第3話
一か月後。
「ハルキさん、腕を上げましたね」
「ありがとうございます、ロンダーさん」
彼の名はロンダー。この城──クラウン・ルヴァラス王国のその強大な国力を象徴するために建てられた“ルヴァラス城”で働く庭師だ。
そして春樹は異世界人の中で唯一この城で働くことになり、その際このロンダーに弟子入りする形で庭師見習いとして働いている。
あの後クラスメイトたちは春樹を糾弾した。
『お前ひとりで逃げようってのか!?ふざけんじゃねぇぞ!!』
『そうだそうだ!!今みんなで怖くても頑張ろうって空気だったのにぶち壊しやがって!!』
それはそれはもう凄まじいもので、ミリアが彼らを鎮めようとするもそれが更に火に油を注ぐ形となってしまった。
中には自分が正義側だと確信して、感情の赴くままに発言しだした輩までいた。
しかしそれは意外な形で鎮まることになる。
『皆さん、静かにしてください』
『『『『『『っ!?』』』』』』
その言葉と同時に会場全体に見えない何かが荒ぶっていた彼らの心を鎮めた。
強制的に。
それを行ったのは彼らの団長となったアラン・ルヴァンだった。
『彼の処遇について決めるのはお前たちではない。ミリア様だ。それをさっきから聞いていれば、自分がさも正義側だと当然のように思いながら発言しているその態度……愚かだ。実に愚かだ。彼の持つ事情も知らないで』
『事情……?それってなんですか?』
『彼が何故ミリア様にそう懇願したのか、それは彼の──あぁ、そう言えばお前たちの世界にはこんな言葉があるんでしたね。プライバシーという言葉が』
『……つまり教える気がないと?そうやって私たちを愚かだと言っておきながら?』
『では聞きますが、お前たちは一度でも彼に事情を、理由を聞きましたか?』
『……っ』
そう言われて主に糾弾を主導していた銀上をはじめとした生徒らは一斉に口をつぐんだ。
『お前たちは一方的に彼に対し暴言を吐いていた、という事ですか』
『違います!彼は前から──』
『前から……だからなんです?』
『……』
そして渋々と言った形で銀上たちは荒れていた感情を鎮めた。本人たちは納得いっていなかったようだが。
その後彼らは春樹一人を残してアランについて行った。その際も一人残る春樹に厳しい視線を送っていたが。
そしてどこにするか少しだけ揉めたのち、今に至る。
「景観を損なわないためにも、切りすぎには注意してくださいね」
「はい」
春樹はこの世界に来て以降、ロンダーの元で庭師としての仕事やこの世界の常識などについていろんなことを学んだ。
そのお陰か、最近では城内で働くメイドたちとも多少会話するほどまでにこの世界に馴染んでいた。
「もうこの世界には馴染めましたか?」
「はい。お陰様で」
「それにしても、ハルキさんの同郷の方々は物凄い活躍をされていますね」
「そうですね」
そしてこの一か月間、春樹以外のクラスメイトらはひたすらに訓練を続け、今ではこの世界でも強者と呼ばれるほどまでに目覚ましい成長を遂げていた。
そしてその成長した力を遺憾なく発揮する為、各地に赴いては魔王の影響と思われる異常発生した魔獣の群れを駆逐していた。
「悔しくないんですか?」
「別に何とも思ってないですよ。同じ学校の同じクラスの人が活躍したとしても……それを凄いとは思うけど別にそれ以上の感情が起きないっていうか。だから悔しいとかそういった感情は浮かばないんですよ」
「そうなんですね」
「彼らに関しても、同郷ってだけでそれ以上はないですから」
そして彼らは城周辺の庭にある花や苗木などを手入れした後、少し休憩することにした。
『おい』
と、その時、春樹の耳に人間の声ではない、別の生き物の声が聞こえた。
彼がその声の主の方に顔を向けると、そこには一匹のトカゲがいた。
正確にはトカゲではないのだが、見た目がまんまトカゲでサイズも地球のとほぼ同じだったので彼にとってそれはトカゲと同じだと言う風に認識していた。
「スバルか」
『全く、ご主人は何やってんだか。だらだらと庭の手入れなんかしてよぉ』
「これが僕の仕事だからね。実際やってて楽しいし」
『ご主人がそうなんだったら俺は別になんも文句はねぇけどよぉ。それよりもネヴァの姐さんから連絡だぜ』
「ネヴァから?どうしたのさ」
『こっち来たいってよ』
「駄目に決まってるだろ……まだ時期じゃないんだから」
『でももう待てないってよ』
「じゃあこう伝えてきて。我慢できないんだったらこの話無しだって」
『うわぁ、えげつないこと考えたなぁご主人は。彼女ご主人に心酔してるってのに』
「心酔ってそれほどじゃないだろ。もう少しの辛抱なんだから頑張れって付け加えといて」
『了解。あとランバルトがもうすぐで準備終わるって言ってたぞ』
「早っ」
『魔王に会わせてやるとか言ったらこうなった』
「こんなに早く準備してもらっても意味ないんだけど……まぁいっか。僕もそろそろやりたいことできそうだし」
そう言って春樹は虚空に手のひらをかざした。
すると彼の手のひらに魔力が溜まり始めた。
その光景はスバルの目を大きく見開かせるには十分なものだった。
『おいおい、もう物にしたってのかよ』
「魔力が何で出来ているのか、どうやって生み出されているのかってのを解析すればどうってことないよ」
『魔力炉を体内に持ってないのに凄いぜ。やっぱご主人は人間というよりかは魔獣寄りだな』
「僕も最近そう思い始めたんだよね。まぁいいや。とにかく定期連絡はこれにて終了。それじゃあ伝言よろしく」
『了解』
そう言ってスバルと名付けられたトカゲ──魔獣名称“グリモンドドラゴン”はスッとまるで空気に溶け込むようにしてこの場から去った。
「にしても、この世界に来た初日にスキルの効果が分かった上に一部の魔獣と話せるなんて、何か運命を感じるなぁ」
春樹は運命に感謝していた。
ゴミだと思っていたスキルでも、まだ使えるところがあったからだ。
トカ言語。厳密に言い換えると、“トカゲ言語”。
これは文字通りトカゲの言語を話せるようになるスキルだったのだが、春樹はそれを初日に魔獣との出会いによって知ることができた。
その後このスキルについて研究と考察を人知れず行い、トカゲの特徴をいくつか持っている魔獣なら会話することができるという事が判明したのだ。
こうして彼は城から一切出ることなく外界との連絡を取ることに成功し、かつ実際に城の外に出て魔王との接触にも成功していたのだった。
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追記
9/15 今後の話の流れの違和感を消すために、一部修正を入れました。
10/2 誤字修正致しました。
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