいているという事だと思っていた。
しかしとある境界のようなものを通ったその瞬間、空気が一変して清いものに変わったのだ。
それと同時に景色も変わり、腐った肉の一本道が僕の目の前に出来上がっていた。
「趣味かな?」
『ンなわけねぇだろ。燃やしても燃やしてもキリが無かったんだ。ここはとある理由で今魔力薄いしよぉ……せめて空気を綺麗にすることしかできなかったんだ……』
確かにここは魔獣たちの魔力の元──魔素が少ない感じだ。皆の表情から読み取ってるから勘でしかないんだけど。
でもさっきからルールイの表情が険しいものになっているのであながち間違いではないだろう。
「それじゃあ行こっか」
『あぁ、そうだな』
そして僕たちは先に進み始めた。
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