魔王討伐編

第4話

「今日からよろしくお願いします」


 そう言って僕は城内にあるホールに集まったたくさんの人たちに対してお辞儀をした。これから同僚や上司となる人たちだ。ここで礼儀を欠いては今後の関係悪化に繋がる。


 するとパチパチとたくさんの拍手が聞こえた。僕は一安心し、ふぅ、と少しだけ息が漏れた。


「ハルキさんは異世界からの被召喚者、つまり勇者一行の一人ではありますが……ミリア王女殿下によると彼のスキルは唯一言語スキルだった為に特例でここで働かせることになりました」


 城で働く全ての従業員を管理するメイド長──クラリスさんがそう説明するとホール内にいる人たちから一斉に憐憫の目を向けられた。

 それほど僕が持っているこの“トカ言語”──言語スキルと言うのはこの世界では持っていても意味のないものなのだろう。





『──今のお前さんの気持ちを代弁するなら、悲しすぎて泣いちゃそぅ~……ってか?』





 その時、僕の頭の中に声が響いた。

 余りにもいきなりすぎた為に一瞬ビクッとしてしまったがすぐに落ち着きを取り戻した。多分僕のその様子に気づいた人はいないと思う。


 すると、僕の視界の先に何かがいた。結構小さいが僕の視力はかなりのものだと自負しているのでギリギリだが何とか見ることができた。


 そこにいたのはトカゲだった。


 するとそのトカゲと目が合い、トカゲの方からウィンクをしてきた。

 僕は戸惑いながらもさっきの頭に響いた言葉に答える。


 しかし声を出すわけにもいかないので頭の中で会話するようにイメージした。


(……僕の顔見て、本当にそう言えるのかい?)


『っ!?まさか俺の声が聞こえたってのか……?──あぁ成程。ふむ、そうだなぁ……ま、どうでもいいって顔してるな。真顔だし』


 お、通じたようだ。僕はこのまま横で僕の処遇についてクラリスさんが従業員たちに説明している間に彼と脳内で会話する。


(つまりそう言うことだよ、トカゲさん)


『俺はトカゲ……?とか言うまぁよくわかんない名前の生き物じゃないんだが……そういやここに長居できないんだった。まぁそれも含めて後で話しようぜ。まさか俺の声に反応するどころか会話できる奴がいるとは思わなかった。んじゃな』


 そう言ってトカゲはまばたきと共に僕の視界から忽然と消えた。僕はその一瞬の出来事に更に困惑するが、丁度クラリスさんがこの場を締めようとしていたので意識を目の前に戻した。


「ロンダーさん、あとはよろしくお願いします」


「わかりました」


「それでは各自持ち場に戻ってください。解散です」


 その言葉と共にゾロゾロとホールから立ち去っていく。残ったのは僕とロンダーさんと呼ばれた男性とクラリスさんの三人だった。


「こういったことも予想しておいて正解でしたね。ロンダーが提案してくれたおかげです」


「いえいえ。きっと僕じゃなくても他の人が提案してくれましたよ」


 かなりスムーズに話がトントンと進んだと思ったらそうだったのか。

 まぁどちらにせよこの世界でニートにならずに済んだのは喜ばしいことだ。ロンダーさんに感謝せねば。


「ロンダーさん、今日からよろしくお願いします」


「はい。早速明日から基礎を叩きこんでいくので、この世界に来て慣れないとは思いますが生きていくためにしっかりとついてきてください」


「はい」


 今後僕が住む場所はロンダーさんやさっきいたメイドさんたち、執事さんたちと一緒の職員寮である。


 深山達が住む寮とは反対に位置している上に僕は今後庭師として城内外の庭の手入れをロンダーさんと一緒に行っていくことになった。

 なので彼らと会うことは滅多にないだろう。


「それではハルキさん、これからあなたが住む部屋に案内します。職員寮は勇者寮と違い二人一部屋です。しかし今までの従業員の数が偶数だったので……あなたは二人分の部屋を一人で過ごしてもらいます。それでもいいですか?」


「はい。大丈夫です」


「それではそのような形で手続きを進めていきます。部屋の場所はこのロンダーに伝えていますので。明日からあなたの上司はロンダーになりますので、くれぐれも命令に背かないように」


「わかりました」


 今日から目の前のこの人が僕の上司になるのか。


「では行きましょうか、ハルキさん」


「はい」


 ロンダーさんに呼ばれた僕は、進んでいく彼について行き、寮に行って一階にある部屋の場所の前に立った。

 どうやらここが僕の部屋のようだ。


 この世界に来てから何故かこの世界の言語が読めるようになっていた。なのでその部屋のドアの横に自分の名前が入っていたことにすぐに気づいた。


「四の鐘が鳴った時が一旦の仕事の終わりと夕食の目安となります。次鐘が鳴った時ですね」


 と、彼が言ったその瞬間──



 ──ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン。



「お、丁度鳴りましたね。これが四の鐘。夕方をお知らせする鐘です。この鐘が鳴るとルヴァラス城内及び城下町の昼の活動は終わりを迎え始め、夜の活動が始まります。深夜の活動は一の鐘、朝の活動は二の鐘、昼の活動は三の鐘と決められているので、それは把握しておいてください」


「わかりました」


「では早速夕食を食べに行きましょうか」


 僕は彼の後ろをまたついて行く。そして進んでいくとよくホテルで見るバイキング形式のレストランのような感じの食堂に着いた。


「これは──」


「ここが食堂です。好きなテーブルに座ってあそこに置いてあるお盆を取ってください。あれにその日の夕食が人数分置かれています」


 彼が指さした方向を見ると、確かにいくつものお盆とその上に料理が置かれてある。


「それじゃあ一緒に食べましょうか」


「はい。ありがとうございます」


 そして僕はロンダーさんと夕食を共にした後、さっき教えてもらった自分の部屋へと向かった。


「それではまた明日。場所はそうですね……寮の入り口の前で待ち合わせましょうか。私の部屋は三階にあるので何か分からないことがあれば来てください」


「はい。何から何までありがとうございます」


 そう言って僕はぺこりと頭を軽く下げた。


 そして別れた後僕は自分の部屋の中に入った。


「おぉ~」


 最初に驚いたのはその広さだ。異世界と言うとあんまり発展していないイメージだったが見た感じ水道もあるし上にはちゃんとライトがついている。

 そして左右で一つずつベッド、机、椅子の三つが置かれている。確かに二人用の部屋だ。


「ん?」


 と、僕は左の机に一枚の紙が置いてあることに気が付いた。


『お、やっと来たか遅いぞ』


「……」


 一匹のトカゲ付きで。


─────────────────────────────────────


 “面白い!!”、“続きが読みたい!!”と思ったら是非この作品をフォローして、☆と♡をよろしくお願いします!!


 作者のモチベーションに繋がるのでっ!!


 追記

 10/2 誤字修正致しました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る