第45話 幽霊団地

 落合達の目の前にはオルゴールを持った頭のない人間がいる、身体の形状や服装を見た限りだと女性のようだ。


「えっと……あの、こんにちは」


 オルゴールの女性は何も言葉を返さない


「オルゴールのお姉さんは言葉を話せないんです。でもとっても優しいんですよ」


 と言ってオルゴールの女性に駆け寄っていく奈々

 そんな奈々をオルゴールの女性は撫でた。それを見て名手の警戒心も若干だが溶け始める


「ま、まこまこ……もしかして奈々ちゃんって」

「幽霊だとか妖怪なんじゃないかって? ザンネン普通の人間だよ、なんで普通の人間がこの世界で生活してるのかは知らんがね」

「こういう事って珍しい……珍しいよね?」

「あまり聞かないな、表の人がこの世界に迷い込むこと自体はよくあるが普通は暫くしたら自分から脱出するかこの世界の住民に追い出される」

「奈々ちゃん……どうしてこんな怖い所に……ひっ」


 背後から視線を感じ急ぎ振り返るが何もいない


「クククッあっちも俺達に興味津々なのさ、襲ってくることはないから安心しな」

「う、うん……」


 できる限り落合の近くに近寄る名手

 オルゴールの女性に誘われ薄暗いコンクリート打ちっぱなしの団地の中へと入ってゆく

 エレベーターなどは起動していないようで名手達は薄暗い階段を登り四階へと辿り着いた。

 暫く静かな廊下を歩いていると


「ここが私のお家だよ」


 と言って宮部が立ち止まる


「え? でもここって……」

「女子トイレだな、俺はここに入っても大丈夫なのか?」

「うん、もうトイレとして使われてないから大丈夫!」

「へぇ、そりゃ安心」


 名手たちは四階北女子トイレに入る


「た、ただいま」


 宮部が気まずそうにそう一言

 しかしトイレの中から返答はない


「……」


 トイレに入るのが怖いのか宮部は立ち止まる

 そんな宮部を放っておけない名手はそっと肩に手を置き


「大丈夫、私もいるから、何かあっても護るよ」


 根拠も自信もないがそう言って宮部を勇気づけようと試みる名手

 宮部はまんまと勇気付きトイレの奥へと歩みを再開した。


「ひっ!?」


 と悲鳴を上げたのは名手

 それも当然

 なぜならそのトイレの奥の水色のタイル張りの壁に人が埋まっていたからだ。

 その人は容姿を見る限りでは女性のように映る


「お母さんです」

「……ど、どうも奈々ちゃんの友達の名手梨里っていいます」


 壁に埋まってる女がその不気味な瞳をギョロリと動かし名手を見て埋まってない左手で手招きをする


「わ、私?」

「仲直りさせるんだろ? ま、頑張りな」


 と言って落合が背中をポンと叩く

 後には引けない、名手は足を進めた。

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