カルテ2 大村ななみ

お盆前前後の診察はいつも忙しいが、やっと今日最後の患者だ。

患者の名前は大村ななみ 20歳。

発症したのは17歳で3年経過したので、身体の変化も終わり、精神面も安定し

女性である事を受け入れて、改名と性別の変更も終わっているので、

そろそろ定期的な通院も終わる頃である。


「先生、こんにちは」

「どうもこんにちは。体調はどうです?」

「はい、問題ないです。すっかり女性の身体になれました」

「月経……生理も大丈夫ですか?」

「思ったよりは楽ですが、ちょっと辛い時もあります」

「生理の辛さは個人差がありますが、あまりにも辛いならば検査をしたり

ピルや漢方薬を処方しますが、どんな状態ですか?」


男性から女性になった時に困るのが月経。

知識があっても、実際に出血をするとかなり驚く。

さらに、PMS(月経前症候群)や生理痛など月経に伴う不調もある。

大村さんに月経について聞くと、痛みは市販の鎮痛剤を時々飲む事はある程度で

寝込むほどひどくもなくないそうだけど、ドロっとした血が出て昼でも夜用の

ナプキンを使う事もあるそうだ。


「出血量が多いですね。しっかり検査しないとわかりませんが

子宮内膜が体質的に厚いのかもしれません。月経期間は何日ぐらいです?」

「ちゃんとアプリでつけてますが、大体7~8日ぐらいです」

「見ても良いですか?」

「はい、大丈夫です」


アプリを見せてもらったが、月経周期は毎月28日なので周期は安定しているいるが

出血期間は3~7日のところ、8日の時の方が多い。

TS科は基本的には内科であるが、婦人科の知識はあるものの専門ではないから

正直に言えばちゃんとした診断は難しい。

ただ、昼間でも夜用ナプキンを使っているので、治療はした方がいいとは思う。


「子宮内膜が厚いかもしれませんね。ピルで軽減されるので服用してみますか?」

「そうですね、試してみたいです」

「わかりました、低用量ピルを処方します。生理が終わった日から服用してくださ。

副作用が出た場合や体調に変化があった場合は、すぐ相談してください」

「わかりました」

「他に不安な事がありますか?」

「あの……先生にする話でないかも思いますが……相談できる相手がなくて……」

「身体のこと以外の悩みを聞く事も私の役目ですのでかまいませんよ」


TS病は精神面の不安があるので、たとえ雑談でもあっても患者の話を聞くの大事。


「あの……彼氏の話です」

「あら、彼氏さんができたの、おめでとう」

「はい。TS病で女性になった事も納得してくれてますし、男性と付き合えるか

わかりませんでしたが、問題なくうまくいってます」

「それは良かったわね」

「ただ、付き合って4か月も経つと、そう言う事を何度か求め来て……」

「あれね、男性とそう言う事をしたけど、いざも求められたら不安と怖さで

結局できないって事ね」

「はい、そうです……。だから、ちょっと彼も求めるのを気にしてまして……」


この問題もほぼ全てのTS病で女性になった時に起こる問題。

気にしない場合もあるけど、私も初体験をするまでは時間がかかった。

やってしまえば後は勉強して、慣れるまで。

と言っても、実際にするまでが大変。


「わたしも正直言うと、初めてまで時間がかかったわ。

17歳で女性になったけど、経験をしたのは23歳。相手は元カレだけど

優しいかったから、1年待ってくれたけど全員がそうでないからね。

まずは挿入する事になれるしかないわ。自分でやってる?」

「……自分ではやってます。あと、ネットで調べて、アダルトグッズを買いました」


恥ずかしそうに話すけど、こういう事も話せるのは信頼があると言う事でもある。


「うまく使えている?」

「買ったのは1か月前で、まずは週に2,3度使ってますが、かなり慣れました」

「それなら大丈夫よ。彼氏さんのサイズは大きいの」

「えーと……」

「恥ずかしいなら、耳打ちして」


大村さんが耳打ちするけど、なるほど平均よりも大きめ。


「自分が男だった時よりも物より大きので、びっくりしました」

「その気持ちわかるわ。でも、1度やってみると案外平気になるわ。

何度も求めてもきても、我慢してくれる彼氏さんならばきっと大丈夫。

最初はうまくいかないけど、お互いちゃんと話すことが大事よ」

「わかりました。3日後、彼と会うので頑張ってみます」

「そう頑張ってね」

「先生と話したら気が楽になりました。結果はどうあれ報告はしますので、メッセージを送ります」

「わかったわ、報告をまってるね」


患者と相談できる専用のアカウントがあり、それを使って通院や来院をしなくても

相談ややり取りが出来るが、これはTS病医療関係者用のシステムで

セキュリティも高く、プライシーを守れる仕組みになっている。

スマホも市販の物をベースに特別なチップを差して利用していので

個人のスマホを使っている訳ではない。

ただ、病院外にも持ち出すので、紛失には注意しないとならない。


「次の予約だけど、TS病の方は定期的な通院は必要ないから

ピルの処方のために来るだけだけど、月経は婦人科の方が良いので

TS科から婦人科に変える事もできわよ」

「まだ先生とお話したいので、TS科でお願いします」

「わかったわ。はっきりいうけど、私も婦人科の知識はあるけど、専門じゃないから

診断が間違ってる可能性はあるわ。

月経の事は婦人科で診てもらった方が本当は良いけど、TS科が良いなら

私が婦人科の先生に相談しながら診ていくわ。

ピルをある程度服用して、改善しない場合は婦人科で診てもらうでいいかしら」

「先生とお話したいので、それでお願いします」

「わかったわ。では、薬を処方しておきますので、お大事に」

「ありがとございます。では、報告を待っていてください」

「ええ、楽しみにしているわ」


大村さんは相談できて、気が楽になったようだ。

うまく行かなくても、仕方がないけど無理するのが一番駄目とも言っておいた。



―—そして3日後の夜。


帰宅して家で休んでいると、TS科用のスマホの通知がきた。

見てみると、大村さんからであったがそこには


『彼氏と無事できました。ちょっと痛かったけど、良かったです』


と良い報告だった。

私も今付き合っている彼がいるけど、お互い忙しくてなかなか会えてない。

大村さんの報告を見て、わたしは自分のスマホを出して彼氏に


『久しぶりに時間を作って会いたい』


とメッセージを送信たのであったが、返信はすぐに来てその返信を見て

笑みが自然とこぼれたのであった。

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