第44話 陰の世界

 名手がどれだけ大きな声で泣いていても周りのお客や店員は知らぬ顔、何故なら落合が認知を操作し名手が泣いている事を周りの人間が認知できないようにしているからだった。

 フライドポテトが冷めた頃、ようやく名手は泣き止む


「お姉ちゃん……大丈夫?」

「ごめんね……みっともないよね……」

「そんなことありません! お、お姉ちゃんはかっこよかったです!」

「……ははは、そうかな……?」

「はい!」


 名手は何を言われても今の自分が格好いいなんて思えなかった自分が過去に思い描いていた格好いいとは程遠すぎて

 名手を励まそうとする少女の言葉にただただ力なく微笑む


「君、名前は?」

「は、はい! 宮部みやべ奈々ななって言います」


 名手は時計を見る、針は18時を指していた。


「あ、いけない……もうこんな時間……奈々ちゃんのお父さんとお母さんきっと心配してるよ早く帰らなきゃ……」


 名手の言葉に対して宮部は力なく首を横に振った。


「してないと思います。2人とも、奈々なんてどうでもいいと思ってますから」


 複雑な家庭環境なのだとその奈々の発言を聞いて察する名手


「で、でも……帰ろうよ、ね? きっと心配してるよ」


 帰りたがらない宮部を必死に諭す名手

 その様子を冷めたポテトを頬張りながら眺めている落合


「へぇ、嬢ちゃん……クククッ面白い所からやって来たんだな」

「へ?」

「まこまこ、奈々ちゃんの家が何処にあるのか分かるの?」

「その子の魔力を辿れば簡単に分かる、何処からやって来たのか」

「じゃあ、奈々ちゃんのこと送ってあげてくれないかな? 良ければ私も連れて行ってほしいな」


 宮部と両親の関係が気になる名手はそう落合に提案した。


「その子の親子関係に首突っ込むつもりか? クククッとんでもないお節介焼きの様だな名手」

「……迷惑かな」

「だったらやめるか?」


 宮部の綺麗な瞳をジッと見つめる名手


「でも心配だよ……」

「だったら行くしかねぇな、例えそれが迷惑行為以外の何モノでもなかったとしても、それが名手梨里の生き方なんだから」


 会計を済まし落合は宮部の家があるとある団地まで名手たちと共に転移する

 

「……ここって」


 見覚えのない巨大な団地

 それに何処が違和感を感じる


「こんな真っ暗だってのに何処の部屋にも灯りが灯ってないな、何故だか分かるかね? 名手くん」

「わ、わからないよ……もしかして誰も住んでないの?」

「いいや住んではいる」

「え……」


 オルゴールの音が前方の暗闇から聞こえてきたので慌ててそちらの方へ振り向く名手

 心地よい音色だがなぜだか名手はその音に恐怖心を抱いてしまう

 音が近付いてくる

 ゆっくり

 ゆっくりと

 暗闇の奥からヌラリと影が現れた。

 思わず後退りしてしまう名手

 

「!! ひっ……!」


 その影の正体はオルゴールを持った首のない人間だった。


「安心しろよ、ヤツはお前に危害を加えるような事はしない、見た目は物騒だが中身は温厚なようだ」

「ま、まこまこココなんなの!?」

「魑魅魍魎が跋扈する世界、世間じゃ陰の世界なんて呼ばれてる」

「奈々ちゃんはここに住んでるの!?」

「うん、そうだよ」

「……」

「クククッもう帰るか?」

「い、いくよ、大丈夫だから……!」 

「そうかい」

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