カルテ8 姉の息子(おいっ子)

現在、TS病はかなり初期の段階で発見する事が出来るようになった。

初期の変化は肌と髪の質の変化とわかりやすい。

私も両親がTS病罹患者だった事もあって、私の髪と肌の変化に

気づいてすぐに病院で調べたら、TS病とわかった。


 TS病の判断基準はいくつかあるが、ある程度進行していれば

遺伝子検査でわかるものの、初期だと遺伝子ではわからない。

そのため診断基準になるのはウィルスが陽性であるが

ウィルスがあっても必ずTS病を発病しない事が判明しており

さらにウィルスが陽性になるのは感染14日までと言う事もわかっている。

髪や肌の質の変化は10日から始まるとされているので、ウィルスが

陽性になるのは僅か4日間のため検出が難しい。


 そのため、発病時に活発になるたんぱく質の増加、通称TSマーカーの値が高くなるが、

TS病のみでしか増えないたんぱく質なのでわずかでも

反応があればTS病と診断される。

私もこのTSマーカーがあったかとから、TS病と診断され現に女性になった。

そして、今日はTS病の疑いで病院に来た患者の確定診断となった。


「TSマーカーがありますので、TS病確定となるわね」

「つまり、これから女の子になるという事ですか?」

「1年から2年かけて女の子になっていくわ」

「なんかだか実感がわかないですが……」

「今は髪と肌の質が変わっただけだけど、これから卵巣や子宮が出来てきて

胸が膨らんきて男性器の委縮し女性の声になり、骨格が変わったりするわ」

「そうなんですね」

「問題なのは、骨格が変わる時で男性の場合骨がいわば縮むので

胸板が以前より薄くなるので肺や心臓をは圧迫する事があるわ。

ただ、ゆっくりなので痛みと少し息苦しさがあるけど、今は命に係わる事はすくないから

心配しなくてもいいけど、痛みが酷かったり息切れや息苦しさが続く場合はすぐに言ってね」

「わかりました」


ステージIで起こる骨格の変化はTS病の中で一番痛みが出でて、リスクが高い時期。

以前は肺や心臓が急激な骨格の変化に追い付かず、圧迫や骨が縮む時に骨折するので

折れた骨が肺に突き刺さる事があり、肺にダメージを与えていた。

今も仕組みは同じであるが、炎症を抑えていけばゆっくり破壊されていく事がわかり

かなり痛みもは抑える事ができそこまではないが

それでも骨折と同じなので、痛みが強い入院する要因とはなる。

逆言えば、骨格の変化が終わりステージIIになれば安定するのである。


「でも、まさか自分も母さんや椿姉ちゃんみたくTS病になるなんてな」


私の事を椿姉ちゃんと呼ぶか、今回の患者は私の姉の子供、花巻 翼18歳である。

結婚したのに同じ苗字なのは夫婦別姓でなく、結婚相手が偶然花巻であったから。

もちろん、親戚でないが先祖の出身が私の先祖と同じ土地なので何らかの繋がりは

あるかもしれないが、聞いた話では明治に村の庄屋だった

私の先祖の苗字を名乗ったからとも聞いはいる。


「TS病の家系はどうもTS病になりやすいみたいなの。文高さんはTS病に

罹患はしてないけど、ご両親と弟さんがTS病罹患者だからなりやすいのよ」

「そうだとしても、せっかく童貞を卒業したら女になるなんて思わなかった」


翼君に彼女が出来たと聞いてはいたけど、そこまで進んだのね。


「私なんて童貞のまま女になったわよ」

「それならそれの方が良かったかも」

「何で?」

「男としての気持ちよさを知らないなら、きっぱり諦めがつくかなって思って」


翼君が言うように、男性としての経験がなかったから諦めがついたかもしれないが

正直言うと、精神的に落ち着いた頃になるまでは童貞を捨ててない事は忘れていた。

医学大に入学してできた初めての彼氏、元カレに言われて気づいたぐらい。

その時は女性になって4年経ってたので、気にしなかったけど後悔もない。

そして、女性としての性も問題なく受け入れたのあった。


「正直、TS病になったらそんな事考えてる暇がなかったわよ。

でも、男性としての経験がないから、女性としての経験が出来たかもね」

「それもあるんだなぁ」


今までの性と反対になるが、男性から女性になった方が性生活周りの問題が多い。

理由は大体わかると思うけど、入れる側になる事。

特に男性として経験がある方が、問題が長引く。

私も初体験が遅かったけど、勉強をしててそう言う事をしている暇が

なかったのもあるが、自分ではする分には良いものの本番となると

やっぱり怖くなってしまい、すんなりで出来なかったが私もアダルトグッズを

使って練習して慣れていきやっとできるようになった。


「女性になれば自然とそう言う気持ちになるわよ」

「でも、椿姉ちゃんの初体験は23歳でしょ?」

「何でそんなこと知ってるのよ」

「母ちゃんが言ってたよ」

「最初から女性なら遅いけど、女性になって6年だから早いわよ」

「女性になって6年って事は、6歳で経験したって事になるのかな」

「そんな訳ないでしょ。身体は年相応の女性だわ」


性の事言ついては先に女性になった姉に相談はして、23歳で経験した事も

話したけど、息子にそれをいうかな。

私は姉が2人いるが、TS病で女性になったのは1番上の姉。

姉は9歳年上で、17歳8か月でで発病し19歳2か月で完全に女性になったけど

姉の女性としての初体験は18歳というか、ステージII後期で経験をしている。

ステージII後期になると初潮きて、女性器も大部分が出来上がっているので

出来ない事はないが、まだ完全に成長してない状態でするのと変わらない。


 もちろん何もなかったけど、ステージII後期の性器の成長度は

13歳相当とされているので初体験をするは早い。

実年齢的には一応問題ないとはいえ、肉体面では問題があった。


「性的な部分の話はその時になったら考えて、今はステージIを乗り切る事を考えましょう」

「母ちゃんに聞いたけど、ステージIってとっても痛いんでしょ?」

「今はかなり治療が進んでいて、私と姉さんの時も入院はしなかったけど

それでも寝込むぐらい痛かったわ。

でも、今は日常生活を送れるぐらい痛みを抑えれれるわ」

「ならいいけど、それでも入院する事もあるんでしょ」

「薬が効かない体質だったり、副作用で薬がつかえなくなったり、ちゃんと薬を

飲まなかったらね。

でも、入院する原因はちゃんと薬を飲まない事がほとんどよ」


「薬を飲んでたらひとまず大丈夫って事か」

「そう言う事。ただ、それでも痛みを抑えれない事は今でもあるわ」

「そうならないように祈っておくよ」

「そうしてね。今日はここまでだけど、次は来月ね」

「椿姉ちゃん、またね」

「お大事にね。姉さんにもよろしく言っておいて」

「わかった」


翼君は診察室を出ていくが、やはり私の家系はTS病になりやすいようだ。

父方の両親は父の世代では珍しいどちらもTS罹患者で通称TS病第1世代。

TS病第1世代はTSパンデミックが起こる前の世代になるが

予後があまりよくないので、子供を作るどころか偏見や差別があり結婚自体も難しかった。

また、結婚できたとしても後遺症による障害で子作りが難しかった。

そのため、TSパンデミックでTS病罹患者が増えた第2世代以前で

両親がTS病罹患者というのは学会で発表されぐらい珍しかったのであった。


 TS病は後天的に性別が変わるので、遺伝しないとなってはいるが

TS病罹患者の子供はTS病になっていない子供よりも罹患率が高い事は

調査ではっきりと出ており、両親がTS病の場合、子供の罹患率は

80%と片親がTS罹患者の40%、非TS罹患者の25%と比べてもかなり高い。

原因はわからないが、ウィルスが原因となっているのでウィルスに対する

免疫反応が低いとされてはいるが、はっきりとわかってはいないの現状である。

しかし、TS病の経験が多いため、家族もずぐに対応しやすく

本人も受け入れが早いのは確かある。

なので、翼君にもTS病になった事を不安にならず、気楽にして欲しいと

伝えておいたのであった。

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