カルテ3 大坪孝則 

TS病は発症初期のステージI、男女両方の外性器・性腺があるステージII、

元の性の性腺と外性器が消失して性転換が終わるステージIIIの三段階がある。

TS病で一番危険なのがI期の発症期であるが、今は早期発見すれば急激な身体の変化を抑える事が出来るが、あくまでも免疫の暴走を防止し、組織の破壊速度を遅くし、

炎症と痛みの緩和をするに過ぎない。

しかし、以前の様に入院せずに最初から外来で経過観察や対応が

出来るようになったのはかなり大きい。


 聞いた話や論文や書物で読んだ話であるが通称「TSパンデミック」と言われる

2020年から2023年は急激にTS病が増加したて、医療体制が追い付かず

大騒ぎになり、死亡率が一時上昇したそだ。

しかし、不思議な事に2021年3月頃より発症しても急激な変化が起こる

急性期がない、または急性期あるが治療しなくても後遺症や死亡しないケースも

出てきて、どの程度ならば入院が必要かもわかって来て、医療体制も

安定したが、現在の国内患者年間2万人に対して

2020年は年間32万人と2021年は年間40万人と現在の20倍まで増えた。

この数は他の疾患と比べれば多くないが、この当時は症状が激しかった為に対処が難しくなる数だ。

2022年は19万人、2023年は5万人と一気に減っていったが、何故急激に

増えたかは現在でも不明である。


 原因はウィルス説が唱えれており、いくつかのRNAウィルスが発見されはいる。

現在(2060年時点)の研究ではウィルスが何らかの形で

SRY遺伝子内にあるSRY-Tを発現、欠損させていると考えれている。

SRY-Tを発現させると男性になり、欠損させると女性になるというもの。

この欠損、発現がなぜ起こるかはわかっていない。

しかし、これは男性のみに起こっている現象でSRY遺伝子はY染色体のみの存在する。


 そのため、女性から男性へはまた違う作用で性別が変わっていると考えらている。

女性から男性になった患者の遺伝子を調べたが、SRY遺伝子はない。

そこで考えれているのが、Sox9の活性化である。

Sox9は精巣と軟骨を作るための遺伝子であるが、Y染色体を持たない

マウスがおり、そのマウスはX染色体に特殊な配列がありその配列があると

Sox9が活性化してオスになると言うもの。

マウスでは胎生時はもちろん、誕生後のメスもSox9を活性化させると

卵巣が精巣に変化した事が知られている。

そのため、Sox9が活性化し卵巣が精巣化すると考えれているが

陰核が肥大するのは男性ホルモンによるものだが、そこに尿道が出来

陰茎になる理由はまだ解明されていない。


 現在考えられているのは、ゲノム編集と同様の遺伝子の変化が何らかの形で 

行われていると考えれているが、なぜ自然に起こるのかまでは不明。

ゲノムが変更されると言う事は、ガイドRNAが係わっているが

発見されたRNAウィルスが行っているとされているがまだ解明されいない。

また、ウィルスの変異が速すぎて予防法や治療法もない。


 TS病によってSRY-Tの発現、欠損がおきているのならば

もう1度人工的に起こして元の性に戻るのではないかと

言われてはいるが、実際に行われた例はない。

理論上、元に戻ると考えれれているが、本当にうまく行くのかわからない上に

人間のゲノム編集にあたるため倫理的な面で行ってよいのかという議論が

あり進んでいないのが現状である。


 原因はいまだわかっていないが、病態はわかってきている。

死亡の危険性はステージ1の発症期のみで、ステージ1を過ぎて

ステージ2になれば死亡や重篤な後遺症が出る事はなくなる。

なので、ステージ1の発病してからの特に1か月間をいかに安定させるかである。

現在では急性期前に発見できれば、ほぼ急性期を抑える事ができる。

しかし、10%ほどは急性期なってしまう。

それでも、適切に治療すれば死亡もせず、後遺症もほぼ出る事がない。

ただ、中には発症と同時に急性期になるC型がある。


 このC型はかなり稀であるが、発症すると細胞の破壊が異常な速さで起こり

各種組織、骨、筋肉が一気に破壊されて数時間で死亡する恐ろしい状態。

死亡率はほぼ100%で、数少ない生存例でも重篤な後遺症が残り予後も非常に悪い。

原因はわかっていないが、救急搬送時の振動で骨が折れるほどなので

触れる事が出来ず、ただ死を待つのみである。

私がTS科の医師になって8年が経つが、このC型のとよやま病院では出ていないい。

ただ、実際に症例を経験した医師話では


「救急室内に骨が折れると言うより砕ける音が鳴り響いてた」


と証言していた。

唯一の救いは患者の意識がなく、何も感じない事である。

なおC型とは病態を研究しまとめた

キャンベル(Cambell)、カーナル(Carnall)、カー(Carr)の三博士の

名前の頭文字をとってC型と呼ばれている。


 以前と比べてかなり減ってはいるが、それでも月に2人はTS病で救急搬送される。

私はあまり救急を担当しないが、救急搬送をされると呼び出しが来る事がある。

何時呼び出されてもいいように備えて好きなお酒は飲まなくても我慢できるが、

彼氏とのたまのデートをしてる時に限って、何故か呼び出しがくる。

現に。久しぶりに彼氏の市川一太とのデートをしていた今日も呼び出しがあった。


「ごめん、緊急の呼び出しがあったから行くわね」

「仕事だから仕方がないよ。それに、呼び出しがあるかもしれないから

先にやっといてよかっただろう」

「そうね、今日も良かったわ」

「俺もだよ」

「もう少し余韻に浸ってたいけど、服を着るわ」


私は彼氏のと一緒寝ていたベッドをでて服を着る。

一太と付き合って3年になるけど、お互い結婚を考えて話もしている。

ただ、一太も私も仕事が忙しくて、なかなか話が進んでない。

一太は私が元男性と言う事はもちろん知っているが、年齢的に男性で居た年数より

女性でいる年数の方がもうすぐ長くなる。


 元男性と言っても、恋愛対象は男性であるが性別が変わる年齢が早いほど

恋愛対象は異性になり、同性が好きになる事は少ないがまったくない訳でもない。

実際に、あきらは同性が恋愛対象であるが、TS病を発症する年齢が

高いほど同性が好きなる割合は高くなる。

理由は性的嗜好が決まっていて、肉体の性が変わっても

性の対象が変わりにくくなるためであるが、パートナーがいると事も関係してくる。


「いくわね、一太」

「明日は珍しくお互い休みだったからゆっくりしたかったのに、仕方がないな」

「早く終わったらまた連絡するわ。それに、やる事はやったでしょ」

「そうだけど、それだと身体だけの関係みたいだろ」

「身体だけの関係だったら、3年も続いてないわ」

「それもそうだな。椿、いってらっしゃい」

「行ってくるわ」


一太と軽いキスをして一太の部屋から車で病に向かう。

病院まで10分ぐらいであるが、TS病も今はTS科の医師でなくても

重症でなければ対応できる。

ただ、性器の状態はTS科医師でないと判断が出来ないので呼び出だれるのである。

病院に着くとすぐに着替えて、救急室へ向かったが看護師のから患者は軽症と伝えられた。


「おまたせ。症状は搬送された割には軽いみたいね」

「今は眠っていますが、意識はある状態でした。


患者は大坪孝則13歳、中学生。TS病急性期による痛みで救急搬送されてましたが、

乳房はタナ―IIかIII、性器はステージII前期と思われるますが

性器は先生に判断していただかないとならないです」


「わかったわ」


13歳での発症は早い部類であるが、この年齢で発症すると急性期がない

またはある程度進行した状態で急性期が起こる事があので、診断時に

ステージII期前期になっている事は珍しいくはない。

理由はわからないが、第二次性徴と重なっているため考えらているが

発症年齢が低いほど急性期がなく、あきらも病院に来た時には

ステージIIの後期であったそうだ。


「13歳だと性器の確認は家族の同意も必要だけど、家族は来ているよね?」

「はい、来ていますので、お呼びします」

「お願い」


待っていたのは母親だが、TS病を発病した事説明するが母親もTS病罹患者で

あったので話が早かった。


「では、同意書にサインをお願いします」

「わかりました。TS科の先生ということは、先生もTS病で女性になったのですね」

「そうですね。この病院のTS科の医師は全員TS病罹患者ですので」

「わたしもTS病でこの病院でお世話になってましたから、その点は安心です」

「そうですか」

「村田先生にお世話になったけど、村田先生は今ないんですね」

「村田先生とわたしは入れ替わりですね」

「そうですか。書けましたので、後はお願いします」

「わかりました」


保護者に同意書を貰って、性器を調べるが丁度目が覚めていたため

やり取りをしたが、意識もはっきりしてており、性器を調べる同意書にもサインもできた。


「ちょっと触れるけど、痛みは大丈夫?」

「大丈夫……です」

「膝を立てられたら、立てて股を開いて貰えるかな?無理ならいいけど」

「出来ます……」


膝をあげて股を開いてもらったが、毛布で目隠しをする。


「ちょっと性器に触れるけど、痛たかったら言ってね」


私が性器を診ると、男性器の委縮はないと思うが、陰嚢の裏には既に割れ目と

小さい大陰唇が形成されているが、膣口や尿道口はないので

ステージIIの前期の初期と言った所か。


「ありがとう、楽にしていいわ。これで終わりだから、寝てていいわ」

「わかりました……」


孝則君は再び眠りにつくが、お母さんに状態を説明をする。


「孝則君は現在ステージIIの前期ですね。ステージII前期で胸が膨らんでいるので、発病して最低2か月は経っていますね」

「男の子にしては胸を隠すから変だと思ってましたがそうでしたか。

夕食時に呼んでも来ないので見てみたら、胸が膨らんでいたのと痛みで起き上がれないので救急車を呼びました。

わたしは18歳で発症ましたが、ステージIの時に痛みが酷くて病院に行ってわかったんですが、2,3か月も痛みを我慢している様子はなかったのに」

「13歳だと急性期がない、またはステージIIに入ってから急に起こりますので」

「そうなんですか」

「理由ははっきりしていませんが、成長期と重なるためと考えられています」

「そうなんですね。朝はそうでもなかったから、学校から帰って来た時に痛みだしたかも。

わたしも仕事があるので、帰るのは大体18時ぐらいなので気づくのが遅れました」

「意識もありますし、痛み止めと炎症を抑える薬を投与して安定してるので軽症だと思います。

入院は大まかですが。3日ほど薬を投与して様子をみて、痛みが日常生活に

支障がないなら、1週間ほどで退院できると思います。

ただ、悪化する可能性もありますので、断言はできませんが」


「いえいえ、構いません。わたしの時は最初から痛み酷く救急車で運れたあとの

記憶があまりなくて、はっきりしてるのは入院して2日目でした。

そして、退院した時はステージIIの中期でした」

「大変でしたね。ただ、経過がわかっているので説明しやすいですね」

「そうですね、わかってるから安心できます」

「そろそろ病室へ行きますが、看護師から説明があるので一緒に行ってい下さい」

「わかりました、ではお願いします」


ひとまず私の仕事は終わりだが、カルテをまとめないとならない。

カルテをまとめてると時間はまだ22時。

この時間ならまだ一太の所にまた行っても大丈夫と思うので

一太に連絡する事にした。

更衣室で、一太に連絡をするが今からでもOKだった。

私はは嬉しくなるが、それと同時に『せっかくだからもう1回どう?』

と聞かれたので私はもちろんOKしたのであった。



*補足説明

タナ―IIは思春期の成熟の評価尺度をしめすタナ―段階です。

IIとIIIの間は乳房のふくらみが見た目でもわかってくるぐらいです。

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