第9話
「ふぅ……」
少しだけドキドキした。
僕はさっきまであのトカゲがいた場所を呆然と眺めていた……机にヒビが。
「早々に壊れるのはちょっとやだなぁ……」
僕は少しだけ荒れた部屋をすぐに片付ける。それが終わってから僕はベッドにダイブした。
「……あはっ」
僕は思わずニヤけてしまう。
僕が彼に仲間を入れて欲しいと言ったあの後、彼は少しだけ思案し、
『……俺にそれを決める権限と言うか、それは俺一人じゃ決めることはできない。それに、今日知り合ったやつをみすみす仲間にするわけにはいかない。だからそれは持ち帰らせてもらう。じゃあな』
と、何やら深刻そうな顔をして帰っていった。
それを見た僕は多分魔王に何か事情があるんだろうな、と悟った。
ただの悪の権化じゃない。
それは──あまりにも嬉しい事実だ。
魔王──彼、もしくは彼女──の事情はどうであれ、もしその事情がこちら側人間の誤解とかこちらに完全に非がある場合、それはきっとこの国だけでなくこの世界にある国々に面白いことを起こせると思った。
僕には力がない。
でも、使える駒をすぐに増やせる。
「日本の時みたいに、やろっかなぁ」
その為にはまず彼女と会おう。
でも、今はダメだな。会うとしたら勇者たちが魔獣の討伐を始めたあたりからかな。そしたら各地に飛んで、クラスメイトもほとんどがいなくなるだろうし。
そう決めた僕は次の日からロンダーさんから庭師としての仕事を学びつつ、まずは僕と意思疎通出来る人外を探し始めた。
「ん?」
『えいえい』
そしてそうして探すとこ三日目。
僕の足元にトカゲがいた。あのドラゴンが萎んだトカゲじゃない、正真正銘のトカゲだった。
そのトカゲは休憩中の僕の足を尻尾でペシペシ叩いている。
「トカゲ?」
『あ、見つかった』
「見つかったじゃなくて……何してるんだい?」
『っ!?──え、自分の言葉分かる……!?』
「うん」
『……初めて。人間と喋るの──ムッ!!』
そして一瞬僕の顔を見て唸った後突然僕の肩まで登ってきて、長い舌を伸ばして僕の頬を舐め始めた。
僕はあまりにも突然の出来事に何も言えなくなっていた。
そしてしばらくして舐めるのをやめると、僕の方を向いて突拍子もなくこう言った。
『
「ん?自分たち?それは一体──」
『今は人の目がある。夜にまた来る』
そう謎の言葉を残してからトカゲは僕から降りて、ススッと花が生い茂るさっきまで僕が手入れしていた庭奥に消えて行った。
「ハルキさん、もうそろそろ作業再開しましょう!」
「あ、はい!」
僕は切り替えてまた作業に戻った。
夜。
『来た。
「……主人って、僕かい?」
『そう。ここにいる自分を含めた総数214匹、あなたを
僕の部屋の床には昼にみたトカゲが沢山いた。
そんな彼らを率いているのか、1匹のトカゲが前にでて僕にそう言った。
そして彼が頭を下げるかのように小さな顎を床につけた。そして後ろにいた残りの213匹も同じようにした。
……統率が取れすぎている。
「質問いいかな?」
『うん』
「それは君たちの総意なのかい?」
『うん。自分たちはずっと探していた。言葉が通じる自分たち以外の生物を。自分たちは弱い。この世界では自分たちムシカゲはただ数が多いだけの、ただ食べられ、踏みつけられ、嬲られ、弄ばれ、殺されるだけの弱者。でも
確かにその圧倒的な数と小ささには僕も目をつけていた。でも、主人がいないだけでそれほど弱くなってしまうものなのだろうか……?
『
「……そうなんだ」
つまり彼らが言いたいのはこの214匹は正確には全て集めて1匹と数えろ、と言いたいのか。それも、彼の口調だとそれ以上にいそうだし。
『今まで自分たちが死んできたのは自分たちが弱いから。それは仕方ない。でも、反撃する機会も欲しいと常に思いながら生きてきた。今まで自分たちが聞いてきた同胞の断末魔の数は……』
「もういいよ。そこまで言わなくても、分かるから」
『ありがとう、
僕は一旦彼らから視線を外して思考の海に沈む。
とりあえず彼らの数が知りたいな。
「正確な数は」
『分からない。多すぎて。各地にいるから。自分たちは生き残る為にい色んなところに卵を大量に産んできた。だから分からない』
……あらぁ。これは物凄い諜報キャラを手に入れたのでは。
彼らの思考は共有している、つまり、見て、聞いたものは全ての個体に共有される、と言うことか。
もしかして痛覚とかも共有されるのかな……?だとしたら、彼らの持つ、自分たちを殺してきた存在に対する憎悪は凄まじいものになると思う。
──使える。
僕は最終確認として、ある事を彼らに聞いた。それは今後においてとても重要なこと。
彼らの動力源となるであろう感情を引き出すために、聞かなければならない。
「ねぇ、君たちはさ──感情を持ち得ているかい?」
『今までなかった。でも
彼らの体が少しだけ震えている。きっとその小さな身に宿ったその身に余るほどの感情を得たからだろう。
僕はその感情を真に受け、自然と口端が歪んでしまう。
「──そっか。だったらいいよ。その憎悪、僕が引き受けよう。これから君たちは僕を主人として、行動するんだ。いつかその憎悪を爆発させるために、ね?」
『『『『自分たち、
まだ知能があまり良くはないけど、それはこれからだよね。
こうして僕は一夜にして総数が把握できないほどの諜報を手に入れることができたのだった。
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追記
10/7 誤字修正いたしました。
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