第40話 夢の喪失

「うー……もうみんな帰っちゃうの?」


 喫茶店での楽しい一時も過ぎ去り、外の光も弱まって来た。


「えぇ、今日は楽しかったわ、ごちそうさまでした。お母様」

「ごちそうさまでした!」


 梨里以外の4人が梨里の母親に向かって頭を下げ礼を述べた後に店を出る


「あ……学校に忘れ物しちゃったなぁ……そうだ! まこまこは寮だよね? だったら一緒に行こ!」


 という事で落合と名手は二人きりで一緒に学園に向かう事になった。


「まこまこ、どうかな? なんとかやってけそ?」

「は、はいぃ……みなさんいい人ですし、こんな僕でもやって行けそうです」


 という落合の言葉を聞いて名手はニコッと笑い


「そっかぁよかった」


 と一言


「私が強引に言って付き合って貰ってたからもしかしたら無理をしてるのかな? って心配してたんだけど楽しんでくれたなら良かったよ」

「いえいえいえいえいえいえ……」

「えへへ、いえいえ多過ぎじゃない?」

「あはは……」

「じゃあ、改めてよろしくねまこまこ」

「は、はい!」


 落合と名手は握手をする


「明日からまこまこには魔法の稽古をつける事になるけど嫌になったら言ってね、別に魔法を上手く使えるようになる必要なんてないんだから」

「え……」

「勝ち負けなんか気にせずエンジョイするのがウチのチームの信条なんだ! だから魔法を上手く扱えなくても楽しめれば問題なし! なのだよ!」

「言ってましたね、勝ち負けは気にしないって、どうしてですか?」

「え?」

「あ、いえ……勝ち負けを気にしないと言っている割には貴方達の戦い方には鍛錬の跡が見て取れるなって思って……」


 突然の落合の鋭い指摘に戸惑いを見せる名手


「そ、そかな? なかなか鋭いねぇ……まこまこ、実はすごーい魔法使いだったりする?」

「い、いえいえいえいえいえいえ……」

「ふふっだから”いえ”が多いって……そうだねちゃんとまこまこにも話して置こうか、昔は私達もあの学園のトップと狙ってた時期はあったんだ。まこまこは知らないと思うけど演習会の上位ランカー達には卒業後あの”クラス”に入れるチャンスが与えられるんだよ、私もそこに入るのが夢だった時期があったんだ。お姉ちゃんと一緒に……」

「……」

「私のお姉ちゃん、実はあの学園でも有名なトップランカーの1人だったんだ。卒業したあと当然みたいにクラスの一員になった。でも……入隊一ヶ月も経たないうちにお姉ちゃんが所属してた部隊がとある魔術師に襲われて壊滅しちゃったの、お姉ちゃんだけはなんとか生き残れたんだけど……お姉ちゃん精神を病んじゃってさ……家から一歩も外に出られなくなっちゃったんだ。家族以外の人と喋る事もできなくて……今は私達と一緒になんとか暮らせてる感じ、あの強くて明るくて誰にでも優しかったあのお姉ちゃんが……」


 名手の瞳が曇る


「クラスに入るという事がどういう事が私達、まったく分かってなかったんだよ、あそこは一歩間違えただけで死ぬ世界……私達が普段やってる演習なんかただのお遊び、あんな軽い気持ちで入ろうとなんてしていいところじゃなかったんだ」

「だから諦めたんですか……?」

「うん、情けないでしょ? お姉ちゃんのあの姿見てビビッちゃったんだ私……」

「……」

「あ、いけないいけない! 湿っぽくなっちゃったね、ごめんねこんな話して、でもまこまこにも知っておいて欲しくてさ」

「学校見えてきましたね」

「あ、私は校舎の方に行くけどまこまこは寮でしょ? だったらここでお別れだね」

「は、はいぃ、今日はありがとう御座いました」

「いえいえいえいえいえいえ、こちらこそまこまこがチームに入ってくれてほんとぉに嬉しい! また明日! またね!」


 と言って名手はとびっきりの笑顔で手を振りながら落合と別れたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る