カルテ7 倉田 了

前回の外来から1か月後、了君の診察日となった。

今回は前回の話の判断を聞くが、今回も決められないなら仕方がない。

手術をしなくても、精巣が本来の位置にあるので精巣が癌になるのは

男性と変わらないとされてはいるが、30%ほど高いデータがある。

ただ、最近出たデーターでは男性と変わらないとなっており、

未だにはっきりはしないのである。

ただ、精巣がどれだけ委縮したか調べるので、その時に癌がないか調べるので

TS病の場合、精巣がんは早期発見される事が多いけど

とよやま病院ではTS病の患者から精巣がんが発見された例はまだない。


「血液のデーターなどは問題ないけど、前回話した手術の話だけど決めれたかな?」


私は了君に聞くが、表情は硬くないので決断をした様子ではある。


「手術する事に決めました」

「そうなんですね」

「わたしも家族もやっぱり女性になりたいので、男性の物がない方が良いとなりました」

「わかったわ。手術するように調整します。手術前に検査があるけど、この検査は

手術する日が決まって入院した時にします」

「わかりました」

「手術にはもちろんリスクがあるけど、細かく説明するわね」


リスクは以前にも話したが、手術で神経を傷つけて感覚が

鈍くなったり無くなったりする事や

尿道が委縮したり、憩室が出来てそこに尿が溜まって尿道感染や

膀胱炎になったり、場合によっては尿が出なくなる事もある。

さらには膣を傷つけたり、手術自体で起こる出血などのリスクを説明する。


「あと手術は1回でなく、まずは精巣を切除して1か月後に陰茎を陰核にし

尿道を女性の位置にします。

リスクは2回目の方が大きいですが、女性になるためです」

「わかりました。聞いただけでも痛そうだけど、女性になるため頑張ります」

「あと、陰核のサイズの希望がありますか?

基本的には女性のサイズにしますが、中には女性としては大きいサイズにしたい

場合もありますので。実際の写真がありますが、見ますか?」

「は、はい。言われても実際どんな感じか見ないとわからないので、お願いします」

「わかったわ」


看護師にタブレットをもってきてもらい、実際の写真を見せる。


「女性でもサイズがこれだけ違います」

「女性も個人差で大小があるんですね」

「女性でも大きい方もいます。ここからはTS女性の物です」

「TS女性の物は手術した物ですか?」

「それもありますが、自然に小さくなったものもあります」

「そうですか」


実際の写真を見て了君は考えるが、TS女性は陰核縮小術を受けても

女性としても大き目を希望する率が高い。


「えーと、これぐらいがいいです」


了君が選んだのは、2㎝と女性としては大きいサイズであった。


「これね、わかった。これは見本だから、この通りにならない事は伝えておくわ」

「わかりました」

「手術の日程はまた後日決めますので、こちらから連絡します」

「手術は怖いですが、頑張ります」

「説明し忘れる所だったけど、場合よっては手術の回数は増えるわ。

特に問題になるのは尿道で、以前よりは複数回の手術をする事は

かなり減ったけど、それでも0にする事は出来ないわ」

「その時は仕方がないないです、女性になるため頑張ります」

「それじゃ、同意書に署名をお願いね」


説明した事を承諾した事を同意したと言う事で同意書にサインする。

手術の日程はまだはっきりしないが、精巣の手術は早く出来そうではあるけど。


「なんかもう緊張します」

「精巣の手術は局所麻酔だけど、性別適合手術は全身麻酔になるわ。

血が止まりにくいとかもないので、大丈夫とは思うけど出血のリスクは

どうしてもあるわ」

「それは仕方がないですね。わたしはなすがままですし」

「それだけ信頼してもらってるって事かな、

では、今日はここまでだけど、気が変わった場合は手術をキャンセルできるわ」

「わかりました、ありがとうございます」


了君は前回と変わって、晴れやかな表情で診察室を出て行った。


************


3週間後、1回目の了君の手術の日程が決まって入院をする。

今回は精巣の摘出で、基本は局部麻酔の手術であるがTS病で女性化が進んだ場合

精巣と陰嚢が委縮しているので場合によっては予定より手術が難しくなるが

術前検査では私の診察同様、局部麻酔の手術でできそうである。


「初めに説明した通りの手術が出来そうで良かったわ」

「外科の三浦先生からも説明を受けましたが、意外と簡単なんですね」

「そうだけど、実際に手術したら想定外の事があるから簡単ではないわ」

「わかりました」


手術は明日であるが、私は立ち会えないので結果を聞くしかない。


翌日、了君の手術が行われたが、外来の診察が終わったあと

結果を聞いたら無事に終わった。

TS病の手術は基本的にTS科病室に入院する。

プライバシーのためであり、この場合は外科の看護師が応援に来る。

また、TS病棟は全床個室であるが、国の補助が出るため個室の患者負担は0である


「失礼します」


了君の病室に入るが、了君はベッドに横になってはいるが

スマホを見ていたので、元気そうだ。


「先生、こんにちは」

「手術はうまく行ったようね」

「はい、問題なく終わりました。ただ、やはり痛いです」

「それは仕方がないわ。痛み止めも使えるわよ」

「手術が終わって1度使って楽になりました」

「なら良かったわ。痛み止めは、一定時間空けないと使えないからね」

「これぐらいならば、大丈夫です。これで一応、女性になるんですね」

「精巣が無くなったから。ただ、ホルモンバランスが安定するまで

ちょっと不調が出るかもしれないけど、気分が悪くなったらすぐに言ってね」

「わかりました。今のところは大丈夫」

「良かったわね。次の手術は大きな手術になるけど、頑張ろうね」

「そうですね」


次の性別適合手術は大きな手術になり、場合によっては膀胱や腸、子宮も

傷つける事もるが、これも説明はしてある。


「次の手術日程はまた決めるけど、何もなければ明日退院予定よ」

「あと1日か2日いても良いかもしれません」

「心配ならばそれでもいいわよ」

「わかりました」


結局、了君はもう1日入院して退院した。

その後も経過も特になかったようで、退院後の経過を見るための外来診察となった。


「ホルモンバランスを見た調べたけど、性ホルモンも他のホルモンも

女性の値になったわね」

「手術後、以前より胸が張って大きくなってる感じがします。

あと、髭も伸びなくなってきています」

「体調はどう?」

「体調も良いです。ただ、以前より筋力が落ちた感じはします」

「男性の時よりは筋肉が落ちるけど、ある程度は鍛えらるわ」

「次の手術が終わったら、少しは鍛えます」

「つぎは性器を診てみるから、横になってね」

「わかりました」


精巣を摘出して、女性としてもホルモンバランスが安定すると

ある程度男性器は小さくなる。

2週間ではあまり変化がないと思うが、手術の傷を見るのもある。


「では、診ますね」


性器の様子を見ると、術前に診た時よりも小さくなっているが早すぎる。

おかしいと思って、女性器の所を見ると尿道が出来てる始めている事にに気づいた。


「先生、どうです?」


了君が聞いて来たので


「女の子の位置に尿道が出来始めてるわ」


とはっきり答えた。


「えーと、それって?」

「どうも、変化が進み始めてるけど、詳しい説明は後でするわ」

「わかりました」


不完全型の中には稀であるが精巣を摘出すると変化が進む事があるが

もしかしたら了君はこのタイプかもしれない。

手術して2週間で尿道口が開き始めているので、可能性が高い。

ただ、確定するには2か月は経過を見ないとならない。


「不完全型でも精巣を摘出した事によって、変化が進む例が稀にあるけど

了君もその可能性はあるわ」

「もしかして、手術をしなくてもいいって事ですか?」

「それはまだわからないわ。確定するには2か月は経過を見ないとならないの。

精巣を摘出して女性の位置に尿道が出来る事は全体の40%にあるけど

一部だけで、完全にできない事が多いわ」

「そうなんですか」

「さらに言うと、外側の部分に尿道が出来るのは問題にならないけど

膀胱につながる所に出来ると、そこに尿が溜まって膀胱炎や尿路感染が

起こるで問題になるわ」


TS病で尿道の位置が変わる時は男女とも外側から出来てくる。

理由は尿路感染を防ぐためとみられてるが、良くはわかっていない。

ただ、時々膀胱側から出来て、そこに尿が溜まり感染症を起こす事がある。

この場合、感染症の治療と尿を外に出す治療を行う。

あまりにひどいと、尿道にカテーテルを入れる事もあるが

この状態になる時は炎症もあって、通常よりも挿入の痛みが強くなるが

たまった尿の方が問題になるので仕方がない。

この状態で尿道が完全にできるまで待ちつつ、感染症の治療をするのである。


「念のため、膀胱側に尿道が出来てないか確かめるわ」

「わかりました」


超音波検査がすぐに出来るか調べら空きがあったので、今から検査をする事にした。


「今から超音波検査室に行って検査をします」

「わかりました」


了君は超音波検査に行ってもらったが、すぐに検査が出来たようで

思ったより早く検査結果が出たが、膀胱側には尿道は出来てなかった。

ただ、現時点で出来ていなくても、これからできる可能性がある。

なので、2週間後に再び検査する事にして、手術は保留となったのであった。

ただ、稀な症例なので了君に論文として発表させてほしいと頼む。

もちろん、断っても良いが、了君は悩んだものの了承してくれた。


「ありがとう。プライバシーは守るけど、症例として性器の写真も撮るけど本当にいいの?」

「はい、珍しい症例ならば先生のためになりたいです」

「ありがとう。では、カメラを持てくるわ」


カメラを持って来て、写真を撮る。

性器の写真を撮られるのは流石に恥ずかしいので、出来るだけ早く終わらせるが

わかりやすく撮影しないとならないので、どうしても時間がかかってしまう。


「終わったわよ。今後も写真を撮るから覚悟してね」

「わ、わかりました」


自分の性器を何度も撮影されると思うと、了君は恥ずかしくなるが

医学のためと言って協力してくれたのであった。



2週間後、再び膀胱側に尿道が出来てないか検査をしたが出来てなかった。

ただ、尿道自体は間もなく膀胱につながる位置まで出来ていた。


「ここまで尿道が出来ていたら、このまま変化が進むと思います」

「と言う事は、手術はしなくても良いですか?」

「前も言ったけど、2か月は見ないと駄目よ。

ただ、この様子では1週間もすれば尿道の位置が変わると思うわ。

そして、男性器の方の尿道が塞がれば手術が不要よ」

「わかりました」


手術が不要になれば身体の負担が小さくて済む。

結果は1か月後になるが、時々男性器の尿道が塞がらない場合もある。

その時は手術になるが、女性の位置に尿道を作らなくて済むので

手術の負担は少し減るが、やはり手術をしない方がいい。

この事を了君に伝えると、本人も納得してくれた。


「では、次は1か月後ね。手術は一旦キャンセルしたわ」

「わかりました」


次回の結果がどうなってるかわからないが、手術をするかどうかは1か月後になる。

そして、論文のために性器の写真を撮れせてもらった。


―—そして1か月


了君に経過を聞いたら、前回から1週間後に尿道が女性の方に変わったそうだ。

さらに、男性の方からも尿が出なくなったそうだ。

確認のために診てみると、男性器の尿道は塞がっていた。

尿道が塞ぐ場合は膀胱側から塞がるので、あとは外側が塞がれば問題はない。

時々、完全に塞がってない事があり、尿が溜まって感染症を起こすが

そのような症状が今の所ないので問題はないと思われるが

何があるかわからないので、気になったらすぐに連絡して欲しい伝えました。


「女性は男性より膀胱炎が起こりやすいから気を付けてね」

「はい、わかりました」

「あと、滅多にないけど男性器側の尿道が完全に塞がってない事もあるけど

その場合は膀胱炎が起こるので、症状がないなら大丈夫よ。

でも、何かあったらすぐに連絡してね」

「はい」

「これで手術しなくて良かったわね。あと、これで写真の撮影は終わりよ」

「医学のためとはいえ、自分の性器の写真を撮られるとは思いませんでした……」

「ごめんね。稀な症例なので、報告したいの」

「いえ、構いませんよ。それに、手術をしなくて済みましたから」


了君は性器の写真を撮られるので恥ずかしいさがあるが

それよりも、手術しなくなった方の方が大きいみたい。

私は写真を撮って、後で論文にまとめる。

あと、ここまで変化が進んだならば、戸籍も女性に変更する事が出来るため

改名と性別の変更の手続きを進める事にした。


「これで完全に女の子になれるんですね」

「ええ、法的にも女の子になれるわ」

「女の子としての名前も「りょう」のままにしようかなって思います」

「字は変えるの?」

「字は悩んでいますが、変えなくても良いかなって思っています」

「それなら、改名の手続きは不要になるわ」

「でも、字についてはまだ決めた訳じゃないです」

「改名手続きはいつでもできるから、急がなくてもいいわ」

「わかりました」

「とりあえず、性別変更の手続きをするけど、改名の書類も渡しておくわ」

「わかりました。これで、やっとじょせうになります」


性別変更の書類と共に、改名の書類も渡しすと、女性に慣れると喜んでいる。

了君は手術をしなくて良くなった事と、法的にも女性になれる喜びで

前回とは違った晴れやかな表情で診察室を出て行ったのだった。

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