第16話

『……よう、俺はグリモンドドラゴン。前にお前が会ったグリモンドドラゴンの……まぁ簡単に言えば別個体だ』


「別個体?」


 次の日の夜。


 僕は仕事を終えた後自分の部屋で一匹のと対面していた。


 というのも、僕と魔王との会談は突然の乱入者と、その乱入者のによって無理矢理中断されたのだ。


 そしてその乱入者……グリモンドドラゴンのとある言葉というのが──


『俺に名前を付けて欲しい』


「……」


 そう、昨日こいつは突然乱入したと思ったらそう言ったのだ。これには流石の僕も驚きのあまり数秒黙り込んでしまった。ルールイに心配されて、それでようやくハッと意識を取り戻したほどだ。


 そして次の日……つまり今日、その話を急遽することになったのだ。




 ──対面で。




「んで、なんで急に名前なんてつけたかったんだい?」


『……ん?あ、あぁ単純だよ。あいつと区別してほしかったからな、姐さんに』


「あいつ……あぁ、前に僕と会った彼の事かい?」


『それ以外いねぇだろ。あ、いや他にもいたっけ……あれ?』


「同類じゃないの……?」


『魔獣は基本自然発生するもんだからな。同類の数なんて把握してねぇよ。お前だってそうだろ?人間の正確な数なんて知らねぇだろ。それと同じだよ』


「なるほどね」


『だから区別してほしいんだよ。もっと俺は姐さんに呼ばれたいからな。でもどっちがどっちか分かんねぇとそれは無理だろ?』


 ……これは一種の欲求に近い物かな。


 まぁでも名前くらいなら別に付けても問題ないよね。


 僕は彼につけて欲しい名前のイメージとか聞いてみることにした。


「なにかこう言った名前を付けて欲しいとかある?」


『そうだなぁ……まず短め。これは大事だな。呼ばれやすくするためにも』


「確かに短いと呼びやすいよね」


『グリモンド、なんて長いからな。そして二つ目としては……そうだな……うーん』


 と、うんうん唸ること5分くらい。

 何か思いついたのか、突然ハッとして顔を思いっきり上げた。


『空だ!!』


「空?」


『そうだ!!我らドラゴンは空を統べる魔獣だ!!故に、空を全て独り占めするような、そんな名前を付けて欲しい!!』


「空を独り占め……統べる、ねぇ……」


 今度は逆に僕が唸る番になった。


 短くて、空を独り占め……独り占めってことは宇宙にまでそれを広げてもいいよね、きっと……だとしたら。


「統べる……統べる……すばる──あ」




 その時僕が自然と口にしたその言葉によって、僕の頭に一文字の漢字が浮かび上がった。




 今目の前には感情を高ぶらせている一体のドラゴンがいる。


「スバル……」


『お?』


「スバル……なんてのはどうだい?」


『スバル……スバル……おぉ!!いい名前じゃないか!!!』


 その三文字の響きはこのドラゴンを満足させるには十分のものだった。


 スバル──すばるという漢字の語源には“統べる”というものもあるし、それにすばるはおうし座の一部であるプレアデス星団の日本語名でもある。

 拡大解釈かもしれないが、空というものは宇宙も含めて空だと言い切ってしまえば、問題ないだろう。

 

 それにすばるという、同じ呼び方でも別の漢字が存在し、この漢字の意味の中の一つに確か“感情がたかぶる”、と言うものもあったはずだ。

 これも目の前の舞い踊っているこいつにぴったりだろう。


 この名づけはかなり僕的にも満足できるものだった。


『ありがとう!!今日から俺はだ!!』


 そして目の前のグリモンドドラゴン──スバルがそう叫んだ瞬間、突然彼の体に変化が起こり始めた。

 何が起こったかと言うと、彼の体が


『「っ!?」』


 余りの出来事に僕たちは固まってしまった。しかし固まっている間にその変化は終わってしまった。 


『……』


「……」


 僕たちは何も言わずにただ茫然としていた。

 

 僕はそっと彼の体に目を向ける……が。


「何も……変わってない?」


 そう、彼の体には一切の変化が見られなかったのだ。


 しかし、彼自身は変化を実感していたようで、徐々に彼の体の震えが大きくなっていった。


『……これは名づけの効果、なのか?いや、これは違うな。名づけ程度でこんなに変わるわけがない……という事は──っ!?』


 そしてスーッと彼は僕の方を向いた瞬間、彼の顔は驚愕で目を見開いた。


『……そうか……そうか、そうかそうかそうかそうか!!そういうことだったのかよ!!ははっ!!すげぇやこれは!!まさかこんなことが起こりうるなんて!!』


 そして僕の顔を見て何に納得したのか知らないが、一人でその謎を勝手に解決したようだ。


「どういうことだい?」


 僕は気になったのでそう聞いたのだが……。


『……あぁ、これはには言えないことでな、わりぃ』


「お、おう──ん?ご主人?」


『ん、おう、そうだな。これから俺、ご主人の元で働くことにしたわ。今決めたから後で姐さんに言いに行くつもりだ。まぁ姐さんも誰かをご主人の元につけたかっただろうから丁度いいだろ』


「……は?」


 僕は急に言われたその言葉にまた固まるしかなかった。

 


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 追記

 9/15 今後の話の流れの違和感を消すために、プロローグ第三話の一部修正を入れました。

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