第10話

※今日は第9話と第10話の二話投稿していますので、気を付けてください。




『……』


 俺は城から出て城下町を軽く観察した後、一週間以上空を飛び魔王のいる死の荒野と呼ばれる、草の一本も生えていない死体が溢れる荒地へと戻った。


 そしてその中心にいる一体の魔獣彼女の元へと向かった。


『おう、姐さん。戻ったぜ』


「……そう」


『聞くか?』


「……いい。どうせ全滅したんでしょ」


『……そうだな。生き残ったやつは一体もいない』


「……もうやだ」


 姐さん──魔王ネヴァルガルは死体の山の上で自分の膝を抱えながら蹲ってしまった。

 

 この死体の山は姐さんを殺すためについ先日派遣された各国連合軍の兵士たちの慣れの果てだ。


 その数はざっと30万人程度。


 そんな圧倒的な戦力に対し、対するこちらの戦力は姐さん一人。


 しかし結果はこの通り。


 この結果は人類側を更に警戒させると同時に恐怖させる結果となってしまった。しかしこれはしょうがないことだ。


「私……何も悪いことしてない」


『……そうだよなぁ』




 姐さんは魔獣になってから一度も




 魔王なんて呼ばれているが、彼女は一度も魔獣なんて生み出したことがない上に人間の国にも攻めたことがない。



 

 ただ魔力が普通よりも多いただの魔族だったのに。




 魔族の村から忌子として追放され、その後彼女を殺すための討伐隊が組まれ、自己防衛のために数多の人間を殺したことでその殺した人間の魂を吸収して、最終的にこの地に辿り着きここで魔獣と化してしまった。


「もう……やだ」


『……』


 姐さんをここから解放するために……あいつの手を借りた方がいいのだろうか。

 しかし何の能力もない上に、姐さんのこの状況を知らないであろうあいつの手を借りたとて……それが姐さんの解放につながるとは到底思えない。


『……姐さん』


「……なに」


『俺、人間の城に行ってたんだが、そこで俺と会話できる奴がいた』


「っ!?嘘よ……あなたは魔獣でしょ?あなたと会話できるなんてそれこそ魔獣しか──」


『だがいたんだよなぁ……つい先日、異世界から勇者共が召喚されたんだが、それは知ってるよな?』


「……うん」


『そいつらがいた奴らの中に、一人だけ言語スキルを持ってる奴がいたんだよ』


「……まさか」


『ああ。どう言うわけか魔獣である俺と会話できた。多分そう言った言語系のスキルを得たんだろう。ンで、ここからが本題だ』


「……何」


『そいつが俺たちに協力すると言ってきた』


「っ!?」


『多分そいつは姐さんの状況を理解していない。だから魔王という存在を認識しているはずだ』


「……」


『どうするよ。だが俺が思うに、そいつの手を借りてもいいこと無いぜ』

 

「……それはこっちの事情を知らないからでしょ?」


『まぁそうだが』


「私たちの……この状況を話した上でもう一度確認してきて」


『……いいのか?』


「何もしていないこの状況こそ、よくないって思ってる……だからその差し伸べられた手が例え悪魔からのものだったとしてもそ……それが地獄への片道切符だったとしても……掴む価値はあると思う」


『……そうか』


 きっと姐さんは今も俺たち魔獣を案じている。

 姐さんは知っているのだ、俺たち魔獣が


 俺たち魔獣は本来意思を持つことはない。自然に発生して、本能の赴くままに動き、そして散る。

 だが稀に数百年と生きる魔獣も存在し、そう成って初めて意思を、知性を持ち始める。


 しかし俺たちは姐さんと言う存在を見て、感じて、その瞬間から意思を手に入れた。


 その根元にあるのは哀れみか、もしくは人間に対する怒りか……もう覚えてはいないが、少なくとも俺が意思を手に入れた理由はきっと、姐さんに同情してしまったからだろうな。


 魔獣は魔力から感情を感じることができる。姐さんが放っていた魔力は悲哀と憤怒、そして諦観だった。


 その強烈な魔力が俺たち魔獣が姐さんのために動く理由となるには十分のものだった。


 何の意思も持たず、本能の赴くままに動き続けるだけだったはずの俺たちに生きる意味を持たせてくれた姐さんに、俺たちは感謝しているのだ。


『姉さん』


 と、その時荒地の奥から一体の魔獣が俺たちの元へやってきた。

 そいつは姐さんがこの地に来た時からいた魔獣の一人で、人間の言葉で言うところの同僚に当たる魔獣だった。


『お、クォーバルか』


 魔獣名称“クォーバルグレムリン”。

 数多存在する緑色の耳と鼻がとんがっている二足歩行する魔獣名称“グレムリン”と呼ばれる魔獣たちを統べる、別名グレムリンの王。


 最初こいつもただのグレムリンだったが多くの戦場を生き抜き進化を遂げたのだった。


『ん、お前はグリモンドか。何だその姿は』


『ただ縮んでるだけだよ。ちょいと人間の国の城に行ってたモンでな』


『ほーん──あ、あれか。異世界からの召喚者ってやつの調査か』


『そうだよ。そこでちょいとトラブルっつうか、ちょっとあってな』


『トラブル?まぁそれは姐さんには言ってんだろ?後でそれは聞かせてくれ。それよりも緊急で伝えたいことがあるんだ』


「……何?」


『緊急?』


 俺と姐さんは揃って首を傾げた。

 こいつが緊急って相当なことだったからだ。


 まさかどこからか襲撃が──


『お、君はあの時のトカゲじゃないか。どうも』


『っ!?』


 と、その時クォーバルの方からこの前聞いたばかりの声が聞こえた。

 俺は静かにその名を呼ぶ。


『……ハルキ』


『お、僕の名前覚えててくれたのね。嬉しいな。でも君の名前っていうか、魔獣名称?ってやつ聞いてなかったからこうして聞きにきたよ』


 そしてヌルッとクォーバルの肩に一匹の小さな、俺と似たフォルムの、この世界ではどこにでもいるただ虫がいた。

 だが何故この虫からハルキの声がするんだ……?


『緊急案件ってのはこいつだ。こいつ、魔獣ってわけでもないし、でも意思疎通できるから連れてきた。グリモンドと知り合いってんなら話は早いな』


『あはは〜、そうなんだ、君グリモンドって言うんだね』


 そう言って俺の悩みの種であったあいつの呑気な声がこの目の前の小さな虫から聞こえるこの状況に俺の頭は混乱した。

 

 

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 追記

 10/2 脱字修正致しました。

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