第15話

 ……なんて、私のこんな過去を対峙したことがない男に言えるはずもなく。

 私は彼の返事を待っていた。


 しかし私が彼に言ったことは間違っていない。


 私は魔王であって魔王じゃない。


 普通の魔王のような邪悪な意思なんてものはなく、人間を滅ぼそうなんてことしたくない。

 しかし魔獣と意思疎通が取れる上に彼らは私の指示に従ってくれる。


 

 彼はさっき少しだけ笑った。それは果たしてなにで笑ったのか、私にはわからない。


 グリモンドが話したと言う彼──コウザキハルキは今の私にとって得体のしれないものとなっている。


 すると、ムシカゲから何やら音がし始めた。

 どうやら答えを言ってくれるようだ。


『うん、そうだね。僕は最初、君のことを普通に人間にとって悪となる存在だと思っていたよ。うん、それは本当だ。しかしまぁ、僕がいた世界では創作物の中でだけど、魔王が実は悪い人じゃなかった~、と言うものも結構あったからそれほど意外だとかショックだとか、そういったものは無かったよ』


 それを聞いて私の頭の中は驚きで埋め尽くされた。まさか魔王である私が邪悪なる存在ではないと言われて素直に信じるとは……そんなこと、想定していなかったからだ。


 この世界で、特にカルナル教では魔王は人類悪として認定されており、生まれたら最優先で殺さないといけない存在。

 

 魔王の定義は膨大な魔力を持ち、特殊なスキルを持ち、そして魔獣と意思疎通が出来て指示を出せる力を持っているのことを指す。


 そして、魔王は基本的にその膨大な魔力、もしくはスキルの影響によって“人類を滅ぼす”と言う思考に傾くらしい。

 私はそうはならなかったが。


 とにかく、そういう訳だから魔王は即刻討伐──それも全人類の力を合わせて神敵を討伐しなければならないとされているのだ。


 そんなことを考えつつ、彼の話に耳を傾ける。


『ま、そんなことは正直最初からどうでもよかったんだけど』


「っ!?」


 するととんでもないことがまたムシカゲから聞こえた。


『魔王様……僕はね、あなたがたとえどんな性格であろうとよかったんだよ。その都度その都度僕の対応を変えればいいだけだからね』


 ……一体彼は何を言っているのだろうか。


『僕の目的なんて結局大したものじゃないんだよ。それこそどんな手段でもきっと。僕の目的、願いはかなり抽象的なものだからね。結局僕の心が満たされればいいんだよ』


「……」


『ま、言っても分かんないよね。まぁ安心してほしいのは決して人類を滅ぼすとか、そういった目的は無いってこと。正直人類を滅ぼしたって意味ないし、つまんないしねぇ』


「……そう、なら……いいん、だけど」


『だから僕は魔王様たちの仲間になるよ。まぁ立ち位置的に協力者、って感じになると思うけど』


 私はどうしようもない不安に駆られていた。

 もしかして彼は口ではこう言っているけど実はそれを狙っているんじゃ……とか、本当は私を殺すためにこうやって近づいているんじゃ……とか。


 私は魔王だ。人類に害をなすと言われている魔王だ。


 でも死にたくない。


 故に私は人類に対して侵攻をしたりしたことがない。だが私の足下にあるこの死体の山を見て、果たしてそう言って信じてもらえるのだろうか。無理だろう。


 魔獣たちだっていつも私のいるこの荒野の周りで私を守ってくれているだけで、一度も人間の町に侵攻なんて……いつも魔獣たちをスキルで監視してるけどしたことなんて見たことがない。


 ……もう、私が生きていく道なんて──襲われなくなる、安全な日々はもうこないのだろうか。






『死にたくないかい?』






「っ!?」


 その時、まるで私の心を読んだかのような質問が聞こえた。

 一体私は何度驚けば気が住むのだろう……私は静かに彼の続く言葉を聞いた。


『何、魔王様の声がなんか切なそうに聞こえたからね。まぁノイズが酷いせいでなんとなくになっちゃうんだけど……あ、ルールイたちのせいじゃないからね?大丈夫だよ?』


「……」


『ま、まぁ兎に角だけど……僕なら多分だけど、魔王様のその願いを叶えることができるよ。というか、それが僕の願いに繋がるし』


「……は?」


『まぁ、僕の願い……目的はどうでもいいよ。んで魔王様、もう一度聞くけど、死にたくないかい?』


「……」


 私はその言葉に無言になってしまう。


 確かに死にたくない。でも、果たしてそれを叶えることができるんだろうか……。

 もしできるのなら是非ともしたい。誰の血も流すことなく叶えて欲しい。


 でももう後には引けないところまで来てしまった。


 これほど人間を殺した私にはもう──


『ねぇ、グリモンド』


『……なんだ』


 と、私が思わず黙り込んだまま俯いていると、不意にグリモンドの名が呼ばれた。


『転移ってできる?』


『……転移だぁ?……んなもんできるわけねぇだろ』


 嘘だ。


 私は前にグリモンドから転移魔法を覚えたと嬉しそうに話してくれたことを覚えている。

 だから彼は難しいとされている転移魔法が使えるはずだ。


 しかし私を思ってくれたのだろう、不信感の残る彼をここに来させたくないと言うことがよく伝わってきた。


『……ふぅん、そ。ならいいや』


 しかし向こうもそれは分かっていたのかあっさりと引き下がった。


 その時だった。


『……姐さん』


 私の後ろから、私のそばにいる二体の魔獣とは別の魔獣から、私を呼ぶ声がした。


「……グリモンド」


 そこにはが大きな翼を広げながら立っていた。



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