第51話 お姉ちゃん

本当のお父さんとお母さんは死んだ。

 何があったのかおじさんやおばさん達は教えてくれなかった。

唯一分かった事はただもう二度と会えないんだという事だけ……おじさん達が私に気を遣って話してくれなかったのは分かっていたけどそれでも何があったのか知りたかった。

 お父さんとお母さんが何処が遠い所にいったと言えば大人達は私が納得するような無垢な子供なんだと勘違いをしていた。

 また小さかった私にもそれが大人達の気遣いだってことは分かっていた。

 でも純粋な子供のような仕草をしないと大人達は安心してくれないから私は必死に子供を演じた。


「奈々?」


 私とお姉ちゃん

 生き残ったのは私達二人だけ

 

「お父さんとお母さん、死んじゃったんだ」

 

 そして唯一本当の事を話してくれたのはお姉ちゃんだった。

 お姉ちゃんだけは私を子供扱いしなかった。


「でもこれからは私が奈々とずっと一緒に居るから! 安心してね」


 一番泣きたいハズのお姉ちゃんがその日、無理して人一倍笑っていた。

 私はそれがとても辛かったのを覚えている

 お父さんとお母さんの死よりもずっと辛かったことを


「奈々! 半分こ!」


 お姉ちゃんはよく二つに割るアイスを買ってくれて、公園で一緒に食べた。


「にひひ! 私の方が大きいね!」

「ず、ずるい! お姉ちゃんワザと!」

「ワザとじゃありませーん! 事故でーす! 不可抗力でーす!!」


 お姉ちゃんはよく戯ける人だった。

 お父さんとお母さんが死んじゃってずっと塞ぎ込んでた私だけどそんなお姉ちゃんに私は救われていた。


「はい! 奈々できたよ!」

「わー! おいしそー!! いただきまーす!」

「こーら! 手洗いが先!」


 お姉ちゃんの得意料理はチャーハンだった。

 お店のと違ってべちゃべちゃだししょっぱいけどそれがおいしかった。


「ねぇお姉ちゃん」

「ん?」

「あ、あのねこれ……お姉ちゃん今日誕生日だったでしょ? プレゼント……」

「え!?」


 お金はなかっただから頑張って探した四つ葉のクローバーぐらいしかお姉ちゃんにあげられる物がなかった。誕生日ケーキもない

 それでもお姉ちゃんは大喜びしてくれた。

 いっぱいいっぱい私を抱きしめてくれた。


「奈々……ずっと……ずっとずっと一緒だからね」

「うん!」


 そんな私の大好きなお姉ちゃんはある日突然いなくなってしまった。

 ずっとずっと一緒に居てくれると言ってたお姉ちゃんが私を置いて自分から居なくなるワケがない、何かあったんだ……絶対に助けるからね、今度は私がお姉ちゃんを助けるんだ!




「すごーい魔法使いさんがこんな辺鄙な所に何の用なんだ?」

「なーに人捜しをしてるだけさ、この辺りで人間の女の子を見なかった?」

「……人間の少女を探しにここに来たってことかい? アンタが?」

「なんだよ俺が目の前で幼気な少女が泣いててもなんとも思わないようなそんな冷たい人間だと思ってたの? ショック~」


 と落合が戯けてみせるが幹部達の警戒態勢が解けることはない


「で? 見たの見なかったの?」

「誰か、そんな子を見たかい?」


 その言葉に手を挙げる者は居なかった。


「ふーん、嘘じゃなさそうだな」


 落合は相手の心理を読み解く魔法を使うことは好きじゃないので魔法は使わず彼等の表情だけを見て最後の判断を下した。


「らしいぜ? ここの連中の耳にすら入ってないならこの世界には居ないのかもな、君の姉」

「え……? じゃ、じゃ何処に……」


 落合は自分の頭を人差し指でトントンと叩く


「君の頭の中」

「どういう事ですか?」

「君の姉は本当は存在してなくて君の頭の中だけに存在している生き物なんじゃないのか? と言ってるのさ」

「そんなワケないじゃないですか! お姉ちゃんは確かに……!」

「まぁ実は最初から検討はついていた。なぜなら君の話が現実の話ならおかしいのさ本当に君に姉が居たなら俺が君の姉の魔力を察知できないワケない、産まれた時からずっと近くに居たなら確実に君には姉の魔力の残骸が残っているハズ、しかし君にはそれらしいモノは憑いていないということは君の姉は君の頭の中だけに生きてて現実には存在していなかったと見るのが自然だ。君の姉は消えたんじゃなくて最初から居なかった。それが事実」

「イマジナリーフレンドってこと……? そ、そんな……!」


 と名手が震える声で言う


「違うな、ただの妄想の友達じゃない、この事件はそう単純なモノじゃない」

「どういうこと……?」

「単刀直入に言おう、宮部奈々の記憶は何者かによって改変されてるその姉の記憶は何者かによって植え付けられたモノだ。そしてその何者かはここにいる」


 落合は光夜連合の幹部の一人を指差す。


「お前だろ? 一人の人間の少女をこの世界へ誘拐し記憶を改変したのは、クククッココに来たのは確かめたかったからさ、宮部の顔を見て顔色変えるヤツをな」

 

 落合の瞳が怪しく輝く



 

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