第2話
「──あなたは……っ!?こ、これは、素晴らしいです。スキル名は、勇者。勇者スキルです!!」
「「「「「おぉ!!」」」」」
「遂に現れたか!!何百年ぶりだ!?」
「マジかよあいつが勇者かよ!?」
「金田君かと思ってたのに……!」
「これでこの国も安泰だ……!必ずや魔王を倒してくれる!!」
場所は変わって、今生徒たちがいるこの場所はいつもはパーティなどが行われるホールだが、今はスキルを調べるための場と化している。
ちなみに先ほどまでいた場所は祭壇と呼ばれる、この城の地下である。
地上にあるこのホールに移動した彼らは、予め用意されていた水晶玉に手を触れるよう指示され、順番にスキルを調べているところだった。
「銀上が……勇者、か」
「まぁ、一番似合ってるのは金田だが……正義感が一番強いのは誰かと聞かれると銀上一択だよな」
銀上と呼ばれた男子はいつもつるんでいた友人の元へ向かうが、その足取りは不確かで体が少し震えていた。
それは彼自身が未だ現実をまだ受け入れられていないからだが、次第に落ち着きを取り戻し、足取りも確かなものになっていた。
ちなみに勇者らしい勇者と言われていた男子、金田が得たスキルは格闘家という、これもまた強力なスキルだった。
そんな彼はいつものような清々しい笑顔で、余裕の表情を見せている。
「でも逆に安心したよね。もし勇者スキルが甲崎とか岸本とかに渡ってたらと思うとさ」
「甲崎はともかく岸本は確かにそうだな。あいついつも暗くて何考えてるか分かんないし、それに前ちょろっとあいつと話したことあるんだけど、なんか自己中心的っていう感じだし」
「ほら、見てみろよ岸本の顔。すげぇ顔になってる」
そして、岸本と呼ばれた男子の心情は物凄いことになっていた。
主に負の面で。
(どうじで……どうじであいつが勇者なんだよぉ……!!!普通俺みたいなやつが勇者のスキルを得るだろうがっ!!それがなんで……なんだよ裁縫って。ふざけんな!!!)
岸本はこういった場面で勇者に選ばれるのは自分のような陰キャとかだと思っていたのだ。
しかし与えられたスキルは裁縫。戦闘向けではなかった。
これを鑑定した担当も苦笑いを浮かべていたことが彼の不機嫌な感情に拍車をかける。
そんなことは露知らず、クラスメイトは未だスキルが分かっていない二人に目を向けた。
「しかし、残るは甲崎と深山さんの二人か」
「深山さんは成績優秀だし、きっとどのスキルでも使いこなしそうよね」
「逆に甲崎はどうなんだろうな。いまいちよくわかんないって言うか……」
「いつも深山さんに注意されてたわよね。あの二人って幼馴染なんでしょ?」
「そうらしいな。そうは見えないけど」
甲崎春樹と
甲崎春樹は昔から多くを語らない、無口な性格なのに対し、深山麗華はその真逆。明るく人と話すのが好きな性格である。その為春樹よりも友人は多い。
しかしとある出来事がきっかけで麗華は何かと春樹を気に掛ける……いや、警戒し始めたのだ。
「次」
「はい」
そして残る二人のうちの一人、春樹が呼ばれた。
「それではこの水晶玉に触れてください」
「はい」
春樹はそっと水晶玉に触れた。すると水晶玉が淡く光る。しかしそれもすぐに消えた。
そして検査官が水晶玉を覗き込んだ。
「ふむ……えっと、あなたのスキルは“トカ言語”……です」
「トカ言語……」
「やはり聞いたことのないスキルですね。やはり異世界人が持つスキルというのは何か特別なものが多いのでしょうか……?」
ミリアは困惑していた。
何故なら言語スキルというものはこの世界に存在しているとは思われていなかったからだ。この世界の言語は一種類で統一されており、それはたとえ異世界人だとしても今まで通じていた。
故に言語スキルなんてあっても意味がないものだという認識だった。実際そのスキル名を聞いた生徒以外、ミリアたちは皆似た表情をしていた。
「……これは」
彼のスキル、“トカ言語”のように、他にも“プログラマー”、“顎”など、この世界の住人には馴染みのない単語のスキルが多数発現していた。
故にミリアはそれらと同じように“言語”とついていても結局は未知のスキルと変わらないものだと判断した。
しかしその後に検査官から小声で伝えられた言葉にその判断は覆される。
「ミリア様。このスキル、本当に言語のみに対応するようで……この少年は恐らく魔力を扱えないかと」
「なっ!?」
それは事実上、この少年は戦力外だと言っているも同然だった。
この世界の住人と彼ら異世界人は体のつくりが微妙に異なっている。故に生徒たちはミリアたちにはできる魔力の生成をスキルによって補っていた。
しかし春樹のスキルだけは、言語に作用するもののため魔力を唯一必要としないスキルだった。
なのでこの世界で唯一魔力を扱えない、この世界で生身では一番弱い存在となったのだ。
「……」
ミリアはその異常事態に頭を悩ませる。それははたから見てもすぐに悩んでいると分かるようなもので、実際目の前にいた春樹にはそれが瞬時に分かった。
しかしそんなミリアの様子に気づいても何故そうなっているのか気付いた生徒はいなかった。
きっとスキル名を聞いていればもしかしたら分かったかもしれなかったが、しかし岸本と並んでクラス内では目立たない男子の事を注目するクラスメイトなんて、ほとんどいなかった。
「次」
「はい」
「あれ、いつの間に甲崎終わってる」
「まぁどうでもいいでしょ」
そして遂に最後の一人である麗華が呼ばれた。
すると、さっきの春樹の時とは違って生徒たちのほとんどが彼女に目を向けた。
「それではこの水晶玉に手を」
「はい」
そう言って彼女はさっき春樹が触れた水晶玉に触れた。
「っ!?」
その瞬間、ここら一帯を包むような強い光に襲われた。
余りにも突然の出来事だったためこの広場にいた人々は思わず目をふさいでしまった。
「一体何だこの光は……」
「勇者スキルの時でもこんなの起きなかったわ」
「ミリア様。まさか……」
「……っ、ええ。そのまさかかもしれないわね」
異世界人の不穏な会話に当事者である麗華が思わず眉をひそめる。
そして検査官が水晶玉を覗いた。
「彼女のスキルは……“天使”、です」
「「「「「っ!?!?!?!?」」」」」
生徒たちはピンとこないようで頭の上にハテナを浮かべていたが、ミリアたちはそのスキル鑑定の結果に驚愕していた。
「それでは皆さんのスキルが判明したと言うことで、今後のあなたたちが何をすべきか。それの指示をここにいる
「ミリア王女殿下からのご紹介に与りました、赤紅騎士団団長のアラン・ルヴァンです。今後あなたたちの立場は我ら騎士団所属の特別部隊として行動してもらいます。なので基本的に私の命令に従うこと。もし命令に背くことがあれば先ほどの豚のように容赦なく腕や足を切り落とし、その都度回復させるという事をさせてもらいますので」
ミリアの横に立った美男子──アラン・ルヴァンのその言葉に彼らの顔はさっきの光景を思い出したのだろう、蒼白になっていた。
ただ言われただけなら彼らはこれほど恐怖しなかっただろう。しかし心の底から恐怖したのはアランが同時に放った威圧によるものだった。
そして彼らの心に彼の命令に背いたらいけないという一つの楔が撃ち込まれた。
「ただ、ここに来てもらって私たちが無理矢理従わせると言うのは人道的に良くないとは思っています。なので、あなた方の待遇はこの世界では最上級のものにするとここに誓いましょう。住居もこの城の近くに一人一部屋用意しています。ですので今後はそこに住みつつ魔王討伐の為に訓練を行ってもらい、そして十分な実力を手にしたのち魔王討伐の為に各地に派遣します。あなた方一人一人がこの世界にとっての最高戦力であることを自覚しつつも、それを手にしているからと訓練を怠ることなくしっかりと強くなってもらい、そして魔王を討伐してもらいたいと心の底から願っております」
そう言ってミリアはゆっくりと頭を下げた。
さっき国語の先生を惨殺しようとした人物と果たして同じなのか、さっきとは違いすぎるその態度に一同困惑するものの、その真摯な言葉に誰もが心を打たれた。
すると、生徒の中から手を上げる者が現れた。
「質問良いですか」
「はい」
「魔王討伐後は私たちをどうするつもりですか?」
「それは今後も赤紅騎士団として活動してもらう予定です。もし他の職に就きたいとかそう言った要望はその時に聞いて対応しますので心配しなくても、用済みだからと言って殺すことは無いので大丈夫ですよ。なんならここで宣誓して、契約を施しても問題ありません」
「そうですか。ありがとうございます」
そう言って質問した生徒はゆっくりと手を下げた。その生徒はどこか安心した表情を見せていた。
それを契機に次々と質問がミリアに送られる。それらにしっかりと説明し、時折宰相に就いているグロヴェルと名乗った男性や、アランなどが彼女のフォローなどに回って何とかたくさん来た質問を捌いて行った。
そして今度こそ終わりかなと誰もが思ったその時だった。
一人の生徒──甲崎春樹が手を上げた。
「はい、なんでしょうか」
「あの……ちょっと相談というか、お願いがあるんですけど」
「はい。あなた方の世界にある物を持ってこいなどと言う無理難題でなければできる限り答えますよ」
「ありがとうございます。でしたら──」
「──僕をこの城で働かせてください」
その瞬間、彼の周りにいた生徒たちがそう発現した彼に目を向け、一人戦いから逃げようとしている彼に対し、驚愕と侮蔑の視線を向けた。
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追記
9/8 金田のスキルが間違ってましたので修正致しました。
10/2 一部矛盾が生じていたので修正致しました。
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