第41話 月が綺麗ですね

 名手は実は学園に忘れ物などはしておらず落合と二人きりで喋って彼が本当に楽しんでくれたのか確かめたかっただけなのだった。

 なので落合と別れた後、すぐに帰路つく名手であったがその途中で子供の泣き声を聞きその足を止める

 病的なまでのお節介さを持つ彼女が放っておける訳もなく慌ててその泣き声の方向へと向かう

 するとそこにはえんえんと泣きじゃくっている1人の少女が居た。

 すかさずその少女に近寄る名手

 名手はその少女の前で目線を合わすタメにしゃがむ


「どうしたの? 迷子になっちゃったのかな?」

「! お、おねえ……」


 嗚咽しながら名手に抱きつく少女


「た、たすけて」

「! な、なにがあったの? こ、これって……」


 傷

 大したモノではないが少女の背中に斬り傷のような傷が一本、服を引き裂き少量であるが赤い血が服に付着している

 

「誰かに襲われてる……!?」


 まだ学園には教師達がいる、彼等の助けを借りようと少女を抱きかかえながら学園に戻ろうとするが

 息遣いが聞こえた。2人のモノではない、知らぬ荒い息遣いが背後から聞こえる


「お、俺のエサ!!!」

「ひっ……」


 何かが名手達に向かって闇の中から飛び出して来た。慌ててそれを避ける名手

 そして走る、一心不乱に


(なに……なんなの!? い、いまの……人……? ち、違う魔獣だ。マズい……私がどうにか出来る相手じゃない)


 逃げなくては

 しかし相手の足は素早く簡単に追いつかれてしまった。

 追跡者は名手に向かってその鋭い爪で斬りかかろうとしたが何かが追跡者に当たって追跡者は吹き飛ぶ

 それは石ころ

 名手が逃げる途中で触っていた石を操作して追跡者にぶつけたのだ。


「ど、どう!? 舐めないで、こ、これでも私、強いんだから!」


 強い言葉を並べなんとか己を奮い立たせようとする名手

 しかし追跡者は何事もなかったかのように立ち上がる


「効いてない……嘘でしょ……?」


 先程までの虚勢は一瞬で萎え足が震え始める

 名手は子供を降ろした。


「き、君は逃げて、この先に学校があるからそこまで逃げるの!」

「お、お姉ちゃん……」

「私がコイツを引きつけるから、その間に……」

「でも……」

「いいから!!」


 相手はこちらより速い、逃げることはできないのだったらこうする他はないと名手は判断した。

 少女は頷いて走って逃げる

 名手は地面に落ちている石ころを両手いっぱいに握ってこちらにゆっくりと向かってくる追跡者に向かって投げつけ、操作魔法で加速させ激突させる

 しかし追跡者は先程の攻撃をウケ学習したのかそれを両手の爪で全て斬り伏せてしまった。


「……え」


 武器もなにも持たない名手の唯一と言っていい攻撃手段が通じないと知り彼女の頭に過る


(死ぬ……?)


 この二文字が


「や、やだやだやだ!! し、しにたくない!」


 少女を逃がした頃にあった威厳は吹き飛び子供のように泣きじゃくりながら追跡者から逃げようとする、最早まともな判断力は残っていない


(しにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくない!!!!)


「たすけてぇ!! だずけてぇ!!!」


 追跡者の腕が振り上げられ

 振り下ろされた――

 そして頭が飛ぶ

 追跡者の


「よぉ! 今日も月が綺麗だな変態くん」


 斑色の瞳を輝かせながらそう男は言った。

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