第18話
僕らはどんどん奥に進む。
進めば進むほど肩に乗っているルールイの顔が悪くなっていった。
「どうする?一旦戻る?」
『……大丈夫、だけど』
「胸ポケットの中入る?」
『……うん』
そう言って静かに僕の胸ポケットの中に入った。かなり辛かったのだろう、すぐに体重を僕の方にかけてきた。
ぐったりしている。
なんか可愛い。
『もうすぐ着くと思うぜ』
「うん」
と、僕がルールイの珍しい姿に癒されていると先を歩いていたスバルが後ろを向いてそう言った。
そして歩いて行くと奥に何やら大きな影が見え、近づけば近づくほどその影の正体が判明し始めた。
最初に見えたのは山だった。僕の頭上を遥かに超える、高い山。
そして近づいていくとその山が一体何で出来ているかがわかり始めた。
「……」
僕は目の前に広がるこの圧巻の光景に何も言葉が出なかった。
目の前に広がるは地獄そのもの。
そしてその地獄の先にあるのは、さっきまで見えていた影の正体──死体で出来上がった山。
そしてその上に座っているのは、一人の少女──いや、幼女だった。
話には聞いていた。彼女がまだ14歳の少女だとは。だがその年齢を聞いてもそれよりも幼く見えた。
「あれが……魔王?何と言うか……幼くないか?」
『あぁ、そうだな。姐さん、魔王になってからずっと容姿が変わってないって言ってたな』
そうなのか……魔王になってからずっとあの──
「……ん?」
と、その時だった。
近くまで来ていた僕らに気づいたのだろう、僕らの方に顔を向けてきた。
その向けてきた顔には幼さがあまりにも強く残っており、どう見ても14歳には見えなかった。
「君が、魔王かい?」
僕は驚きを押し殺しつつ彼女に優しくそう問いかける。
すると彼女の目が少しだけ見開かれた。
「……驚いた。私を初めて見たのに恐怖を抱かないだなんて」
「恐怖?あ、魔力でってこと?」
最初こんな幼女にどうして恐怖を抱くのだろうと疑問に思ったが、そう言えば魔王って膨大な魔力を持ってるんだと思い出した。
しかし僕には魔力なんてなんも関係ない。
故に彼女に恐怖を抱かなかった。
「……そう言えばあなた魔力無いんだっけ」
そして彼女もそれに思い当たったのだろう、納得の表情に変わっていた。
やっぱり幼女にしか見えない。
「よっと」
そして魔王は今まで座っていた死体の山から僕のそばまで降りてきた。可愛い掛け声とともに。
「ねぇ」
「ん?」
「あれについて聞きたいんだけど。どういうこと?」
「あー……」
彼女は僕に聞きながら指をさした。その先にあったものは勿論スバル。
そしてスバルは突然指をさされ困惑していた。
「名前、つけたんでしょ」
「うん、そうだけど」
「それだけであなたの元に仕えるとか言い出したんだけど」
「……うん、そうだね。僕も戸惑ってるけど」
彼女は僕の言葉を事実と断定したのか、今度はスバルの方を向いた。
「スバル」
『おう、姐さん。なんだ?』
「どうして急にこの男に仕えたいって言い始めたの?」
『ん?そりゃあ面白い人間だからに決まってんだろ。俺はあのいけ好かない同族と違って、きちんと人間に対しても理解を持てるドラゴンだからな』
「……なるほど。喧嘩は良くないけど成程分かった」
スバルとあのグリモンドドラゴンって仲が悪いのかな、もしかしたら。
そんな僕の考察とも呼べないことを考えている間にも、二人の間で話し合いは続いた。
「それじゃあ今後彼のもとにいるってこと?」
『そうだな。ま、今後はご主人と姐さんの橋渡しを担うことにしようと思ってんだよ。一人ぐらい連絡係みたいなもん必要だろ?ご主人の元で働いているムシカゲも一応使えるけど、魔力弱いからすぐ死んでしまう』
確かに最初に魔王と話した際、魔王側にいたムシカゲはその後すぐに亡くなってしまった。原因はムシカゲの体が弱すぎることだった。
ここは過酷な場所で、死の気配が物凄く濃い。
この世界は前までいた日本とは違って物理法則がかなり変わっている。故にそういた“気配”という不確かなものでも普通に死んでしまうことがあるのだ。
『だから今後は俺がそれを担おうと思ったわけよ。どうせそんな頻繁に連絡を取り合う訳じゃああるまいし』
「……それもそうね。だったら今後スバルはその役目を全うするように」
『おう、まかせとけ』
そう言ったスバルは笑みを浮かべたが、対照的に魔王は少しだけ複雑そうな顔をしていた。
しかし、これで僕がここに来た目的と言うのは達成できたようだ。本当に僕がここに来る必要があったのかと言われるとあんま意味が無いようにも思われるが、まぁ魔王の顔を一目見ておくと言うのも大事だしな。うん。
あ、そうだ。
「魔王様」
「ハルキ、今後は同盟というか、仲間になるんだから普通にネヴァでいいよ」
「そっか、じゃあネヴァ。お土産があるんだけど」
『ご主人、そう言えば買ってたななんか。それネヴァの姐さんに上げる用のやつだったんか』
「そうだよ。僕甘いの嫌いだし」
そう言いながら僕は城下町に売っていたお菓子が入った袋を彼女に手渡しで上げた。
「はいこれ、お土産と言うか……まぁ口に合うかどうか分からないけど、駄目だったら魔獣たちに上げておいてよ」
「……」
彼女は静かにその袋の中身を覗き見た。そして袋の中に手を突っ込んで、お菓子──クッキーを取り出した。
「……これは?」
「お菓子」
「お菓子……?」
「そ。甘いよ」
「……甘い」
そして彼女は静かにそう呟いてからその小さな口にクッキーを頬張った。
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