第14話

 私が生まれたとき、それはそれは村中のみんなから喜ばれた。


「神が授けてくれた、我らの守り手だ!」


「これでこの村は安泰じゃ……!」


 なんて、言われてたらしい。子供の時に親に言われたから定かでがないが。

 とにかく、私はこの強大な魔力を持って生まれた、所謂神子だったのだ。


 しかし──


「……今後はカルナル教を信仰せよ、と……それはどういうことですか?」


「我らストゥルル魔人王国民は今後一切の邪教の信仰を禁ずると国王陛下から王令が発せられた。故に今後は神カルナルを始めとする十二神を崇め称え、その教えの元暮らさなければならない」


「それは……絶対なのですか?」


「もちろんだ。これは決定事項である。それを踏まえたうえで、ミナル男爵家の使いであるこの私がここに来た理由は、分かるな……?」


「……神子──いえ、忌子を渡せ、と。そう言う事ですか?」


「その通りだ。流石は村長、物分かりがよくて助かるな。それでは早くその忌子を私に寄こしなさい。忌子は我らが処分する」


「……」


 これが、私が12歳になった時の出来事だった。

 私が住んでいた村はミナル男爵家が所有する領内で、そのミナル男爵家は魔人族のみで作られたストゥルル魔人王国の貴族だ。


 そしてこの国は絶対王政で成り立っている。


 故に国王の発した王令には絶対に従わなければならない。


 今までの宗教での教えでは私はこの国で崇め称えられる神子だったとしても、王令でその国教が変わってしまった。


 ──その瞬間、私はこの国では忌み嫌われる忌子と言う存在に変わってしまった。これから魔人族は私を殺しに来るだろう。


 なんで急に国教が変わったのか、その理由は分からない。だが、ここにいてはすぐに殺されるという事だけは分かった。


 我ら魔人族の特性として、宗教の教えには絶対服従。故に国教がカルナル教に変わったその瞬間、私の存在は今まで育ててくれた両親や幼馴染たち、そして村の人たちにとって敵となってしまう。


 村長たちの会話を偶然そばで聞いていた私はその事にすぐに気づいて、急いで家に戻ってこの村から出る支度をし始めた。


「……どうしたの?」


「母さん……ちょっと外に遊びに行ってくる……!」


「ちょっ!?どこ行くのよっ!?」


 私は家を飛び出し、すぐに村の外に出た。

 もうすぐしたら自分が住んでいた家に村長が来るだろう。そして私が忌子になったこと、そしてその私が家を飛び出したことなどすぐに知られてしまう。


「身体強化、身体強化、身体強化……!!早く、早く逃げないと、殺される……!」


「──いたぞ!」


「っ!?は、早すぎるっ!?」


 村から飛び出して森の中を駆け始めた直後に私は甲冑を来た男たちに見つかってしまった。

 そうか、彼らは男爵家の兵士……!


 しくじった。


 あの村に使い一人で来るわけがない……その事に気づけなかった私は間抜けだった。


「っ、まずいっ!」


 私は更に身体強化をその身に掛け、更に速度を上げる。

 これでも村の中では一番魔力を持っていたのだ。それも、生まれたその時から。


 故に魔力量だけは自信がある。


 兵士からも十分離れられているし、なによりこの状態を維持し続けられる魔力は十分すぎるくらい残っている。


 さらに加速すればこのまま行方を眩ませられるかも──




「──最上の猛炎グランドファイア




 そんなことを考えた私は馬鹿だった。


 突然後ろから今まで見たことのないような、私の視界を全て覆うほどの炎が私に直撃しようとしていた。


「っっっ!?!?!?」


 私は咄嗟に横に避ける。その際無意識に魔力を足に注いだのだろう、まるで瞬間移動したかのようにその場を離れることができた。


「ここまでだ、忌子」


 しかし、代償として私は兵士共に囲まれてしまった。

 そして奥からさっきの使いが馬に乗って現れた。どうやら彼は魔法士だったようだ。


「あの会話を聞いていたとは……油断していた。たかが小娘に、たかが足止めの為だけに最上の猛炎グランドファイアを使う羽目になるとは……忌々しい。お陰で私の魔力は半分を切ってしまった。この落とし前をどうつけようか」


「……そんなの私には関係ない。私はただ、殺されたくなかっただけ。私が今動く理由はそれ以外何もない。あなたの事情なんて今の私にはどうでもいい」


「ふむ……中々ほざくではないか、小娘が」


「その小娘に最上の猛炎グランドファイアを使わないといけないほどあなたたちは追い詰められていたのでしょう……?」


「……ふむ、この状況でもその言葉が吐けるか……忌々しいものだな。そして、愚かだ。その言葉で我らを怒らせられたとでも……?分かっているぞ、小娘。お前の魂胆は」


「……」


「もう何も言えなくなったか。では──死ね、忌子。せめて苦痛で溢れるように、焼死にしていたぶって、殺してやる。真中の猛炎メガファイア


 そして私の目の前に灼熱の業火が迫る。


 視界いっぱいに広がる赤、赤、赤。


 これを喰らえば、私の身は焼け焦がれ、灰すら残さず死ぬだろう。


 その死の気配に私の体は硬直していた。何もできない。どうやっても、対処できない。

 

 迫りくる熱の塊に、私の皮膚は焼かれ、焦がされ、そして──






極上の善意ネヴァルガル





 私は静かにそう呟いていた。


 瞬間──





『選べ』





「──っ!?こ、これは……真中の猛炎メガファイアが、消えた……?と言うより、吸収された……?」


 私の意識は今混沌の闇に落とされ、代わりに別の何かに入れ替わった。


 そしてその別の誰かが今、私を操作している。


 それを私はただ眺めることしかできなかった。



『選べ、肉体か、魂か。選べ』



「……肉体か、魂、だと?何を言っている小娘。真中の猛炎メガファイア如きを防いだからと言っていい気になりやがって……お前は殺す、確実に殺す。そして私はこんなちんけな男爵家なぞ出て王都で──」



『選べない者に意味はなさず。故に我は善意を持って貴様を殺そう』



「善意だぁ?何を言っている小娘が。それに私を殺すなど、たかが小娘に出来るわけが──」



肉体を捨てよライプ



「っ!?が、ああああああああああ!!!!!」


 その瞬間、私の目の前にいた魔法士だけでなく、周りにいた兵士の肉体が


 どんどん溶けていく。腐った愚物がその重みに耐えきれず崩れていくように。

 

「き、貴様──一体何をして」



『もう、貴様らは終わりである。選べない者に価値はない。選べない者に意味はない。選べない者に──救いはない。あるのは、地獄への道それのみである。だが安心しろ。その肉体と魂は有効活用してやる。ではな。魂を捨てよズィーレ



「あ──」


「ち──」


 一人、また一人と、兵士がただの愚物になっていく様が私と、そして目の前の魔法士には見えた。

 それはとても恐ろしいもので、刻一刻と自分の魂が消えることに恐怖が湧き始めたのか、ついにその男は狂い始めた。


「あああああひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃにふおあぶふぃばいお!!!魔王!!貴様は、魔王だあああああ!!!!!」



『黙れ』



「あ──」


 そして最後の一人となった魔法士が朽ちた。


 それと同時に私の意識が戻る。


「……あ」


 周りには腐った肉だけが残り、その中心に私がいた。


「……なに、これ」


 それと同時に違和感に気づく。

 魔力が変質していたのだ。


 今までなじんで、使ってきた魔力じゃない。これは──



「──魔獣の、魔力」



 あの男の最後の言葉──魔王。



 どうやら私は、魔王になったようだ。




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