集団転移が起きたけど、“トカ言語”とか言う謎スキルのせいで僕だけ城の庭師に弟子入りすることになりました

外狹内広

プロローグ

第1話

「──ん?」


 午前12時。四限の国語の授業の真っ最中のこと。


 いつもみたいに、教室の隅にある席で寝ていた少年──甲崎春樹こうざきはるきは違和感を感じて目を覚ました。


 何かがある、と。


 目の前では確かに授業が行われているはずなのに、それとは別の、今まで見たことのない場所の風景が見えるのだ。


 そんな彼と同じように違和感を持った生徒は他にもいたようで、少しずつその違和感は騒めきとなって教室内に伝播し始めた。

 そうなって初めて授業をしていた先生も気づいたのだろう、“黙れ!!”と声を上げ始める。


「あっ!」


 最初は誰の声だったのだろうか。クラスメイトの一人が真下を向いて、床にあった、さっきから彼ら生徒全員が抱いていたその違和感の正体を指さしていた。

 

「床が、光ってる……」


 誰かがそう呟いた次の瞬間、教室内は強烈な光に包まれた。
















(うわぁ。何というか、こうまで来るとドッキリを疑うけど……肌に感じる空気がなんか地球と違うって分かるし……やっぱり本当なのかなぁ?)


 春樹はそんなことを空気も読まずに考えていた。


 今彼を含むクラスメイト達の目の前では王女と名乗る女性による謝罪と懇願、そしてこの世界についての説明が行われていた。


 それによると、どうやらこの世界は春樹たちがいた世界とは別の、所謂いわゆる異世界というところであり、春樹たちクラスメイトは向こうの世界では、この世界に転移させたためにもう死んだのだとか。


 何とも理不尽な話である。


 そう思った生徒がほとんどのようで、現にそれを聞いた一人の生徒が激高した。


「はぁ!?ふざけんなよ!なんで死んでまでこんな世界に来なきゃいけなかったんだよ!」


「本当よ!!早く元の世界に返して!!」


 一人が騒ぎ出すとそれが伝播し次々と騒ぎ立てるものが増えていく。

 しかしそんな彼らに対し、王女──ミリアは冷静に、そして淡々と告げる。


「ごめんなさい。それは無理な相談です。元の世界で死んでいるあなた方を向こうの世界で蘇生させるのは無理なんです。それに、あなた方はあと数日で死ぬ運命にありましたし」


「……は?死ぬ運命、だと?」


「はい」


 それを聞いて彼らが真っ先に思い当たったのが、数日後にあったはずの修学旅行だ。

 その修学旅行ではバスでの移動がほとんどで、彼女はつまり、そのバスでの移動中に事故が起き、それでみんな死ぬ運命だった、と言いたいのだろう。


 しかし、そんなことを言われても信ぴょう性が全くと言っていい程無かった。

 実際彼女からそんな話を聞いても、信じる生徒はほとんどいなかった。


「あなたね。いい加減にしてくださいよ」


 と、その時だった。一人の男が立ち上がる。さっきまで国語の授業をしていた先生だ。


「こんな茶番はいいので、早く私たちを元の場所に返してくださいよ」


「だからそれは無理だと──」


「大体ね、そんな話、ありえるわけないでしょうが。失礼ですけど、あなたが言ってること全てにおいて、嘘だとしか思えないんです。なので、もういい加減やめてもらっていいですか?」


 うんざりしたようにそう捲し立てる国語の先生は調子に乗り始めたせいで何か思いついたのか、嫌な笑みを浮かべながらこんなことを言い始めた。


「もし私たちに何かさせたいと言うのなら、誠意を見せてもらわないと」


「誠意、ですか?」


「ええ。例えば……」


 そう言ってその横に広がった腹を揺らしながらミリアに近づく先生。そして何の前触れもなく突然彼女の肩を抱いた。


「っ!?」


「この後は、分かるでしょう?」


「……っ」


 ミリアはこうなることを予め予想していた。が、予想していただけで実際されると嫌悪感が凄まじかった。

 彼女の顔が物凄いことになっている。しかし美人なのでそれも絵になっていたのだが。


「離してください。その手をどけて」


「だったら、この場で約束してくださいよ」


「……」


 すると、突然ミリアの様子が変わった。さっきまで嫌悪感でいっぱいだった顔がいきなりストン、と感情が抜け落ちたようにまっさらな表情になった後、呆れたように溜息を吐いた。


「はぁ……だったらいいです。もう、やめですね──風よ」


 そして、肩に置かれていた手を無理矢理どかすと、おもむろに左腕を振るった。



 スパッ……!!



「──え?」


「「「「っ!?」」」」


 次の瞬間、国語の先生のその巨体が上半身と下半身で別れた。

 余りの非現実さに、生徒たちは声無き悲鳴をあげる。


「あ、ああああああ!!!痛い痛い痛い!!だ、誰か助け──」


「自業自得です。あぁ回復術師の皆さん、この方は無視してもらって構いません。どうせ最初から使えないと分かっていましたし……ああでも、魔王との和平のための生贄としては使えたかもしれませんね」


 そして彼女はさっきとは打って変わってその顔を黒い笑みで歪ませた。


「脂の乗った貴重な豚肉ですから、さぞかし向こうも嬉しいでしょう。まぁ、私には食えたものじゃありませんが。汚らしい」


「な、な……ふざけるなっ!!お前らの都合で私は勝手にこの世界に飛ばされたのだぞ!それなのに……これ以上お前らの都合を押し付けるな!!早く私を助けろ!!」


「せっかく死ぬ運命から助けてあげたと言うのにその言い草はどうかと思いますけどね。ま、いいでしょう。今回は助けてあげます。回復術師さん。この方を回復させた後研究室に送ってください」


 最初は助けろと連呼していた国語の先生も、ミリアの最後の言葉に何を想像したのか急激に顔を真っ青に変えた。


「……け、研究室?お、おいまさか──」


「異世界人ですもの。解剖すればなにか分かるかもしれません。特に強力なスキルの習得方法とか」


「い、嫌だぁああああああ!!!!!だ、だったら私はこのまま死にたい!!助けなくていい!!もう私はここで死ぬ──あ」


 と、泣き叫んでいた国語の先生は次の瞬間緑色の光に包まれた後、上下に分裂していた体が一つに戻っていた。

 

「では、運んでください」


「嫌だ嫌だ嫌だ!!は、離せっ!!行きたくない!!ああああああああ!!!」


 そして抵抗虚しく国語の先生は数人の男に腕を掴まれ、そのまま奥へと引きずられ、消えた。


「「「「「「……」」」」」」


 ここら一帯が静寂に包まれる。ほとんどの生徒はさっきの光景が脳裏に焼き付いて離れず、それによるショックからだが、一部の生徒は違った。




(ははは……本当に異世界に来たんだ……これで俺は主人公になれる……!)


 主人公になると言う夢を描く者。


(……もう、腹を括ろう。この国を、この世界を救う為に動くんだっ……!)


 正義感溢れる想いを胸に抱く者。


(……何としても、生き残るんだ。何としても)


 生存欲を満たすために他を蹴り落そうと決意する者。


(絶対に……止めなきゃ)


 魔王やこの世界の危機など頭の中にはもうすでになく、ただ一人の行動を止めようと動き出そうとする者。


 そして──





(……楽しそう。こういうのって魔力とかを解析したら僕が思い描くようなシナリオ通りに動いてくれそう。あぁ……考えるだけでもドキドキしてきた。まぁ、どんな行動を起こすかは取り合えずスキルを手に入れてからにしよう)


 世界も、今起きている事情も、何もかもどうでもよくて、ただ世界に混乱を引き起こそうと策略を頭の中で構築して悦に浸る者。




「では、今後は私の指示に従ってください。最初に所持しているスキルを調べます」


 ミリアのその言葉で生徒たちは動き出した。


 それぞれの思惑を抱えたまま。


 そして今から行われるスキル検査によって、後の世界の命運が決定付けられるということに、この場にいる誰もが気付くことは無かった。




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 追記

 9/9 一部修正を入れました!報告してくれてありがとうございます!

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