第26話 家族

 結論から言うと西宮光は彼女の母が流産し死んでしまった子供の名であった。

 両親は光の流産を悲しみ何時しか自分達の頭の中に無事出産されすくすくと育ったという設定の”光”産みだした。

 光の為に一人分多くご飯を作ったり玩具や部屋も用意した。

 同じ屋根の下に住んでいた姫や西宮家の一人娘である西宮陽炎の目を通すと二人は狂っている様に映っていた。

 姫や陽炎は正常な頃の二人に戻って欲しいと想い言葉や行動でなんとか二人を矯正しようとしたが全て無駄に終わった。

 光の部屋にランドセルが置かれた頃に事件が起こった。

 両親の頭の中にしか存在してなかった筈の光が姫と陽炎の目にも映るようになったのだ。

 最初は自分達の正気を疑ったが西宮光は確かに実在のモノとして存在するのだと数日かけて理解した。

 しかしなぜそうなったかは分からない

 なので姫は水野に相談した。


「架空の生き物が実際の生き物に? 興味深い……」

「ヌシの意見を聞きたい」


 水野はオレンジジュースを口に運び喉を潤した後にもう一度口を開いた。


「翳の世界は知ってるな?」


 知ってはいるがなぜその名前が出てくるのか一瞬理解出来なかった。


「ま、まさか、あの光は翳の世界の出身だというのか?」

「妄想を具現化できる方法などあの世界にしかあるまい」


 しかしそれが本当ならばなぜその様なことが起きてしまったのか確かめなければならない

 翳の世界から何かがやってくるなんて今まで一度もなかったことなのだから


「確かめるにしてもあそこへの立ち入りは厳しく禁じられている、お前がファーストクラスといえどもな」

「……だが確かめる必要がある、家族のことなんだ」


 水野にとっての家族は姫や落合たちだったが既に姫は別の家族がいたのだという事を知り心に一寸の痛みを感じながらも水野は光の下へと向かった。

 西宮家の誰にも気付かれることもなく家に侵入し光の寝室に忍び込むことに成長した水野と姫

 水野はしゃがみ込み光を観察するとすぐに彼女が翳の世界の生き物だと判明した。


「……そうか」

「だが誰がどんな理由でこんな事をしたのかまでは分からないな、どうする?」

「……分からん、真相を確かめるため翳の世界に行くべきなのだろうが……」

「その前にこの少女を殺すか? 殺さないか?」


 姫にとってその水野の提案は予想外のモノだったので目を見開き絶句してしまった。


「この光という少女がお前の家族に危害を加えないとも限らない、始末するなら今のうちだぞ」


 光の寝顔を暫く見つめた後、姫は殺さぬという結論を出した。

 

「では、この辺りで私は失礼しようか、この子については私の方でも調べておく、まとな報告が出来るのは何時になるかは分からんが」

「すまんな、世話をかけた」

「気にするな――」


 その後に家族じゃないかと言いかけたがその言葉を水野は飲み込み、立ち去っていった。


 しかし結局翳の世界に行けぬという制限がある状況下で詳しい事が分かる筈もなく時間が過ぎていき、最早、光を傷つけるぐらいであれば真実なぞ追求するべきではないと思い始めた頃だったのだ斑色の瞳をした男が帰ってきたのは


「……」


 話が終わった後も光は何も言葉を発さず、その場にうずくまってしまった。

 光に駆け寄る姫


「なんとなく、分かってたんだ。私、普通の子じゃないんじゃないかってやっぱそうだったんだ」

「……」


 本当の事を話せなくてすまなかったとでも言いたい所だったがそれも自分が罪悪感から逃れる為の自己中心的な言葉としか思えなかったので姫は黙って居ることしか出来なかった。


「姫は悪くないよ」


 そんな姫の気持ちを察したのかの様な発言をする光


「私、偽物だったんだね」

「偽物などではない! お前は!」


 光の力ない声と悲痛な姫の声

 そんな二人が見てられなくなったのか水野は顔を背ける

 その横で落合は二人を真っ直ぐ見つめていた。


「西宮光は彼女の両親の夢としてこの世界に生を受けた。本来であればそのままこの世界の住民として暮らしていた筈、だがそうはならなかった。誰かがこの世界から陽の世界に連れてきたんだ」

「もしそんな人がこの世界にいたんなら即処刑だよ、そんなリスクを負ってまでなんでそんなことをしたんだろうね?」

「さてね、それを今から調べる、なぁお二人さん? 泣くのは後にしよう、ケリをつける時間だ」


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