第5話

『お、やっと来たか。遅いぞ』


「……」


 さっきのトカゲが俺の机にいた。二足で立ちながら。

 物凄い立ち方だ。腹が見えている。


『さっきぶりだな』


「なんでこの部屋にいるのか、教えてもらってもいいかな?」


『ふん。名前を聞いていたからな。後は名前が書いてある部屋に行けばいい話だろ。鍵?あぁ……それはちょちょいと、な』


「魔術を使ったのかい?」


『魔術?なんだそれ?魔法の間違いじゃねぇの?』


「魔法……ふぅん」


 確か魔術師とか言うスキルがあったからてっきりこの世界には魔術が存在しているかと思ったけど……魔法なんだ。


『にしても、なんでお前俺の声が聞けるんだ?多分スキルの効果だろ?どんなスキルなんだ?』


「どんなスキルかってのはまだ分からないけど、名前はトカ言語っていうスキルなんだけど」


『は?なんだその変な名前のスキル。キモすぎるだろ』


「そこまで言う必要ないんじゃないかなぁ……」


 そう言われるとかなり傷つく──と思ったけど案外そうでもなかった。


 僕も実際このスキルがどういうものなのか分かっていないからだ。分かっていることはこのスキルはどんなスキルよりも戦闘向けではないという事。


 でないとこんな風に特例でこうして働かせてくれないだろう。


 ボソッと聞こえたのは、どうやら僕はこの世界の住人が持つ魔力を生み出す“魔力炉”と呼ばれる器官がない上に、クラスメイト達が持っているスキルにはできる空気中の魔力を吸収して自分の魔力にすることができるらしいが僕のスキルではできないらしい。


『言語スキルは魔力を使う必要のないスキルのひとつだからな。この世界の人間は魔力を自ら生み出せる上にスキル持ちなら更に魔力量が多くなる』


「へぇ。そうなんだ」


『あぁ。しかしお前らにはその魔力を生み出すために必要な魔力炉がない。が、その分見たことのない強力なスキルが得られる……らしい。俺も人伝ならぬ魔獣伝で聞いた話だから分からんが』


「あ、君魔獣だったんだ」


『そうだな。人の国では魔王の配下として知られている、人類の敵──魔獣だな。その中でも俺は特別なんだが……まぁいい。話を戻すが、お前のスキルはその通りだったら強者になるはずだったんだ。だが違かった』


 そして目を瞑り一拍置いてからゆっくりと口を開いた。


『しかし、俺と意思疎通ができるってことは……そのスキルは魔獣に対して初めて働くものかもしれねぇな。言語スキルなんて眉唾物でおとぎ話でしか出ないものだと思っていたが……なかなかどうして、実際持ってる奴と対面してみると案外面白いもんだな。弱いが』


 おとぎ話の中でも言語スキルは数多のスキルの中で一番戦闘から離れてるけどな、と最後に更に余計な言葉を付け加えてからフッ、と小さく小馬鹿にするように笑った。


「そうだね。前いた世界では君のような生き物とこんな風に明確に意思疎通は図れなかったからね。きっとこのスキルの効果なんだろう」


 でも、言語だけに適応するスキルにしてはと思うんだけど……気にしすぎかな。


「で、そんな魔獣である君がここにいる理由を聞こうかな」


『ん?ンなもん敵情視察に決まってんだろ。魔王様──姐さんはそういった情報を逐一手に入れては精査して、んで攻める場所を決めたりしてんだから。俺はそう言った情報を送るための、まぁスパイだな』


「なるほど」


『俺を今ここで殺そうったって無駄だぜ。だって俺は──ドラゴンなんだからよぉ』


 そう言うと目の前のトカゲがみるみる大きくなっていく。

 さっきまで無かった威圧感が彼から発し始め、この部屋の空気を支配し始めた。


 しかしそんなことはどうでもよくて、彼が大きくなったのと同時に机がミシミシと音を出し始め、そして遂に嫌な音が……。

 

「ちょっ、ここで大きくなられると──あ、机がっ!」


『あっ!?やっべ!?』


「……え」


 僕が机の危機に悲鳴を上げると、トカゲが慌ててしぼみ始めた。

 

「……なんでしぼんだの」


『しぼんだとかかっこ悪いこと言うなよ……せっかくかっこよくドラゴンになろうとしたのによぉ』


 まさかこの机を気にしたのだろうか。ドラゴンっていうかっこいい存在がまさかそんなことを気にするとは。

 僕が叫んだせいでもあるのだが……まぁそんなことは置いておいて。


「まぁ君がここにいる理由は分かったよ」


『そうかそうか。ま、俺はお前を殺すようなことはしないから安心して良いぜ』


「そっか。それが聞けただけよかったよ」


 僕はそう言いながら机に置いてあった紙を手に取る。それには手書きでこの部屋の説明が書かれてあった。このトカゲのせいで一部読めなくなったところがあるが。

 僕がそれに目で抗議すると、トカゲはスッと目を逸らした。何かと人間味のある反応するなこいつ。


「てか、君名前ないの?」


『ねぇよ。魔獣には種族名はあるが、個体ごとに名前なんてもんは存在しねぇ。姐さんだってそうだ。魔王ってのが種族名で一応名前はあるんだが


「そうなんだ」


『あっても意味ないしな』


「そっか」


 ふむ。なんかそれは寂しいような気がする。


 まぁいいや。


 取り合えず僕は思考を一旦切り替え、今僕の目の前にいる存在について考える。

 

 ……これはもしや、千載一遇のチャンスなのではないだろうか。

 僕がしたいことが、もしかすると魔王側に協力すれば叶うかもしれない……!


 僕は目の前のトカゲに対し、なるべく柔和に、そしてなるべく友好的な笑みを浮かべながらこう告げた。



「だったらさ、僕から提案があるんだけど」


『提案?なんだそれは。基本的に俺たち魔獣側と人間側は相容れないと言われてんだからな』


「まぁまぁ。正直なところ、君たちにも得のある話だよ。きっとね」


『……そうなのか?だったら話くらい聞くけどよぉ』


 よし。

 これならきっと──





「僕も君たちの仲間に入れてくれないかい?」





 そう僕が言った瞬間、僕の心臓がこの世界に来て初めて、ドクリと動き出し始めた。


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 追記

 9/5 ちょっとだけ修正しました。ちょっと文追加しただけなんで、あんま気にしないでください。

 9/11 ちょっとだけ修正入れました。まぁあんま気にしないでください。

 10/2 ちょっとだけ修正入れました。まぁ気にしないでください。

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