第12話

「へ~、凄い人」


『凄いね。多すぎて逆に吐きそう』


「吐くな」


 次の日、僕は城を抜け出し、城下町に来ていた。

 誤解しないでほしいのだが、ちゃんと申請は出してある。その際四の鐘が鳴る前に戻ってくるように、と言われたが。

 

 迷うと思われたのだろう。だが安心してほしい、僕にはムシカゲたち小さなトカゲ軍団がいるのだから……!


「迷ったらよろしく」


『任せて』


 という事で僕は何の憂いもなく城下町へと繰り出した。

 働き始めてまだ数日だが、その分の給料は前借してもらった。少しは楽しんできて、とロンダーさんに配慮してもらったからだ。

 それに今着ている服もロンダーさんが持ってきてくれたものだった。


 あ、でも今かぶってるこの帽子は隣に住んでいる人から貰った。


 何でも、


『お前の仕事っぷりはこの数日間でよく分かった。最初はちゃんとできるか疑心暗鬼だったが、今は庭師としてあのロンダーさんに認められた凄い奴だ』


 そう言われた後に帽子を渡されて、


『この世界に急にきて苦しかったかもしれないから……まぁ、なんだ、これからもよろしくって意味でこれ、やるよ。今後もよろしくな!んじゃ!』


 と言ってから彼──バルトと名乗った少年は恥ずかしかったのか、僕が礼を言う前に走り去ってしまった。

 

 この世界に来てこういう風に僕に接してくれたのはロンダーさんとクラリスメイド長に続いて三人目だったから、僕は嬉しさのあまり少しだけ呆然としてしまった。


 この城下町でこの帽子のお返しを買ってこよう。

 

 


「あ、あれ食べてみよう」


『そうだね』


 とまぁ、そう言う事で僕らは今バルトに渡すためのプレゼントを吟味しつつ城下町の雰囲気を堪能していた。


 そして取り合えず帽子をくれたんだからタオルを上げることにした僕たちは予算の範囲内で買えるタオルを見つけてそれを買った。


「これで目的の一つは達成したね」


『そうだね』


「それじゃあ次の目的地へと行こうか」


『うん。僕が言ったとおりに進んでね』


「了解」


 これから僕たちが向かう先はこんな表街ではなく、裏路地……のその更に奥である。


 何でそんな危険な場所に行こうとしているのか。そんなものは至ってシンプル。そっちのほうが何をするにしても何かと都合がいいからだ。

 

『次、右曲がって』


「了解」


 僕はその裏路地を進んでいく。そして裏路地を抜けた瞬間、肌に感じる空気が変わったのがすぐにわかった。


 ここがスラム街。


 ならず者共が行き交い、法の秩序が存在しない、国の中の無法地帯。

 

 人が堕ちる先はどこかと聞かれたら、死んだ場合は地獄だが、生きている場合だとこういったスラム街だ、と答えるだろう。


「……」


 僕は思わず鼻と口を手で覆ってしまう。それほどまでに臭いが強烈なのだ。


 辺りを見ると、既に虫の息になって倒れている男どもや、小さな子供を抱えブルブルと震えている女ども、そしてガラの悪い男どもに蹴られている子供どもなど、いろんな人がいた。


「はぁ……」


 溜息を吐く。


 さっきまで歩いてきた街の様子と180°違う。人間が落魄れたらこうまで醜くなるのか。


「あー……」


 しくじったな。こうまでヤバいとなると、帰りにバルトに上げるタオルを買えばよかった。

 まぁでも紙袋に入ってるから大丈夫なはずだ。


『防臭』


「ん?」


『魔法をかけといた。これで問題なし』


 と、俺が手に持っているものの心配をしているのがルールイにバレたのか、ルールイは魔法で紙袋全体に防臭をかけてくれた。


「魔法、使えるんだね」


『図書館であれほど膨大な知識を得たらね。まぁ、効力は全然だけど。多分今からだと三の鐘が鳴るころには切れると思う』


「なるほどね。ま、それくらいあればいいでしょ。という事でナビゲートよろしく」


『分かった』


 僕はスラム街の奥へと進んでいく。すると当然のように僕に襲い掛かる者は出てきた。

 まぁこんな身なりのやつはスラムにはいないからね。金持ってるって思われたんだろう。


「ルールイ」


『任せて主人あるじ。“風よ、その身を切り裂け──風刃”』


 普通ならただの鳴き声にしか聞こえないそれはしっかりと効果を発揮した。


 ルールイの目の前に陣のようなものが出現し、そこから透明な刃が僕たちを襲ってきた者らに向かって飛び出したのだ。


「がっ!?あ、あああ!!」


「い、痛いっ!!なんなんだよぉ!?」


「お、俺の腕がああぁあぁぁ!?」


 辺りに血が飛び散る。おっと、返り血がこっちにやってきてしまいそうだ。


「よっと」


 僕は後ろに飛んで返り血が来ないところまで下がった。


「こいつらじゃないんだよね、ルールイ」


『うん。お目当てのやつはもっと先。今同胞が文字で会話してる最中』


「ふぅん。んじゃ、すぐに行こうか」


『分かった。“燃えよ”』


 ルールイが亡骸を燃やしたのを確認してから僕は目的地へと向かって行った。





 そして、歩くこと体感20分くらい。僕らは一軒の古びた家の前まで来ていた。


「君か──ランバルトと言う男は」


「……なんだてめぇ──あぁ、あの虫野郎が言ってた主人あるじってやつか。へっ、まさかこんなガキだとは思わなかったぜ」


 そしてその家の前には見るもみすぼらしい男が座っていた。そばにはトカゲムシカゲが一匹。


「ご苦労様」


 僕がそうねぎらいの言葉をかけると、トカゲはシュルル、と鳴いてからどこかに行ってしまった。別の任務に行ってしまったんだろう。


 そんな僕の様子を観察していたランバルトは、僕に対し、


「……要件は分かっている。だろ?入れよ」


「うん」


 ランバルトが立ち上がり僕に手招きする。僕はランバルトについて行く形で彼の後ろにあった建物の中に入っていった。



 この国では邪教と呼ばれ忌み嫌われている、歴代魔王を生み出したとされる魔神を崇める宗教の本拠地へと。



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