第6話

「……」


「どうした、銀上」


「金田……」


 外にあった椅子に腰を掛けていた俺に声をかけてきたのはつい昨日までカーストトップに君臨していた、金田智弘かねだともひろだった。

 彼が手に入れたスキルは“格闘家”と言うスキルで、どんなものなのかは想像に容易い。

 そう言えばこいつ合気道とか習ってるとか聞いたことあるな。多分その影響がスキルに出たんだろう。


 冷静さを得た今だからこそ、正直に思う。



 ──どうして俺が勇者なのだろう、と。



「なぁ、金田」


「なんだ、銀上」


「なんで俺が勇者に選ばれたんだろうな」


「さてな。だがそれ以上に深山さんは天使だけどな」


「あれには驚いた。しかし、天使よりも勇者の方が注目されるのはなんでだ?」


「後から王女様に聞いたんだが、どうやら天使ってのは強力だが特定条件下でしか発動しないようだ。だから鍛えることも困難なんだと。えっと……甲崎、だっけ。確かそいつが手に入れたなんちゃら言語っていうスキルの次に弱いものだってさ」


「岸本の裁縫よりもか?」


「あれは使いようによっては強いだろ。育てていくと自分の魔力で糸を生み出せるらしい。この世界の住人に発現する裁縫と岸本の裁縫は違うんだってさ」


「なるほどな」


 話が脱線している。彼が意図してそうしたのだろうか。


「しかしな」


 と、彼が続けて言った。


「岸本や深山さんと違って、少なくともお前が勇者スキルを発現させたのには、俺は納得してるんだぜ」


「……なに?」


「だって、お前クラスの中で人一倍正義感が強いじゃねぇか」


「あれは……人として当然のことをしているだけだ」


「他クラスの喧嘩を止めようとするのも、か?」


「……」


 確かにそれはやりすぎたと思ってはいるが、少なくとも俺の行動は常識の範囲内のはずだ。


 俺は自分の手のひらに視線を下げて、軽く動かしてみる。そして心臓あたりに意識を向けると、そこにここに来る前までは感じなかった違和感があった。


 俺はそこに手を当てた。


「今でも不思議に思ってしまう。心臓の近くに何か別のものがある、この違和感」


「確かに、今でも戸惑うよな。これが魔力だって言ってたけど……俺たちは今後これを自在に操って戦って行かないといけないんだよな」


「スキル検査の後にあったあの説明会で泣いたやつとかいたもんな。やっぱり命がかかってるってのは……怖いよ」


「しかも実際に魔獣も見せられて目の前でそれが殺されて、そんでそいつから出た血の匂いに何人も吐いて。趣味が悪いと言うか」


「でもこの世界ではあれが普通だった。この世界では俺らのこの感性が異端なんだよ。否が応でも慣れないといけない。もう後戻りはできないんだ。グダグダ文句を言ってたら──殺される」


「あぁ」


「俺は勇者としてあいつらを導かないといけない。そして、この世界の人たちを助けないといけない」


「……」


「俺が先導するんだ。誰よりも先へ……覚悟を決めて、戦うんだ」


 そうだ。俺にはその責任と義務がある。

 誰よりも強いこの力を手にしたんだ。力を振るう責務を果たさなければ。


「……あんまり、自分を追い込むなよ。いつか壊れるぞ」


「ああ。それくらい、分かってる。ありがとな金田。なんかスッキリしたわ」


 俺は腰を上げる。さっきまであった、心の中の不安はもうなくなっていた。


「明日から、訓練頑張ろうな。金田」


「ああ。そうだな」


 俺はもう一度彼にありがとうと礼を言ってから自分の部屋に戻った。


「……君はもう、覚悟を決めたんだね。だったら俺も」


 後ろから何か声がしたのだが、俺には聞き取ることができなかった。







 次の日。

 

「皆さん集まりましたね。それでは今日から訓練を開始します」


 アラン団長の掛け声とともに彼の後ろから騎士がゾロゾロと入ってきた。その彼らの両手には二本の剣が所持されていた。

 しかし、俺たちの人数に対して剣の本数は少ないように感じた。


「これから皆さんはこの騎士たちから木剣を受け取り、素振りを私の掛け声とともに行ってもらい、適宜構えなどを修正していきます。目標は一週間で十分な素振りが行えるようになること。しかし、中には魔法関係のスキルを持った方もいるでしょう。そんな彼らに剣を教えても意味がないので、まず初めにスキルによって三つに分かれてもらいます」


 そして次に出てきたのは立て札をもった騎士だった。

 その立て札にはそれぞれ、“近接戦闘スキル”、“遠距離戦闘スキル”、“戦闘以外スキル”と書かれていた。


 ちなみに書かれている言語は異世界のもので日本語ではないのだが、何故か俺たちは読めるようになっていた。騒いでいたオタクたちはデフォルトのものだーとか言っていたけど……よく分からん。


「この立て札を持った騎士の前に、それぞれ並んでください」


 そう言われたので俺は近接戦闘スキルと書かれた立て札の前に並んだ。

 他にも、昨日話を聞いてくれた金田のほかにも数人が俺の後ろに並んだ。


 他の列はどうなのか見てみると、並んでいる人数は結構均等になっていることがわかる。


「全員並び終えましたね?それでは、“遠距離戦闘スキル”、“戦闘以外スキル”の二グループはこれから移動するので、前の騎士について行ってください」


 そう言われて俺たち以外の並んでいたクラスメイトたちは一斉に動き出した。


 そして彼らがこの場からいなくなると、アラン団長は俺たちの方を見て、


「それでは、素振りを始めましょう。剣を貰ってください」


 と言ってきた。


 なので俺たちは素直に剣を手に取った。


「すみません」


 一人を除いて。


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